第2話 ステータスを確認して、ゲームのシステムを把握してね!

 ギャルゲーの主人公として目覚めた俺は、まず真っ先にすべきことを実行することにした。


「ステータス、オープン」


 そう口に出して見たが、なにも反応はなかった。


「おい早速クソゲーの気配ですよこれは」

「っさいわね。ちょっとくらい待ちなさいよ……」


 俺の悪態的な独り言にいきなり反応があって、腰を抜かしてベッドから転げ落ちそうになる。

 いつの間にか、先ほどの案内システムキャラの精霊が、俺の部屋の中空に浮かんでいた。


「言語疎通、できるじゃねえか!」

「大声出さないでよ。で、なに? ステータス? はいはい」


 そう言って、妖精はどこからともなくA4用紙サイズほどの、超薄型タブレットのようなものを俺に手渡した。


「ゲームの情報あれこれはこれ見れば確認できるから」

「だったらお前、いる意味なくね!?」

「私だってこんな仕事したくないわよ。あんのクソ女神……」


 どうやら、例の気まぐれ女神さまの下で働いている存在らしい。

 ともかくとして、俺はゲームのチュートリアルが存在するのか、自分のステータスなどがどうなっているのかを、タブレットで確認する。



・なまえ 北岡星

・あだな ショウやん

・LV 1/ふつう

・HP 100/100

・MP 20/20

・おかね 10000¥

・こづかい 5000¥/つき


・がくりょく

  こくご 47

  すうがく 38

  りか 52

  しゃかい 29

  えいご 70

  かていか 55

  たいいく 26

  げいじゅつ 38

  ないしん 59


・みりょく 69

・こうげき 32

・ぼうぎょ 51

・きようさ 22

・まりょく 40

・せいじ 80

・とうそつ 65



 

 などなど。


「いや、魔力とか統率ってなんだよ」


 ギャルゲーだよねこれ?


「知らないわよ私も。ゲームが進んでくればわかるんじゃない?」

「学力ステータスの中に『内申』があるとか、世知辛い世界観だなオイ」

「私に言わないでよ。作ったのはあの女神なんだし」


 案内役の妖精キャラは役に立たない。

 とりあえず、ファンタジー要素やバトル要素も存在するギャルゲー世界、と考えた方がよさそうだ。


「まあ仕事だから説明するけど、ステータスは行動次第で伸びるわよ。ステータスを上げないと攻略できない女の子も多いみたいだから、適当に頑張りなさい」

「まあそのへんは、こういうゲームなら承知してるところだぜ」

「そ。あと、ヒロイン全員を攻略しないと、この世界から抜け出ることはできないから」


 どうやら完クリしないと、永遠にこの世界に閉じ込められたままらしい。


「ずっと永遠にこの世界でこの暮らし、このゲームを楽しみたいと俺が思ったら、どうなるんだ」

「それを含めてあんたの自由みたいよ。まあその場合、私の態度がどんどん悪くなって、口数が減るのは間違いないでしょうね」


 案内キャラにあるまじき言い分だった。


「完全クリアしたら、元の俺に戻るってことか?」

「さあ? あの女神さまのことだから、別の願いをかなえてくれって土下座すれば、案外聞いてくれるかもしれないわね」

「その希望に賭けるか。ま、もちろんこのゲーム世界を十分に楽しんだ後の話だけどな」


 なんにしても、クリアすることで俺が損をするということは、おそらくあるまい。

 俺はゲームを楽しみつつ、ヒロイン全員の攻略を目指すことにした。

 その後のことは、そのときになって考えることにしよう。


「はー、なんでこんな役が私に回って来たのかしら……あ、最初のヒロインが来るみたいよ。じゃあね。せいぜい頑張りなさい」


 力なく言って、案内妖精さんは消えた。


 その直後、俺の部屋の窓がいきなりガラリと開け放たれて、一人のツインテール女子が突入してきた。


「あー! まだ準備してない! 遅刻するよ、ショウやん!!」


 いわゆるあれか、隣の家に住む幼馴染が起こしに来たわけか。

 そして、好感度など上げる行為を全くしていないのに、いきなりあだ名で呼んでくれるわけね……。


 最初に出会ったヒロイン、どうやら幼馴染らしいのだが、俺はそいつの名前も素性も知らない。


「いきなり入って来て、なんだお前は一体。犯罪者か。警察に電話しないと……」

「ひっどいなあ! このあたし、幼馴染の桃野サキを警察に突き出そうっての!?」


 はい、自己紹介テンプレート、ありがとうございました。

 そして、俺は幼馴染キャラの桃野サキと一緒に、朝の支度を済ませて学校に向かうのであった。


 ちなみに両親は海外出張中なので、家にはいない。

 だったら小遣い五千円というのは一体どういうことなのだろうと思ったが。

 この世界で暮らしている限り、冷蔵庫の中には常に食材があふれているし、公共機関は料金を請求してこないし、学校は歩いて10分の距離なので金が必要になる局面が異様に少ないのだった。


「今日からあたしたちも高校三年! 勝負の年だね、ショウやん!」

「そうか。まあ、そういうことなんだろうな」


 どうやら今は、主人公ショウやんが高校三年生になった四月初旬らしい。

 ここから本格的に、俺のギャルゲー人生が始まることになった。


 のだが。


 まさかこのときは、のちのちあんな日々が待っているとは、かけらにも想像していなかったのである。






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