澄人の能力③~ハンター証~

「なにこれ……ゲーム?」


 体力や攻撃力といった項目が並んでおり、これ以上どう反応していいかわからない。

 自信満々に俺へ見せつけている夏さんの笑顔を見て、よく分からないままお礼を言いそうになった。


「それなら……よかったんだけどね」


 お姉ちゃんは夏さんが俺へ差し出していたハンター証をテーブルに置き、説明を続けてくれるようだ。

 

「領域内で澄人が会った奴らは【モンスター】と呼ばれる生命体で、倒し続けると神格が上昇するの」


 少しほっとしながら耳を傾けたが、信じられないような内容を聞かされたため、もう最後にうそでしたと言われてもしょうがないと思いながら、自分の知っている限りの知識で話を進める。


「それってレベルアップっていうやつでしょ? でも、俺にはこれが何を表しているのか分からないんだけど……」

「いきなり見せられても困るわよね。夏、澄人用に用意をした資料がどこかにあったわよね?」

「はい。えーっと……」


 お姉ちゃんに話をふられた夏さんは、別のテーブルの上へ無造作に置かれている資料の散らかっている中から数枚の紙を手に取った。

 それを俺へ渡してくるので、受け取って書かれている内容に目を通す。


カード記載内容一覧

【ランク】:現在のハンターランク(別表1参照)

【神 格】:現在の神格/神格の限界

【体 力】:健康状態や、疲労に耐える耐久度

【魔 力】:スキルや魔法を使用するために必要

【攻撃力】:力の強さ

【耐久力】:丈夫さや持久力

【素早さ】:俊敏性など

【知 力】:魔法の攻撃力に影響


(頭が痛くなってきた……この人たちは俺へなにを説明しているんだろう)


 渡された紙には、本当に俺が知っているようなゲームに似た内容の説明が書かれており、全部を目に通して紙をクシャっと丸めてしまいそうになった。


「澄人様、分かりにくかったですか?」

「……いいえ。よくわかりました」

「本当ですか!? よかったです」


 ただ、夏さんが俺の言葉で本当に喜んでくれている。

 その姿を見ていたら感情を抑えることができたため、手に持っている紙を丸めることなくハンター証の横へ置いた。


(これが演技なら、俺はこれから人を心から信じることができなくなりそうだ……)


 お姉ちゃんが話を続けようとしてきたので、2人を信じるために質問をすることにした。


「あの洞窟にはお姉ちゃんも入ったよね? ハンター証を見せてもらうことってできる?」

「私の? いいけど……」


 意外そうな顔をしつつも、お姉ちゃんは腰に着けているポーチへ手を入れてくれた。


(今までの話が本当なら、あの洞窟――境界に入ったお姉ちゃんも、ハンター証を持っているはずだ)


 こんな部屋を用意するくらいなので、ハンター証を作るくらい簡単なのかもしれないが、そこまで手が込んでいるのなら、洞窟で体験したことなどを踏まえて、俺は本気で今までの話を受け入れようと思っている。


「はい、これが私のハンター証よ」

「ありがとう」


 お姉ちゃんは軽く微笑みながら俺へハンター証を渡してくれた。

 カードへ視線を落とすと、そのハンター証は確かにお姉ちゃんのものだった。


【名 前】 草壁澄香

【ランク】 ルーク級

【神 格】 5/7

【体 力】 35000

【魔 力】 6000

【攻撃力】 B

【耐久力】 C

【素早さ】 B

【知 力】 D


 ただ、表示されている数字や文字が俺のとはだいぶ違うため、ハンター証をお姉ちゃんへ返して質問を続けた。


「ランクとか表示されていることが俺のとは全然違うね」

「神格が上がれば能力が上昇して、それに合ったランクになるんだけど……」


 聞かれたくなかったことなのか、お姉ちゃんはその質問に対して、初めて答えにくそうに顔を俺から背ける。

 そして、なぜか目元を拭うようなしぐさを行い、再び俺の方を向いた時には目がほんのりと赤くしていた。


「澄人は……どんなにモンスターを倒しても神格が上がらないから、能力が“G”のままなの……」


 とても辛そうにその言葉を口にしたお姉ちゃんは、堪えられずに涙をこぼしている。

 おそらく能力がGというのはハンターの基準では低く、目も当てられないのだろう。


(お姉ちゃんはそのことを俺の告げるのが辛いんだ……)


 俺がお姉ちゃんの様子を見て、自分の能力を自己判断してしまう。

 その時、右手を口に添えたまま黙っていた夏さんが急に立ち上がった。


「澄人様。なにか特別なスキルか魔法は使えますか?」

「特別かどうかはわからないけど……1つだけ心当たりがあります」


 俺ができることは、スライムから助けてくれた【火の精霊】を呼ぶことくらいだ。

 しかし、いつでも呼んでと言ってはくれているものの、その方法はわかっていない。


 そんなことをかまうことなく、夏さんは興味深そうに俺を見てきていた。


「どんなことか教えていただいてもよろしいですか?」

「火の精霊が呼べる……と思います」

「……はい?」


 今まで何かを考えるように真剣な表情を向けてくれていた夏さんは、俺の言葉をあきれたように口を開けたまま呆然と立ちつくしてしまう。


(やっぱり言うべきではなかったのか……)


 ぽかんとしている2人の様子を見て、数秒前の自分を止めたくなった。

 どうしようもできない空気がこの場を流れる中、お姉ちゃんが眉をひそめながら勢いよく俺につめ寄ってくる。


 ふざけすぎて怒られると思って目を閉じると、力強く手をにぎられた。


「本当なの澄人!? 精霊召喚は【Sランク】のスキルよ!!」


 目を開くと、お姉ちゃんが嬉しそうによかったと言いながら俺の手をにぎったまま上下に振っていた。

 俺は予想とは逆の反応をされたため、非常に困ってしまった。

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