澄人の能力⑥~ステータス再計測~

 昼間、お姉ちゃんと一緒に歩いて40分ほどかかった道のりを、5分もかからないうちに着いてしまった。


(これがステータスを上昇させたことによる速さと体力……これは確かに悪用されないように監視が必要だ)


 この距離を走り切っても息が乱れず、額に汗をかいているだけだ。

 ビルへ入ってエレベーターに近づくと、中から寝る前のようにラフな格好をしたお姉ちゃんが出てきた。


「澄人、もう来たの? もしかして、近くにいた?」

「家から走ってきたよ」

「……え? 嘘……澄人、冗談よね?」


 俺の言葉を疑うように聞いてきていたので、お姉ちゃんの手をつかみ、気持ちを伝えるために目を見つめる。


「お姉ちゃん、夏さんにもう1度能力を測ってもらいたいんだ」

「い、いいけど、夏が慎重に測ったものだから本当に変わらないと思うし、ハンター証は神格が上がらない限り更新できないわよ」


 お姉ちゃんは少し耳を赤くしながらはっきりとした口調で話していた。

 それでも、俺は家で行ったステータス上昇の効果が本当に現れているのか確かめるために測ってもらいたい。


(ステータスが上昇していれば、貢献Pを貯めるだけで神格さえも上げることができる)


 今回は俺自身も半信半疑だったため、能力を万遍なく上げたが、10000Pを使用すれば神格の数値も上げることができる。

 その確信を持ちたいと思い、ここへ来ていた。


「それでもいいから、お願いできない?」


 俺はお姉ちゃんから目を離さずに頼むと、肩をすくめて苦笑いをされた。


「わかったわ。もう1度測りましょう。それで納得するんでしょ?」

「ありがとう!」


 俺はお姉ちゃんから手を離して、無理を言って困らせてしまっているので頭を下げる。

 再びビルの地下にあるアジトへ足を踏み入れた。


 そこではパジャマに身を包んだ夏さんがステータスを計測する装置の準備を終えて、不満そうに口をとがらせている。


「澄人様、私は間違えないので変わりませんよ。それでもいいんですか?」

「もちろん。夏さんならちゃんと計測してくれると思ったから来たんだ」


 俺は前回と同様に計測器に腕を入れると、夏さんが悲しそうな顔で見下ろしてきた。


「……ならしなくてもいいじゃないですか……私のことを信じられていないんですよね?」

「そうじゃないんです。夏さん、本当にもう1度測ってみてください。違う結果になると思うので、確認をしたいんです」

「……結果が同じだったら、ハンター証を受け取ってください。それが再計測をする条件です」


 夏さんは涙をこぼしそうになりながら俺へハンター証を渡してきた。

 そのハンター証にはすべての項目でGと判定されている俺の能力値が刻印されており、受け取りながら力強くうなずく。


「わかりました。結果が同じならハンターになります」


 俺の返事を聞いて、夏さんは涙をこらえながら渋々作業を開始した。

 一部始終を見ていたお姉ちゃんは不安そうに俺へ近づいて、夏さんに聞こえないように耳打ちをしてくる。


「あんな約束をしてよかったの?」

「うん。結果がどうであれ、ハンターになるつもりで来たんだ」

「え? そうなの? それなら、判定の後に手続きをするから、準備をしてくるわ」


 お姉ちゃんは俺の背中を何度か軽く叩き、上機嫌で部屋の奥へ向かっていった。

 その後姿を眺めながら、俺は自分の考えていたことを思い出す。


(草凪家の人から監視され続けるのは嫌だ。それなら、少しでも希望のあるハンターになった方がましだ)


 1日のライフミッションで1000P程度の貢献ポイントが稼げるので、数か月確実にこなすことができれば、能力値だけは自由になれるビショップ級へ上げることができる。


(そのためならなんだって・・・・・やってやる! 俺は自由に生きたいんだ!)


 俺が決意をした瞬間、「お前の気持ちを受け取った」と聞こえたような気がしたが、本当に微かな声だったので、幻聴かもしれないかと首をかしげてしまう。

 そんなことをしていたら、お姉ちゃんがボードのようなものを持って鼻歌を口ずさみながら戻ってくる。


「夏―? もう終わった?」

「ちょっと黙っていてください!!」


 小柄な夏さんがお姉ちゃんの言葉に対して、苛立つように声を張り上げていた。

 その表情は信じられないものを見るような顔で、何度も画面や紙に目を通している。


 やがて、夏さんはお風呂上りでほんのりしっとりとしている髪の毛をかき乱し、机の上に突っ伏した。

 お姉ちゃんはその様子が尋常ではないことを察し、ボードを近くのテーブルに置いて夏さんへ駆け寄る。


 俺は腕が拘束されたまま動けないので、その光景を眺めることしかできない。

 2人が何か話をした後、夏さんが力なく立ち上がり、フラフラと俺へ近づいてきた。


「申し訳ありません澄人様……間違えて計測をしてしまったようです……取り返しのつかないことをしてなんとお詫びを――」

「夏さん、そんなことはいいんだ。それより、腕を離してもらえないかな?」


 声を震わせながら俺へ謝ろうとする夏さんを止めて、計測機器から腕を解放してもらった。

 打ちひしがれている夏さんは持っていた紙を俺へ差し出してきた。


「……これが本当の澄人様の能力値になります」

「ありがとう」


 受け取った紙に書いてある能力値を読んで、俺は自分の行ってきたことに確証を持つことができた。


【名 前】 草凪澄人

【ランク】 ポーン級

【神 格】 1/1

【体 力】 150

【魔 力】 250

【攻撃力】 E

【耐久力】 F

【素早さ】 E

【知 力】 D

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る