ある夏の日
まつも
ある夏の日
ある夏の日の朝。外には早くもかげろうが立ち、真っ青な空を隔てるように、大きな入道雲が浮かんでいた。
ぼくは夏が好きだった。ひまなときはよく散歩に出かけていたし、その日の朝も、いつものように散歩をしていた。
夏がぼくを操った。かげろうがぼくの目を眩ませ、気がつくとぼくは、赤信号の交差点に立っていた。
当然、ぼくは轢かれた。でも、その瞬間、ぼくは蒸発して水蒸気になったので、少しも痛いとは思わなかった。
「あぁ、ぼくは、水蒸気になったんだなぁ」
そんな風にぼくは思った。ぼくを轢いた車は、ぼくを轢いたことに気がつかなかった。まるで最初から水蒸気しかなかったかのように、その交差点を通り過ぎていった。
空をのぼっていく内に、ぼくはあることに気がついた。
この世界にもう、ぼくはいない。誰もぼくのことを覚えていないし、夏の悪戯のせいで、いなかったことにされている。誰に教えてもらうでもなく、ぼくはそのことを確信した。
途端に、悲しい気持ちになった。空をのぼるにつれてぼくの悲しみは増していき、ついにどこかで露点に達し、ぼくは凝結した。
いつの間にか、どしゃ降りの雨になっていた。少しだけ大きなその中の一雫は、ぼくの涙だった。
ある夏の日 まつも @matsumo1576
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