序章④~ミッションスタート~
次の日、俺は朝早くから家を出て、ランニングを行いながらすれ違う人へあいさつを行っている。
休日に散歩をしていると、ランニングをしている人同士が軽くあいさつをしているのを見たことがあるので、真似をしてみた。
(後1回で10回が終わるけど、どうなるんだ?)
わくわくしながら走っていると、ウォーキングをしている年上の女性がこちらへ向かってきていたので、すれ違いざまに軽くあいさつをした。
「おはようございます」
「おはようございます?」
その女性はなんでされたのかわからないような顔で俺のことを見てきたため、逃げるように速度を上げる。
それと同時に、昨日の夜に見た画面が再び俺の前に現れる。
【ミッション達成】
貢献ポイントを授与します
初ミッション達成記念として、【スキル:精霊召喚(火)】を獲得しました
(貢献ポイント? スキル?)
なんだかまたも良く分からない単語が出てきたので、立ち止まって画面を凝視する。
体育でしか運動をしてこなかったので、息が切れて呼吸が荒くなっていた。
(頭に酸素が回っていないからわからないだけで、きっと落ち着けば大丈夫)
深く息を吸ったり吐いたりして呼吸を整えようとしたら、緑色の画面が切り替わってしまう。
【ライフミッション:あいさつを30回行いなさい】
成功報酬:貢献ポイント300
注意:1人に対して1回のみカウントされます
「は?」
俺が思わず声に出してしまうと、周りにいる人が不審者を見るように俺のことを横目で見てきたので、膝に手をついて思い切り息をはいて、疲れているふりをした。
ミッションという文字は俺の顔を追いかけてきて、ずっと見せつけるように表示されていた。
(終わんないのかよ! こうなったら、消えるまでやってやる!!)
周りの人には画面が見えていないのか、俺の前に表示されているものには一切興味を示さない。
走り始めると、画面があまりにうっとうしいので、払うように手を動かしたら俺の前から消えた。
(いったい何なんだよ……読んでいた本は消えているし、意味がわからない)
祖父からもらった本は跡形もなく消えており、どこを探しても見つけることができずにいた。
起きたら画面が消えていたので、夢かと思って普段通りに過ごそうとした瞬間、ミッションという文字が俺の前に現れた時に、自分の正気を疑う羽目になった。
【ミッション達成】
貢献ポイントを授与します
朝から走り始め、夏の暑さで体が悲鳴を上げ始めた頃、ようやく30回の挨拶を終えることができた。
気温が上がり始める中、休憩をしなかったために息が激しく乱れ、達成したという画面を殴りつけるように消して近くの自販機を探す。
冷たい飲み物を購入しようと、財布を取り出した時、俺は自分の眉間を指で抑える。
【ライフミッション:あいさつを100回行いなさい】
成功報酬:貢献ポイント500
注意:1人に対して1回のみカウントされます
もう見たくもない画面を振り払って、購入した飲み物を飲みながら日陰に移動した。
歩きながら周りを見たら、いつの間にか新幹線の駅前まで走ってきており、家から5キロ以上離れた場所にきてしまっている。
(帰りはゆっくり歩いて帰ろう……)
これ以上走ったら倒れると思い、ジョギング作戦を中止して家に帰ろうとした。
その時、駅の方向から聞き覚えのあるような声が聞こえてくる。
「おはようございます! 自然災害で被害に遭われた方へ募金をお願いします!」
募金をお願いしますという旗の近くで、うちの中学校の制服を着た生徒が箱のようなものを持っていた。
(もしかして、あれはうちの学校のボランティア部か? ……良いことを思い付いた)
箱を持っている人の中から同じクラスの人へ声をかけて、手伝わせてもらうことにする。
その後ろにはしんどそうに声をかける気がまったくない生徒も見えるので、断られることはないと思われる。
(これなら自然にあいさつが行えるし、人通りも多いからすぐに終わる!)
俺が声をかけたクラスメイトは快く手伝うことを了承してくれて、炎天下で疲れていた他の生徒から箱を受け取り、あいさつ運動兼募金活動を始めた。
しかし、100回が終わっても300回、500回とあいさつの数は増え、とうとう999回のミッションが現れる。
こうなれば俺も意地になり、募金箱を両手で抱えながらあいさつを行い、12時になる直前に999回のミッションを達成する。
それからしばらくしても追加のミッションが現れないので、疲れを忘れて募金活動を行う。
12時で募金活動を終えると言われたので、箱をクラスメイトへ渡して家に帰ることにした。
帰る時に数人の人からお礼を言われて、後日打ち上げをするからと電話番号を聞かれたが、スマホを持っていないので、ていねいに断った。
(スマホ……あった方がいいのかな?)
特に連絡する特定の相手がいないため、必要性を感じていない。
同級生は保護者に連絡をするために持っていると聞いているが、俺の場合はあのメモ帳だけあれば事足りるので他に必要がない。
(過去に何度も連絡先を教えてほしいと言われて、家の電話番号を言ったら、微妙な顔をされたんだよな……)
駅から1時間ほど歩いたら家に着き、昼食を食べ終え、食器を片付ける。
一息ついて、勉強をしようと椅子へ座った。
【期間限定ミッション:6時間以内に街を散策して違和感を覚える場所を探しなさい】
成功報酬:貢献ポイント2000
失敗条件:時間経過
あいさつの時とは違い、今回のミッションはどこで何をするのか決められており、時間まで指定されている。
それに、期間限定と魅力的な言葉が並んでいるので、もう少しだけこのミッションというものと付き合うことにした。
(違和感って言われてもな……とりあえず、街を歩こう)
汗を充分にすった服を脱ぎ、適当なTシャツへ袖を通す。
日差しが強い中を散策すると熱中症になりそうなので、今よりましな17時以降に家を出ることにした。
(今、外を出歩いても2時間持ちそうな気がしない……)
時計は14時30分を指していたので、17時に家を出ても3時間半も探索が行える。
それまでの時間を勉強の時間にあてることにする。
参考書とノートを取り出して問題を解き始めると、昔のことを思い出す。
(なぜあの本を見るまで祖父のことを忘れていたんだろう?)
記憶力には自信があるのに、なぜか祖父に関することをすべて忘れていた。
また、他にも俺が忘れていることがある気がしてならない。
そんなことを考えながら問題を解いていたら、手が止まってしまっていたので、雑念を振り払って勉強を続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます