新種「月植物」について、発見者の兎原岳人が語る

棚霧書生

新種「月植物」について、発見者の兎原岳人が語る

“月植物(ツキショクブツ)とは月の光を栄養とする植物の種類である”

 ほとんどの植物は太陽に向かって伸びます。太陽光を浴びることで光合成をし、成長するエネルギーを得ているからです。

 それと同じように月植物は月の光で光合成を行います。既存の植物概念と一線を画するのは、太陽光では光合成が起こらず、月光のみを光合成の元としているところです。月植物についての細かい定義はあるのですが、とりあえず、月の光を栄養とする植物の一種だと思って頂ければ、大丈夫です。


“月植物発見は、予期せぬトラブルから”

 夜になると元気になる植物があるぞ、というのは昔から言われていたことなのですが、そこにしっかりと着目して、腰を据えて研究しようとする人はいませんでした。かく言う私も、月植物ではなく別の研究をしていましたし、怖がりなもんで、暗い夜に外に出るのはあまり好きじゃないんですよ(笑)。

 そんな私が月植物を発見することになったのは、ある研究生の“おかげ”といいますか、“せい”といいますか……。

 私が持っている研究室の所属メンバーと研修と慰安旅行を兼ねて山登りをしたんです。頂上付近のロッジを借りて、二泊三日の予定でした。大学の一年生、二年生も参加していたので、酒の持ち込みは禁止ということにしたのですが、まあ、一人だけ破ったやつが居たんです。それだけならまだ良かったんですが、自分で酒を持ち込んだ挙げ句、下級生に良い格好見せたくてガバガバ酒を飲んだらしいんですよ。

 その酒を飲んだ子と同室だった子が真夜中に血相を変えて、私の部屋にやって来まして、話を聞くとどうやら、酒を飲みすぎて体調を崩したようだと。あのときは怒りやら心配やらの感情がごちゃまぜになりましたね。結局、酒をしこたま飲んだ子を病院に連れて行くことになって、救急車が入れる場所までその子を連れて下山することになったんです。

 そのときですよ、私が月植物と思わしきものを目にしたのは。山林の下の方を淡い光がぼやっと強くなったり、弱くなったり、ちょうど夏の時期だったので最初は蛍かと思いました。しかし、蛍にしては動きがないし、輝き方もちょっと違うなと。

 そのときは急いでいたので確かめるわけにもいかず、日を改めて光の正体を見に行ったんです。夜になって植物が光り出したのを見たときは、これは是非とも研究しなければと強く心が掻き立てるられるのを感じました。動物や菌類の中には発光するものも居ますが、植物ではまだ見つかっていませんでしたからね。これは、すごい発見になるかもしれないぞと思いましたよ。

 このとき見つけた植物が、後に月植物と呼ばれるようになるのですが、当時はただ未知のものを探究できる喜びに打ち震えていました。月植物は数が少ないので、調査は大変だったんですけどね(笑)。


“月植物は「銀河鉄道の夜」にも登場していたか”

 月植物は今年に入ってから、名前がつけられたものなので皆さんには馴染みがないでしょう。しかし、月植物自体は昔から存在していたものなのです。我々が気づいていなかっただけで、人類が生まれる遥か以前から地球に息づいていた生物であると現在の研究からは考えられています。意外と皆さんの身近にも生えているかもしれません。

 と言われても、ピンと来ないでしょうから、ひとつ、月植物に関する文学作品を紹介しましょう。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」です。この作品なら、皆さんも多少は知っているでしょう?

 主人公のジョバンニが親友のカムパネルラと銀河鉄道に乗って、夜空を走るシーンが一番有名ではないかと思いますが、あのシーンでは青い竜胆というのが出てきます。実はこれが月植物ではないかと論壇では議論されているんですね。

 実際、昨年の秋頃に植物の竜胆の他に月植物と思われる竜胆の仲間が発見されています。それが岩手の、ある山の中に生息していたものですから、文壇界隈では宮沢賢治は月植物の方の竜胆を見たことがあったのではないかと、ちょっとした騒ぎになりましてね、宮沢賢治を研究している方々がそろそろ論文の一本や二本出すかもしれませんよ。

 宮沢賢治の生きていた時代には、もちろん月植物の概念もなかったのですが、夜空の舞台に月植物を配置する的確さは、先見の明があるといいますか、その感性は敏なものと言えるでしょう。彼は自然に造詣が深かった人物でもありますから、植物を見る目がずば抜けていたんでしょうね。


“月植物は今後、街灯になるかもしれない”

 月植物は月光によって光合成をし、中には夜間に発光するものがあります。私が最初に見つけたのもこのタイプですね。

 直近の研究課題としましては、発光できるほどのエネルギーを月植物はどうやって生み出しているのかを解明する必要があります。

 発光にはかなりのエネルギー消費を伴うはずで、普通の植物が発光しないのもエネルギー消費を抑えるためでしょう。しかし、月植物は発光している。この違いはなんなのか、そこがわかれば、品種改良により月植物の発光を強めたり、発光時間を長くしたりすることができるかもしれません。

 そうなれば、道路にゴテゴテと人工の街灯を取り付けなくても済むようになって、月植物の中を歩くようになるかもしれません。

 まだ、月植物についてはわからないことだらけなので、調査や実験を重ねる必要があります。皆さんも月夜の晩にぼやっと光る月植物を見つけましたら、私、兎原までご連絡をお願いします。飛んでいって、調査しますのでね(笑)。

 いつか月植物が明るく照らす道を歩く未来を夢見て、これからも研究に邁進いたします。


話者:兎原岳人

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