初心者ハンター澄人①~ハンターとして~

 ハンターになってから2週間が経ち、俺は山の中を全力で走っている。

 足元が悪くて走りづらいが、今日のライフミッションが【山道を進め】というものだったので、夏さんに人があまり来ない山を調べてもらった。

 

(ん? またか?)


 道なき道を走っていたら急に違和感を覚える。

 なぜか俺は境界領域が近くに発生しそうな時に直感が働き、それに従って目を凝らすように探すと宙に漂う青い線を発見してしまう。


 スマホを取り出して夏さんへ連絡を入れようとしたら、緑色の画面が俺の前に現れる。


【ミッション達成】

 境界の狭間を5回発見しました

 貢献ポイントを授与します


 画面を消して、夏さんへ電話をかけると、ワンコール鳴り終らないうちに電話に出てくれた。


「澄人様、どうしましたか?」

「夏さん、境界を見つけました」

「またですか!? GPSでその周辺を調べるので、待っていてくださいね」

「お願いします」


 2人から口酸っぱく言われていることだが、境界領域は無闇に入ってはいけないらしい。

 今のように夏さんへ連絡をして境界のレべルというものを計測し、中の危険度を測ってから入るそうだ。


 電話越しに夏さんのため息が聞こえ、残念そうに俺へ声をかけてくる。


「危険度【C】です。澄人様が1人で入ることは許可できません」

「わかりました。ここから離れればいいんですよね?」

「はい。ハンター協会へ情報を提供するので、できるだけ離れてください」


 電話を切り、境界の線から離れるように再び山道を走り始めた。

 俺の階級では、境界の危険度が【H】か【G】でなければ、1人での突入が認められない。


 これを破った場合は、所属するギルドと俺が罰を受け、ハンター活動を制限されるという。

 ハンター協会へ境界の場所を提供するだけでも、情報料がもらえるというので特に不満を感じることはなかった。


【ミッション達成】

 貢献ポイントを授与します

【ライフミッション:山道を10キロメートル進め】

 成功報酬:貢献ポイント300


 山道を走り続けていたら、また緑色の画面が現れる。

 前のミッションが5キロだったので、次のライフミッションは単純に倍の距離に伸びていた。


 スマホの時計を見たら11時を過ぎていたので、アジトへ向かうために下山を始める。

 電車で数駅離れた場所へ来ていたので、12時過ぎに夏さんとお姉ちゃんが待つアジトがあるビルへ着くことができた。


 エレベーターへ入り、ボタンが並ぶ上部をスライドさせて手を押し付けると、地下に向かって動き出す。

 アジトへ入ると、お姉ちゃんがお昼ご飯を作って待っていてくれた。


「お疲れ様です。澄人様、今日も境界を見つけちゃいましたね」

「澄人、手を洗ってきなさい」


 夏さんも食べずに待っていてくれており、俺に気付くと立ち上がってあいさつをしてくれる。

 お姉ちゃんは料理を持ったお皿をテーブルへ置き、俺へ手を洗うように注意してから椅子へ座った。


 手を洗うついでに汗を吸った服を脱いで、この部屋に置いてある俺の換えの服に着替える。

 昼食を食べ始めると、夏さんが不思議そうに俺へ質問をしてきた。


「澄人様、普通の人は探索器を使わないと年に1回見つけられるかどうかって頻度なんですけど、境界を見つけるコツがあるんですか?」

「違和感……かな?」

「勘だったんですか……」


 夏さんが苦笑いをしながら、食事をしている手を止めて俺を見てきている。

 本当になんとなく気になる場所を調べると青い線があるので、感としか言えない。


 他にもなにか夏さんへ伝えられることがあれば口にしたいのだが、他に見つける助けになっているものが思い当たらない。


「夏、澄人、手が止まっているわよ」


 考えていたら俺も食事をする手を止めてしまっており、お姉ちゃんに注意されてしまった。

 人に作ってもらえる料理に失礼なので、感謝をしながら箸を進める。


 先に食べ終わったお姉ちゃんは、飲み物を口にしながら俺を見てきた。


「澄人、今日は武器の使い方を練習するから、少し休んでから奥の訓練場ね」

「よろしくお願いします」


 ハンターになってから、お姉ちゃんは毎日俺の訓練に付き合ってくれている。

 最初は軽い運動だったが、今では戦闘訓練を行い、体の使い方を徹底的に叩き込まれていた。


 休んでから訓練場へ向かうと、お姉ちゃんが本でしか見たことがない、剣のような武器を持っている。

 日常生活ではまず見かけないもののため、確認のためにお姉ちゃんの持っている物を注意深く見てしまった。


「お姉ちゃん、それは?」

「鉄の剣よ。訓練ならこれくらいの物で十分だからね。そこに澄人の分もあるわ」


 お姉ちゃんの視線の先に目をやると、壁に鞘へ納められている状態の剣が置いてある。

 それを手に取るとずっしりとした重みを感じ、戦うための道具であることを認識した。


「ハンターって銃を使ったりしないの?」

「それは低級のハンターが良く使う武器よ。境界内だとこういう物の方が強いの」

「そ、そうなんだ……」


 両手で剣を持って見つめていたら、正面から風切音が聞こえる。

 その音にハッとして顔を上げると、お姉ちゃんがもう1度剣を振りおろした。


「とりあえず、今みたいに思いっきり剣を振ってみなさい。素振りで剣の感触を覚えましょう」

「う、うん……」


 訓練は夕方まで行い、晩御飯を食べてから帰宅する。

 最近、家で食事をすることがなくなったため、食材を買いに行くことが少なくなった。


「ただいまー」


 玄関に入って、ふと靴箱の上にあるメモ帳を見たら、俺以外の文字が書いてある。

 ここ数日、メモの存在を忘れていたため、いつ書かれたかわからない1文へ目を通した。


【最近なにかあったの?】


 ハンターになったことは草凪家に知られてはいけないようなので、特にないと返事を書く。

 

(そういえば、なんでハンターになっているのがばれたら監禁されるのか聞いてなかったな……明日聞いてみよう)


 荷物を片付けた後、お風呂に入ってから勉強を行い、11時になったので布団へ横になって就寝した。

 翌朝、目が覚めると同時に緑色の画面が表示されたため、今日のミッションを確認する。


【ライフミッション:境界内へ1回入りなさい】

 成功報酬:貢献ポイント100


(俺の力じゃなんともできない……お姉ちゃんへ相談だ)


 朝食を終えた後、朝の7時でお姉ちゃんが起きているのか不安になりながら電話をかけた。

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