ギャルゲーの主人公になったけど、ヒロイン全員が地雷でなんか設定が変にリアル

西川 旭

第1話 名前を入力して主人公のタイプを選んでね!

「突然ですが、私は女神さまです」


 普通の平日、朝までゲームをしていた彼女いない歴イコール年齢の俺が夕方過ぎまで寝ていると。

 突如、夢の中か、現実かわからないが、そんな声を聞くことになった。


「日本語を喋れる女神さまですか」


 俺はとりあえず、言語での意思疎通が可能かどうかを試みた。


「はい、伴侶であった男神をオオアリクイの神に殺されて二年ほど経ち、とても体がうずいている、日本語の達者な女神さまです」

「旦那、弱すぎじゃね」


 オオアリクイの神、いったいどの国や文化圏にいるんだろう。


「そんなわけで私は、少しヒマつぶしで人間を使って遊んでみることにしました。おもちゃにしても心が痛まない人間を探していたところ、あなたがヒットしたんです」

「まったく嬉しくない条件に適合して、どんな顔したらいいかわからないの」


 きっと笑えばいいと思うんだが、笑顔が上手く作れない。


「さあ、あなたの望みを、女神パワーでかなえられる範囲でかなえて差し上げます。なんでも好きな望みをおっしゃってくださいな」

「ん? 今なんでもするって言ったよね?」

「言ってません。日本語下手クソ人間ですかあなた」

「クソな日本人な自覚は十分、あります」


 しかし、なんでもかなえられる、のか。

 朝までギャルゲーやってたからと言うのもあり、俺はかねてから憧れていた「ギャルゲーの主人公」になろうと思った。


「俺をギャルゲーの世界に転生させてくれ! こんな非モテぼっち人生はもう飽きた!」

「わかりました。割と些細な願いですね。世界を滅ぼそうとか、人類史をやり直そうとかそう言ってくれることを期待したんですけど」

「期待すんなよ、物騒な女神さまだな」


 世界が滅んだら、生活とかいろいろ不便になりそうだし、普通に嫌だわ。


「では新しい人生か、つかの間の夢か、あなたにとってどうなるのか、これからお楽しみください。パラリラパラリラ~~~♪」


 なにやら80年代臭い効果音と共に、俺の意識は彼方遠くへ。


 次に覚醒したとき、目の前に小さな妖精らしき存在がいた。

 緑色のロングヘアで、白いワンピースを着ている。

 妖精っぽいなと思った理由は、背中にウスバカゲロウのような透明な羽根が三対六枚、生えているからだった


「あんたは女神さまとは違う存在?」

 

 確認のために再び意思疎通を試みる。

 女神さまらしきアレは意識に直接語りかけて来たからか、姿かたちがはっきりしなかったんだよな。


「ようこそ、きらめきレガシーの世界へ! まずはあなたのお名前を教えてね!」

「あ、会話が通じないタイプのシステムキャラだなこれ」

「まずは、あなたのお名前を教えてね!」


 うるせえ黙れ。

 名前を教えないと次に行かない仕組みのようだ。


「北岡、星。星と書いてショウな」

「きたおか、しょうさん、ね! 次は、あだ名を教えてね!」


 ああ、親密になったヒロインはあだ名で呼んでくれるタイプのゲームなわけな。

 いいじゃないか、細かい配慮が行き届いている。


「ショウやん」

「ショウやん、次はあなたのタイプを、教えてね!」


 お前がいきなりあだ名で呼ぶのかよ。

 まあいいけど。

 システムキャラは身近な存在だからな。


 そして、俺の目の前に主人公の容姿が様々に別れたアバターらしきものが並ぶ。

 一つ一つに説明文があり、俺はそれを詳しく読む。


☆さわやか人気者タイプ

・多くのヒロインの好感度が上がりやすく、パラメータの上昇もバランスのいい、初心者ユーザーにオススメのタイプだよ!

・欠点は、これといった大きな長所がないこと!


 なるほど、多くのゲームによくいる、なんでもできるが突出したものがないタイプか。


 他に、カリスマリーダータイプ、芸術家肌タイプ、スポーツマンタイプ、知的クールタイプ、中二病邪気眼タイプ、などがある。

 ふむ、特定のヒロインを落としたいと思ったときに、尖ったタイプの主人公じゃないと苦労することがある、みたいな未来が見えるな。

 

「ま、最初だし、バランスのいいさわやか人気者タイプにするか」

「それでよければ、ダブルクリックしてね!」

「醒めること言ってんなよ……」


 この妖精さんをダブルクリックと言う名のおさわりしたらどうなるのか、とりあえず俺は試してみることにした。


 が、俺の手が妖精に届く前に見えないバリアで弾かれた。


「それでよければ、ダブルクリックしてね!」


 機械的に案内を告げる妖精キャラの目が、笑っていなかった。


 俺はプレイヤー特性を「さわやか人気者タイプ」に決定し、二回小突く。

 あたりが光に包まれて、妖精の声が響く。


「さあショウやん、新しい一日の始まりだよ! 素敵な出会いがあるといいね!」


 そうして意識がまた遠のき。

 次に目覚めたとき、俺は見知らぬ家の、見知らぬ部屋の、見知らぬベッドの上にいた。


「ギャルゲーの主人公にありがちな、質素な日本男児の自室って感じだな……」


 ベッド、本棚、机、パソコン、なにやらプラモデル、クローゼット、その他。

 綺麗に整理整頓されていて、やや殺風景ではあるが普通に快適な部屋で、俺はゲーム主人公としての一日目を迎えるのであった。

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