ハッピーエンドの犠牲者

作者 ナツメ

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★★★ Excellent!!!

 何か映画でも見るかーという話題から転じて、ハッピーエンドについての持論を展開してゆく、誰かに話しかける誰かのお話。
 珍しい形式の作品で、なんと全編通してひと続きの話し言葉です。独白とは違って、明確に誰か他の人に向けての発話。要は事実上の長台詞、3,000文字ぶっ続けでのおしゃべりです。まずもってこれでお話として読めちゃうのがすごい……というと語弊があるのですが、もう普通にうまいというかしっかり乗りこなしているというか、この形式をちゃんと使い切っている感がありました。この形でなければ書けなかったものを書いている。
 平たくいうなら、「本来であれば前提となる基本情報」の不足。話者たるこの人が誰で、いま現在はどんな状況で、そもそも話しかけられている自分は何? という、そこが必然的に全部抜け落ちた状態で進んでいく物語。普通は成り立たないというか、仮に長台詞から入ったとしても、読んでる側がしびれを切らす前にカメラが引くんですけど、このお話はそのまま最後まで行っちゃう。本来必要なものを全然気にさせない(仮に何であろうと話の中身には関係ない)形で話を回して、でも結末までにはちゃんと明かされる。そしてそこにしっかり意味があるというか、明されたこと自体がなんだか気持ちいいような。平たく言うと「出来がいい」とか「ちゃんとしてる」とか、曖昧な上に偉そうな言葉になって困るのですけれど、でもそれ。この感じ(伝われ)。
 その上でなお巧み、というか非常に感想を書きにくくて困るのが、本当に基本的な情報しか明かしてくれないところ。実質的には伏せられたままの要素の方が多くて、でも全然『謎』のままではないというか、最低限この人を『ひとりの人間』『対話相手』として認識させられてしまっている点。
 以下はその詳細に触れるためネタバレになります。
 男性で、どうやら『わたし』の恋人らしい。よく考えたらそれしか… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

 ハッピーエンドという現象が限定かつ単一的な視点の産物であるという見識に大変共感しました。幸不幸はさておきENDを描くというのは終わっていない者が俯瞰して描くしかなく、それ自体が現実的ではない、物語としての示唆に富む有様と僕も考えます。
 語り手が話す言葉だけが描写され、対話者はいるようですが語り手の反応や、拾われてリピートされた言葉から想像するしかない。なのでそう見えるんですが語り手のこの驚くほどの息継ぎのなさがハッピーエンドの在り方を比喩しているように感じました。限定かつ単一的視点。「え……上手ッ!」がなるほどより先にきました。