コンパウンドアーティフィシャルミート
新垣加々良
コンパウンドアーティフィシャルミート
現在では、本物の肉は富裕層の人間でも、めったに食べられないと、人は言う。
私が生きている現代では、自然本来のものはほとんどない。たった三百年前までは自然本来の物ばかりに囲まれて、人類は生活していたというのに。
馬鹿な国や人物が、核の発射ボタンを押したせいで、人類は二度と太陽や月、空に輝く夜空の星々を直接その目で見ることができなくなった。
爆発に伴う粉塵や、地殻変動、気象の変化により、世界中が雲に覆われてしまったからだ。おかげで、植物はすっかり死に絶え、自然なんてものは無い。
そんなことを思いながら、今日も、私は、昨日と変わらぬように工場に働きに行く。ほんのすこしまえまでは修学支援機構に通っていたんだけどね。
さっき頭の中で考えていたことも、そこの受け入りだ。
通っていた、と過去形であるように、私はそこで見込みがないと判断されて、丙級労働者になってしまった
最近、私には嬉しいことがあった。それは、工場で、コンパウンドアーティフィシャルミート、つまり、人造合成肉の担当になったからだ。
工場の持ち場につき、ベルトコンベアーで流れてくるひき肉の中に、人間の目で見て、異物が入ってないかを確認する。
もちろん、この後、機械による異物の混入が無いかのチェックがある。しかし、機械の力を使う頻度が高いと、エネルギーがコロニー全体で足りなくなってしまうから、人間の目でほとんどの異物を取り除くことが重要なのだ。
一日に異物を何度も、何度も取り除く。
時には、異物は、骨だったり、繊維だったり、金属の破片だったりする。
そんなことを思っていたら、丁度、金属っぽいものが肉に紛れて流れてきた。
私はそれを取り除くために手に取る。
「指……輪?」
それから、その指輪は私の宝物になった。私が生きている時代には指輪などは、めったに持てるものではなかったし、何より、おしゃれだったからだ。
それから、私は何処に行くにも、指輪をつけていくようになった。
その日も、私は指輪をつけて、職場に行った。すると、乙級労働者の先輩に目をつけられた。
「ねぇねぇ、私ちゃん、仕事場に貴金属なんか持ってきちゃいけないんじゃない? ましてや、私ちゃんは、異物混入検査が担当でしょ? お肉に、その指輪が混入しちゃいけなくなぁい? でも安心して!わたしが預かってあげるから!」
「え、いいです。遠慮しておきます。先輩にお手数おかけするのもなんですので」
「〝あ?あたしの言うことが聞けねぇっていうの? 丙級労働者のお前が! 乙級労働者のアタシに!」
そこに丁度、チーフが入ってきてくれた。
「まぁまぁ、アタシさんも落ち着いて! 私ちゃん、とりあえず、指輪は、ここ、ロッカールームに置いていきなさい。これでいいですか? アタシさん。それとも、乙級労働者のアタシさんは、甲級労働者のチーフの言うことが聞けませんか?」
「ちっ、わかりました」
アタシさんが去った後、私はチーフにお礼を言った。
「ふぅ~、つかれたぁ~」
一日の仕事が終わり、ロッカールームに戻ると、私の指輪がない。
「ない、ない、ロッカーの中にも、ポケットの中にも、どこにもない!」
きっと、アタシさんが盗んだんだろう。あの人は自分より下だと思っている他人が自分より、優位に立つと自分が思うと、気に食わない人間だから。
幸いまだ、アタシさんは勤務時間だ。アタシさんの持ち場は人造合成肉の原材料の加工場だ。入ったことは無いが、場所は知っている。
私は頭に血が上っていくのを感じた。
私は、怒り心頭で人造合成肉の加工場に着いた。
すぐに、アタシさんを見つけることができた。
「返してください」
「うん? なんのこと?」
「返してください! 私の指輪!」
「これのこと?」
そういって、アタシさんはポケットから、指輪を取り出す。
「じゃあ、返してあげる。ほら、取って来なっ!」
そういって、アタシさんは、ベルトコンベアーの上に指輪をほうり投げる。
指輪はベルトコンベアーの上をスイスイ流れていく。
私は、いそいで、ベルトコンベアーの上に乗り、指輪を追いかける。
それでも、指輪はどんどん進んでいく、ベルトコンベアーの先の大型ミキサーへ。
あと、もうちょっと、あともうちょっとだ。
「取れた!」
取れたと同時に私はベルトコンベアーの上を流れるものにつまずいて転んでしまった。
私は、ベルトコンベアーの上を何が流れているのかを認識してしまった。
私が人生最後に見たのは、人の死体だった。
そして、私は肉になった。
コンパウンドアーティフィシャルミート 新垣加々良 @Motipurupurin
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