第157話 二重な妹だけど、どうしよう……

 姉ぇ達と別れ、つきそいにて病院へ向かうタクシーの後ろ座席、


「兄貴の所に外泊するって言ったのにー!

 親父も兄貴もケチー!

 電話せず、成り行きの行きずりすべきだったー!」


 タクシーの隣にてマツリさんは頬を膨らませている。

 ブンブンと手を回す仕草が子供っぽい。

 そんな彼女を私は宥めるように、


「まぁまぁ……」


 ノノちゃんを思い出していた。

 マツリさんに対して小学生に近い気がする感じるのは、流石に悪いなと思いつつ、致し方ないことだとも考えて脳内で言い訳する。

 正直、そんな姿は可愛らしいと感じている私は否定できない。


「うー!

 兄貴の寝ている所に潜り込んでやろうと思ったのにー!」


 さて、妹と兄の間を取り返すコミュニケーションとしてはどうかと思いますが、前向きなのは悪くないと思う。

 そういう、触れ合いもなかったのだろうし、兄妹の仲を取り戻す行為は誰が否定出来ようか。


「妹にアヘアヘさせられて、あの堅物を情けない顔させたろかと考えてたのにー!」

「ダメです」


 速攻、否定した。


「ケチケチー!

 というかー、何も減らないでしょー?」

「姉ぇのご機嫌が減ります」


 おかずの一品が減るどころの話ではない。

 夜の主食(誠一さん)が独占されてしまう。

 死活問題だ。


「三駆めー!

 兄を自由にしていい権利がシスターにはあるはずよねー?」

「無いです」

「じゃあ、双子だから弟をだねー?」

「無いです」


 声色を低くしながら、どうしたモノかと悩む。


「そういえば、あの人……先輩って方、どんな人なんですか?」


 結論は話題を逸らす。


「お姉ちゃん?

 あー、まー、うん」


 誠一さんと同じ黒い奇麗な瞳が空を泳ぐ。


「真面目だけどー、不真面目な人です」

 

 間延びと丁寧が混じった口調で良く判らない回答が来た。

 真逆の言葉が一気に来たのだ、私の思考は当然停止してしまった。

 そんな私を面白そうに見るマツリさんは続け、


「マリと茉莉の両面、お姉ちゃんの影響を受けてるのは間違い無し無しな訳ですね」


 うんうんと一人、納得する。

 置いてきぼりである。


「想像がつかないんですが……?

 病院でお会いしてますが、茉莉さん側にはあまり馴染みがないですし」

「んー、悩ませ」


 正直に言うと、マツリさんは小首をかしげ悩み、


「というか、サンチャはマツリに似てるよー?

 自分の事をみれば真面目な貴方に似ていたのが茉莉ですし」


 キリッとした表情を作る。

 いつものような曖昧でふにゃふにゃとした印象はなく、誠一さんに近い真面目さが出ている。

 なんというか、凛々しい。


「んでねー、それがお姉ちゃんの表の顔ってわけよー☆

 エロボケするのが、マリよねー

 理解把握?」


 次の瞬間にはフニャーとした笑みに変わる。

 こちらの方が馴染みはある。顔は黒くないけど。

 ともあれ、何となくは理解出来た気がする。


「マツリも詳しいことは知らないんだけど、行き場の無い女子を保護したいと。

 そう動いてるイイ人よん?」

「イイ人ですか……」


 胡散臭いと思うのは私がクラスメートに裏切られた経験があるからだろうか?

 たぶん、そうだろう。

 あるいは……


「睨み鯛してもしかたないんよー?

 セルフオナニーは程々にねー」

「あ、すみません」


 私の思考が泥沼になりそうなところで、引き上げられた。

 良くないなあ……と、自分のネガティブさを責める。


「サンチャの懸念もわかりみですけどね」


 よく解らない日本語が飛んできた。

 意図も意味が理解できない。

 そう顔に書いてあったのか、


「兄貴を盗られるとかそういうのは無いから安心丸」


 マツリさんの補足と笑顔。

 そこについて私は心配していないのだと指輪に触れる。あえて言うことでもない。


「だってお姉ちゃん……」

「え?

 今、何て言われましたか?」


 驚いた私はマツリさんの小さな呟きに聞き返した。

 たぶん、聞き間違いだろうと。


「あ、なんでもナシナシ☆

 プライバシー!」


 ぶんぶんと手を振ってごまかされる。

 ならば、突っ込まない。

 さすがに聞き違いだとしても聞き直せる内容でもなかったからだ。

 そう、その先輩が子供を為す機能を失っているだなんてのは私の聞き違いでしか無い。


「あ、運ちゃん、ちょい寄り道よい?

 佐井通りへ」


 閃いたようにマツリさんが言うと、初老の運転手さんはコクリと頷いて進路をずらした。


「……何処へ?

 誠一さんにはお目付け役として任されてるんですから、私」

「サンチャもよく知ってる子に会いにだから、それぐらいは許せし」


 と、たどり着いたのは私もよく知っているお店。


「シショー、はつねーさん、いらっしゃいー。

 シショーはそとであうのおひさし。

 たいいん?」


 出迎えてくれたのは、ノノちゃんだった。

 そう、タバコ屋だ。


「気分をアゲるために日野君の顔を見にねー。

 居る?」

「いるのー」


 メロンソーダの瓶、三本を買ったマツリさんはベンチへ。


「おひさしー、日野きゅん。

 いるかなーって思って、いて良かったー。

 運命☆

 この前はノノ助とお見舞いマジでありがとねー」

「あ、マツリさん……っつつつ!」


 ターゲットに抱き着き、その耳を舐める。

 少年が悶えて、吐息を漏らす。

 マテ。


「バフっ!

 サンチャがなぐったー!」

「ダメですよ?」


 マツリさんの頭にチョップした手を戻しながら嗜める。

 流石にTPOは弁えて欲しいし、誠一さんからも姉ぇからもマツリさんが日野君とノノちゃんに公共の場で何かしたら躊躇するなと言われているのだ。

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処女ビッチですが、なにか? ~マジメガネの彼とビッチな私がいたしてしまうまで~ 雪鰻 @yukiunagi

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