澄人の能力⑦~これからの決意~

「嘘……本当に夏が判定を間違えたの?」


 お姉ちゃんは俺の後ろから紙を覗きこんで、驚きの声を上げていた。

 家で上昇させた能力が反映されており、ミッションを達成するだけで強くなれると確信を得る。


(これは2人に伝えた方が良いのかな……)


 事情を知らない夏さんが自信を無くしたように肩を落として、悔しそうに手を握りしめていた。

 お姉ちゃんは俺の持っていた紙とハンター証を並べ、腕を組んで見下ろしている。


「夏、これはどう責任を取るつもり? 澄人は――」

「お姉ちゃん待って! 聞いてほしいことがあるんだ」


 夏さんに冷たい目を向けていたお姉ちゃんが責めるようなことを言い始めたので、その間に入って俺の身に起こっていることを説明することにした。

 話を遮られたお姉ちゃんは不満そうに俺のことを見ており、助けられた夏さんは目を見開いて驚いている。


 俺はおじいちゃんの残してくれた本を読んだことでミッションが現れるようになり、クリアすることで与えられる貢献Pで能力が上げられるようになったことを説明した。


 俺の話を聞き終わった2人は考え込むような表情をしており、お姉ちゃんは夏さんへ顔を向ける。


「夏、澄人が言っていることを信じようかと思うんだけど、どう思う?」

「正澄様なら、澄人様にそういうことができるようになるものを残すかもしれないけど、他に聞いたことがない……けど、私も信じる」

「澄人、もう少し詳しく教えてもらってもいい? 後、ハンター登録をしたいから、これを読んでから名前を書いてくれる?」


 2人は当たり前のように俺の話を受け入れてくれており、お姉ちゃんはボードを渡してくれた。

 そこに挟まれていたハンター登録書と書かれた紙に目を通していたら、お姉ちゃんが話しかけてくる。


「澄人、明日から私と境界内で戦う訓練をするから、毎朝9時にここへ来なさい」

「ライフミッションを達成したいから、できれば午後がいいんだけど」

「毎日出るミッションってやつよね? それなら、これからお昼はここで食べなさい」

「いいの? 助かるけど……」

「力の使い方を知らないと貴方が生き残れないから、これからは付きっきりで鍛えるわよ」


 お姉ちゃんが笑顔で俺へ戦い方を教えると宣言していた。

 名前の記入が終わった用紙を受け取ったお姉ちゃんは、作業を行うために奥へ行ってしまう。


 夏さんは俺の横に座り、テーブルに置いてあるハンター証を渡してきた。


「澄人様、先ほども言いましたが、ステータスの再計測は神格が上がった時のみ行われます。なので、私以外にはステータスを計測させないでください」

「どうしてですか?」

「澄人様の能力を隠すためです。おそらく、世界で唯一モンスターを倒すこと以外でステータスが上がるハンターになります。それが草凪家の人間にばれた場合、監禁されるかもしれません」

「え? ……どういうこと?」

「現在の草凪家に澄人様以外に、【澄】の字を継ぐ者がいないからです」


 俺は夏さんの話を聞きながら、両親の名前を思い出そうとした。

 しかし、霞かかったように顔や名前、声さえも忘れていることに気がつく。


 それでも何か1つでも両親について覚えていないのか記憶を探っていると、弾かれたように目の前が真っ白になった。

 頭痛が俺を襲い、耐えがたい痛みに両手で頭を抱えてしまう。


「澄人様!?」


 夏さんが椅子から崩れ落ちそうな俺の体を支え、必死に呼びかけてくれている。

 異常を察したお姉ちゃんも部屋の奥から戻ってきて、【緑色】の飲み物を俺へ渡してきた。


 お茶かと思いながら口に含むと薬のような味がして不味く、吐こうとしたらお姉ちゃんが口を塞いできた。


「体力や痛みを回復させてくれる飲み物だから、吐かずに飲み込みなさい」


 薬の味が口中に広がり、その液体を飲むことに集中したら頭痛が収まる。

 夏さんが俺の背中をさすりながら、お姉ちゃんへ苦言を呈していた。


「初めての人に忠告なしに回復薬を飲ませますか?」

「痛くて苦しそうだったじゃない。それに、澄人も治ったみたいよ」


 お姉ちゃんは持っている瓶をテーブルに置いてから、腰に手を当てる。


「澄人、今日はもう遅いし、疲れているみたいだから帰りなさい。送るわ」


 喉が薬漬けで声が出せないので、うなずくだけの返事をする。

 俺の様子を見て夏さんがさらにお姉ちゃんをにらみ、無言で文句を伝えていた。


 お姉ちゃんと一緒に家に帰っている最中、俺のことを気遣ってなのか会話することはなかった。

 そして、家に着いた時、ようやくお姉ちゃんが口を開く。


「澄人、貴方は強くなれないと自分の道を自分で決められなくなったわ」

「うん……でも、強くなったら自由に決められるんでしょ?」

「また明日ね。待っているから」

「お姉ちゃん、おやすみ」


 お姉ちゃんは俺が家に入るまで手を振ってくれており、扉を閉めるまで笑顔を向けていてくれた。

 部屋に入ると、緊張の糸がほどけたようにどっと疲労が体を襲う。


(今日は疲れた……もう寝よう……)


 体を引きずるようになんとか布団にたどり着き、倒れるように布団へ入る。

 俺は寝る前に天井を見つめて、これからのことに思いをはせた。


(この俺だけの能力を使って、必ず自由を手に入れてやる)


【シークレットミッション達成】

 ハンターになることができました

 達成記念として【スキル:精霊召喚(土)】を獲得しました

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