澄人の能力④~精霊召喚~
お姉ちゃんが喜んでいる横で、夏さんは更に厳しい表情になって、俺のことを見てくる。
「澄人様、疑うようで申し訳ありません。本当にそれは精霊ですか? 簡単な命令しかできない【妖精】ではありませんか?」
「えぇっと……」
とても早口になった夏さんは、お姉ちゃんを押しのけて俺の前に立つ。
俺は自分の力で呼べるか不安なため、自信を持って答えることができず、口ごもってしまった。
「呼んでみてください。私が見れば、どっちなのか簡単に鑑定できます」
夏さんはなぜか鼻息を荒くしており、有無を言わせない迫力で俺のことを見上げていた。
しかし、希望を叶えてあげたくても、俺はその方法を知らない。
「そうしたいんだけど……呼び方教えてもらっていいかな? 洞窟の時は勝手に出てきたんだ……」
「勝手に!? ……方法は人によって違いますが、主に魔力を捧げ、命じることで召喚をしているようです」
洞窟の時に出た炎の塊にも言われた、【魔力を捧げる】という行為が俺にはとても難しい。
さあ早くと夏さんが息巻いており、魔力の存在について聞ける様子ではなかった。
(どうしろっていうんだよ……)
諦めて手のひらを見ながら、炎の塊に力を抜かれたような感覚になったことを思い出す。
その抜けたものが分かればできそうだが、いくら手を見つめてもそのような力が集まる気配がない。
「澄人、目を閉じて、大きく息を吸って」
「お姉ちゃん!?」
俺ができないのを察したのか、お姉ちゃんが背後から抱き付くように両手をまわして俺の手首を優しくつかんできた。
お姉ちゃんの髪から甘い香りを感じ、心臓の鼓動が高鳴ってくる。
「私のつかんだ手に集中して」
「う、うん……」
顔が火照ってしまい、恥ずかしくなってきたので止めようとしたら、お姉ちゃんは張りつめた声で注意をしてきた。
雑念を振り払うようにお姉ちゃんのつかんでいる手首に集中すると、今まで感じることができなかった熱いモノが俺へ注ぎ込まれている。
「澄人、わかる?」
「熱いものが手首に流れ込んできているけど、これは……」
「これが【魔力】よ。次は手のひらに集めるイメージでまとめてみなさい」
「まとめる……」
お姉ちゃんから流れ込んできて、どこかへ飛散しているものを俺の手のひらに留めることを考える。
すると、熱が手のひらに移動して、みるみる大きくなっていった。
「これから私と同じように声を出しなさい。できるよね?」
「わ、わかった」
お姉ちゃんは俺の耳元でささやくように声を出しており、これから起こることに期待をしているようだ。
「姿を現せ、火の力を持つものよ」
俺は全神経を耳に集中し、お姉ちゃんの言葉をそのまま口にしようとした。
だが、洞窟の時のように俺の脳裏へ体験したことのない記憶が呼び起される。
『精霊っていうのは、誰が呼んでいるのかはっきりさせないといけない。それに、自前の魔力じゃないと気分を損ねて出てきてくれないんだ。召喚するときには――』
手のひらに集まっている魔力は、ほとんどがお姉ちゃんから流されてきたモノなので【使ってはいけない】。
(このまま召喚しても火の精霊は現れない)
俺の手のひらに集まっている魔力を解放すると、後ろにいたお姉ちゃんが困ったように声を出す。
「澄人、なにをしているの? 魔力がないと精霊は呼べないわよ」
「俺の魔力だけで呼ばないといけないんだ。お姉ちゃん、手を離してもらってもいいかな?」
「……わかったわ。あなたのやり方でやってみてくれる?」
お姉ちゃんが怪訝そうな顔をしながら手を離して、腕を胸の前で組んで夏さんの横に立つ。
2人に見られながら、お姉ちゃんに教えてもらった感覚を頼りに、右手へ魔力を集める。
先ほどの量ではないが、ほのかに手のひらが暖かくなったような気がしてきた。
そして、先ほど教えてもらった召喚する時の言葉を口にする。
「草凪澄人が命じる! 火の精霊よ、姿を現せ!!」
俺が言い終わるとポンッと音とともに白い煙が手のひらからあがり、小指ほどの小さな火が現れた。
洞窟で見た時よりも形が落ち着いており、ろうそくにつけられた火のように揺らめいている。
「本当に出た……」
召喚した俺が一番驚き、ゲームのように魔法が使える自分に戸惑いを覚えてしまった。
お姉ちゃんと夏さんは俺が出した火を注意深く眺める。
「呼び出してくれてありがとう。方法を思い出したのかな?」
小さな火から明るい女の子のようなかわいい声が聞こえてきた。
お姉ちゃんや夏さんは精霊の声を初めて聞くのか、目を点にして火を見つめる。
俺は洞窟内で聞いた声と同じだったので、助けてもらったお礼を伝えるために口を開く。
「この前は助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。魔力を全部使っちゃったけど、あの後大丈夫だった?」
小さな妖精はゆらゆらと近づいてきて、心配するように俺の全身を観察するように浮遊する。
「まあ……なんとか……それで、召喚方法を練習してみたんだけど、どうかな?」
「魔力が全然足りないよ。あ、もうそろそろ魔力が切れそうだから、帰るね」
「出てきてくれてありがとう。またよろしくね」
出てきてくれたお礼を言っている最中に火の精霊は消えてしまい、俺の全身に脱力感が広がる。
ちょっと立っていられなくなったので、椅子へ腰かけた。
「澄人……あなた……」
お姉ちゃんが倒れるように椅子へ座り込んだ俺の肩に手を置いてくる。
声を出すのもしんどいが、俺は夏さんに今のが精霊なのか妖精なのか判断をしてもらいたい。
「夏さん、今のは精霊? それとも妖精?」
「確実に精霊です。澄人様は、口上ではっきり【火の精霊】と言って召喚に成功しました。それに、妖精ではあんな風に意志の疎通が図れません」
夏さんがまたも興奮しながら早口で解説をしてくれたが、言い終わったらいきなりその場へしゃがみこみ、口を両手で覆ったまま動かなくなった。
その姿を見たお姉ちゃんはため息をついて、俺の目を見てくる。
「澄人、ごめんなさい。この子、こうやって考え込む癖があって、しばらく自分の世界に入っちゃうの……」
「ものすごい集中力だね……」
夏さんは床の1点を見つめたまま、何かを呟いているのか、口を覆っている手が微動していた。
いつものことなのか、お姉ちゃんは夏さんをそのままにして、俺と向かい合うように椅子へ座る。
「最後に確認することがあるんだけど、貴方がハンターにならないって選択もあるの」
「え?」
俺は最後にお姉ちゃんから聞かされた話を何度も頭の中で繰り返しながら家に帰った。
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