第3話 桃野サキの家庭事情が重い上に、初日にヒロイン出過ぎ
ゲーム内での四月初旬、高校三年の始業式当日。
ギャルゲーの世界に何故か入り込むことになった俺、北岡星。
幼馴染キャラらしい桃野サキと言うツインテールの女の子と一緒に、学校に向かっている途中だった。
「ショウやんは、進学? 就職?」
「まだ決めてないなあ」
世間話をサキが振って来たが、このゲームにおいて俺がどれだけの能力を有しているのか、いまいちわからん。
だから適当な答えを返すくらいしか、今はできない。
「そっかあ、うん、じっくり考えた方がいいよ! ショウやんならなんでもできるし!」
「お前はどうするつもりなんだ」
俺はなんとなく、自分の参考にするためにもサキの進路希望を聞いてみる。
「……うちは、就職しか無理だって、ショウやん知ってるじゃん」
「そうだったか」
すまん、これっぽっちも知らんのだ。
「そうだよ。お父さんは鬱で働けなくなった上に変な宗教にハマっちゃうし、お母さんは夜のお店も不景気で収入少ないし」
あーあー聞きたくなーい聞きたくなーい。
「お姉ちゃんは社会人だけど、ビジュアル系のバンドマンに入れ込んじゃって、家にお金入れてくれないしさ。あたしの高校は奨学金と補助金出てなんとかなってるけど、それがなかったら、高校辞めて働かないと、うちの経済事情、マジ無理だし」
キツいっす。
聞いてて心が痛いっす。
いやまあ、ゲームのキャラクターだからな。
そう言うデータだから、本当に苦労している桃野サキがこの世にいるわけではないのかもしれんが。
まあ、世の中のどっかにはこういう子、いるんだよなあというのも確かなのである。
って、コイツ姉ちゃんいるのか。
しかもバンドマンにハマって、金を溶かしてるのか。
まさかサキの姉ちゃんも、ヒロインの一人じゃないだろうな……。
などと不安に思いながら登校の道を歩いていると。
「おはようございます、先輩♪」
なんか玄関先で声をかけられた。
「おう、おはよう。えーと、誰だっけ? 春休みに頭を打って、記憶喪失気味でな……」
「もう、同じ生徒会の、三崎いちるじゃないですか~。なんだって私のこと忘れちゃうかな?」
生徒会に入ってるのか、俺。
それはそれとして生徒会の後輩キャラ、いちる、な。
紺色のボブカットキャラだ。
眼がくりくりとしていて童顔で可愛いな。
見た目だけなら、とりあえずかなりヒット。
「オーケーオーケー、思い出した。で、新学期の生徒会の仕事ってなんだっけ」
「一番大きいのは部活動紹介セレモニーですね~」
なんだかんだ、面倒臭そうだな。
教室に入る前に、俺はトイレに入って例のシステムタブレットを操作し、ゲーム情報を確認した。
・桃野サキ
・好感度 ?
・三崎いちる
・好感度 ?
好感度の内情はわからないが、二人とも攻略対象ヒロインだそうだ。
そして教室に入ると。
「おはよ。アンタ、三年も同じクラスだったんだ。変な縁だね」
赤茶色のポニテ女、座席票で確認するところの「小早川秋子」が、俺の隣の席に座った。
どうやら会話の内容から察するに、一年生の時から小早川とは同じクラスらしい。
「ま、最後の一年も、ヨロシク頼むよ」
「ああ、こちらこそよろしくだ」
黒髪ロングストレート、制服を改造していてブラウスの胸元も結構空けている。
いわゆるサバサバ系と不良キャラの中間のような、姐御タイプの子だろうな。
こういうのが好きな奴も世の中にはかなり多い。順当なラインナップだ。
なにせ、胸がデカい。
大は小を兼ねるという。大きいことはいいことだ。
担任の先生が、教室に入ってくる
「えー、このクラスの担任になりました、神室ゆみです。こ、今年一年、みんなといっしょにがんばります。悔いのない高校三年生の時期を過ごせるよう、みんな、がんばりましょう!」
まだ20代らしい女性教師が、どうやら俺の担任のようだ。
ゆるいウェーブパーマの茶髪、背が結構低い。
まさかとは思うが、こっそりタブレットを確認してみると、攻略対象ヒロインだった……。
頑張り屋さん系の教師キャラ、うーん、俺は悪いとは思わないが、世間的にはどうなんだろうな。
かなり年上ってのもあるしな。
一時間目は始業式。
同時に、生徒会長のあいさつもあった。
生徒手帳を確認したところ、俺は生徒会の会計のようだったが、生徒会長を見知るのはこの時がはじめてである。
「こんにちは、生徒会長の鳳雛院(ほうすういん)ナオミと申します」
その後、まあ生徒会長のあいさつらしいスピーチが数分間続けられる。
生徒会長どのは、どうやら外国人との混血であるようだ。
金髪ポニーテール、鮮やかな青色の目を持っている。
「最後になりますが、きらめき高校の一員として恥じることのない一年を、どうかみなさん、全力で過ごしてほしいと思います。私からは以上です」
生徒会長としてのあいさつが終わった時、ナオミ氏はなにやら俺の方をちらっと見て、ウインクした。
なにそれ、ちょっと好きになっちゃいそうなんですけど。
なっていいのか。
ここ、ギャルゲーの世界だったわ。
始業式当日から生徒会や部活と言った活動はないらしく、俺の生徒手帳やシステムタブレットにもその予定らしきメモはない。
しかし、どうやら放課後にバイトがあるようだった。
「あ、ショウちゃん、遅いよ~」
「ごめんごめん」
学校が終わり、古本屋のバイトに赴く俺。
店員を雇う余裕があるのか謎なくらいぼろい店の中に、ぎっしりと古本、古書などが敷き詰められて積まれている。
俺の先輩店員である、ショートカットシャギーのスレンダーな、ちょっと顔色の悪い女性。
その名札には「桃野ユウ」という文字が。
「なるほど、バイト先の同僚が、幼馴染の姉と言うことか……」
「何今更なこと、説明口調で言ってるの?」
そう、バンドマンにハマっているサキの厄介な姉とは、このユウだったのだ。
俺はバイトだが、ゆうはどうやらこの書店の正職員らしい。
ユウにいぶかしがられながらも、俺は本の整理や店内の掃除、接客などで労働の時間を過ごした。
「普通に疲れたわ……」
部屋に戻ると、俺のパソコンを勝手にいじって妖精さんがネットサーフィンしていた。
「あら、帰って来たの。ところでゲームから抜け出す方法、クリア以外にもう一つあるわよ?」
「この世界で死ぬって言うアレか」
「よくわかったわね。飽きたらそうするのが私からのオススメ」
俺は要請を黙殺し、飯食ってシャワー浴びて寝た。
寝る前にステータスを確認したら、本屋のバイトをしたおかげなのか、国語が微妙に上がっていた。
ギャルゲーの主人公になったけど、ヒロイン全員が地雷でなんか設定が変にリアル 西川 旭 @beerman0726
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