澄人の能力②~姉の話~
「まず、私たちは草凪に生まれた【澄】の字の方を支えるためにここにいるのよ」
「すみの字?」
「そう……すみわたるの澄み。草凪家初代当主である【
真剣に話をするお姉ちゃんは決してふざけてこんなことを言っていないと信じたい。
しかし、俺に歴代当主が継承するという文字が使われているにもかかわらず、あのように家族から引き離された生活をしている意味を考えた。
(ああ、そうか……
お姉ちゃんの言っていることを信じ、俺の予想を含めて話を続ける。
「だから、お姉ちゃんは澄香っていう名前だけど、香の文字だけで呼ばれているの?」
「大体そうよ」
「なら、俺も【じん】とか【にん】って呼ばれる?」
「それは――」
「澄人様は澄人様のままです!!」
戻ってきた夏澄さんが大きな声を出しながら持ってきた機材を乱暴にテーブルへ置き、ドンッという音が鳴る。
高価な物なのか、お姉ちゃんがあっと口を開いて思わず心配するように機材へ手をそえていた。
そのまま夏澄さんはその場にひざまずき、俺のことを見上げながら優しく手を握ってくる。
「澄人様は現在の草凪家で、正澄様から唯一澄の字を継承された御方です。それを名乗らないなんてことはありえません」
「そ、そうなの?」
「はい! そうです! ……それをあの恩知らずども……神格の器が1だからって理由だけで追放するような真似をするなんて……」
大きな声で肯定をした後、夏澄さんは握っている手に力を込めてきて、なんだかぶつぶつとつぶやいていた。
その様子を見たお姉ちゃんが夏澄さんの頭を軽くはたく。
パァンっという音が響き、夏澄さんは俺から手を放して痛そうに頭を抱えている。
「かおりさん、いつもより叩く威力が強くないですか?」
「澄人の手が真っ赤よ。握りすぎ」
「え!? ああっ!! 澄人様、申し訳ありません」
夏澄さんが仰々しく俺へ謝ってくるので、特に痛みはないので気にしないでもらいたい。
「夏澄さん、俺なら大丈夫ですよ」
「よかったです……あと、私のことは、“なつ”と呼んでください」
夏澄さんがすがるような上目づかいで俺のことをじっと見つめているため、恥ずかしくなってくる。
根負けをして目をそらしながら、夏澄さんの望んでいることを口にした。
「……なつ……さん」
「はいっ!」
夏さんの名前を呼ぶと、静かに立ち上がって笑顔で俺のことを眺めていた。
その瞳は優しさを帯びており、心の底から嬉しそうな表情が見て取れる。
機材を確認していたお姉ちゃんは夏さんの横顔を見て微笑み、腰に手をそえた。
「なつー? そろそろ、作業を始めて欲しいんだけど」
「は、はい!」
お姉ちゃんの声で、夏さんが焦るようにテーブルに置いた機材の操作を始める。
機材は腕を入れる血圧計のような形をしているが、ひじから先が覆われており、周囲にある様々な機器と繋がっていた。
「澄人様、ここへ手のひらが上になるように腕を入れていただけますか?」
「……これに?」
「必要なことなので、お願いします」
「わかりました」
妙な機械へ腕を入れるのに抵抗を感じ、助けを求めるようにお姉ちゃんを見ても、腕を組んだまま機器から目を離さない。
ふーっと息を吐いてから、恐る恐る腕を入れる。
「固定します。痛かったら言ってください」
夏さんは別のところにある画面を見つめながら声をかけてきた。
俺の腕はすっぽりと機械に覆われ、内部が膨れて腕が動かせなくなる。
電子音のようなものが聞こえ始めると、お姉ちゃんが俺のそばに座った。
「澄人がこの前入った洞窟のことは覚えている?」
「覚えているよ……ドロドロした液体の塊が地面を溶かしてきた」
「あそこは【
境界領域という単語を耳にするのは2度目だが、学校の図書館で調べても、複数の学問分野に関する知識を求められるようなものと書いてあったため、あの洞窟のことを指すとは思えなかった。
また、初めて聞く、【ハンター】は【なる】というニュアンスから、職業や役割といったものと考えられる。
(普通じゃないことだけは確かだ……あの火の精霊というのも気になる……)
「澄人?」
固定されていない方の手で口を覆い、考え込んでしまっていたら、お姉ちゃんが不安そうに俺の顔を覗きこんできた。
「澄人様! ハンター証ができました!」
大丈夫と返事をしようとしたら、夏さんが俺とお姉ちゃんの間に割り込む。
俺は夏さんが手にしていたカードのような形をしているハンター証と呼ばれるものへ目を奪われた。
【名 前】 草凪澄人
【ランク】 ポーン級
【神 格】 1/1
【体 力】 50
【魔 力】 50
【攻撃力】 G
【耐久力】 G
【素早さ】 G
【知 力】 G
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます