第39話 トレスディア皇国

「お逢いしとうございました……エリー…………いいえ、殿


 エリーはその言葉に驚愕し、目を見開いて固まっている。


 何を隠そう俺も驚いていた。


 突然出てきた“トレスディア”の名。

 その名は俺も知っている。

 なにせ、以前“ゾンモーナト遺跡”で会ったルネから聞いた話に出てきたから。

 そして彼はこうも言った。

 

―旦那、お嬢が皇国と繋がりがあるのは間違いないんですわ。


 確かに繋がりはあった。

 しかも驚くことに、聞き間違えでなければ、エリーはその皇国の皇女殿下だ。


 ティリエスは固まるエリーから離れると、改めて正面から見据える。

 その瞳は、若干潤んでいた。

 

「……さて、確かに悪霊ではあるようですが、ノード司教の言う通り、悪影響を及ぼす事はなさそうですね」


 そう言いながら、落とした錫杖に目を向ける。

 すると、エリーを前に、錫杖を取ろうとその場で屈みこむ。


 それは、まるでエリーに向かって跪いているかのように見えた。


 周囲がざわめく。

 だが、そんな事などお構いなしにしばらく俯いたままその姿勢を保つと、錫杖を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。

 ティリエスを見つめたまま固まるエリーを見つめ、しばらくして俺に視線を向けると柔らかく微笑みを浮かべる。


「確かに拝見いたしました。非常に興味深いですから、この後別室で少しお話をお聞かせください。後で使いを出しますから、その者の指示に従ってお越しください。では、後ほど……」


 静かにそう告げると、姿勢を正し、ヴェールを元に戻すと、優雅に踵を返して椅子の方へと戻って行った。


 その様子を呆然と見つめるエリー。

 俺はそんな彼女の初めての反応を見て少し驚くも、再び椅子に座るティリエスを確認してその場に跪く。

 俺が跪いたのを確認し、ティリエスは静かに頷いた。


「ではダリル殿。ノルド司教からの申し出通り、貴殿の使役する悪霊を討滅対象から外して欲しいという希望は受け入れることとします。全ての教会へ通達を出すので、どうか安心してください。その代わり、今後発生した悪霊討滅については、是非とも協力していただきたいと思います。それはご理解いただけますね?」


 先ほどまでの狼狽える様子は微塵にも見せず、ティリエスは静かにそう告げる。


「はい。可能な限り、対応することをお約束します」

「よろしい」


 小さく頷くと、背後に控えていた司祭を呼び、何かを告げる。

 教皇の指示を聞いて頷いた司祭は、姿勢を正して部屋に聞こえる声量で告げる。


「以上で終了とする。ご苦労であった」


 俺が跪いたまま頭を下げ、周囲の神殿騎士も司祭も神官もみな頭を下げた。

 

 だが、エリーはティリエスを静かに見続けるのだった。





 会見が終了し、エリーに声をかけてその姿を消させると、俺は再びガイロスに案内されて神殿宿舎に戻る。

 だが、すぐさま扉がノックされた。


「はい」


 俺が扉を開けると、そこには教皇ティリエスの孫、ポーラが立っていた。


「ダリル。こちらに来てくれる?」

「教皇かな?」

「そう」

「わかった」


 真剣な表情を浮かべるポーラに頷き返すと、俺は彼女の後に付いていく。





 案内されたのは、大聖堂の最奥にある小さな部屋だった。

 いわゆる、教皇の執務室だという。

 俺は扉を守る神殿騎士に睨まれるが、ポーラが一言告げるとすぐさま扉をノックし、入室の了承を得て扉を開ける。


 神殿騎士にお礼を言いながら部屋に入ると、そこはまるで図書館のような部屋であり、書棚に古くからあったであろう書籍が無数に収められるのが見える。

 中央に置かれた執務机の上は綺麗に整頓され、執務机の前には柔らかそうな対のソファが置かれている。

 この部屋の主は執務机の前に立ち、俺とポーラの入室を確認すると、ソファーに座る様に手を伸ばす。


「どうぞ、おかけになって」


 俺が少しためらいがちにソファーに座ると、ティリエスはポーラに下がる様に伝えると、小さく頷いて部屋を出る。

 部屋から出たポーラの背を見送り、閉じられた扉を見て俺の対面に座った。


「エリーを呼びますか?」

「お願いします……と言っても、もういらっしゃるのでは?」


 そうティリエスが言うと、その言葉に反応する様にエリーが姿を現した。

 彼女はその様子をじっと見つめるティリエスに視線を送り、俺にも視線を投げかけたうえで、ため息交じりに俺のすぐ隣にふわりと立つと静かに尋ねた。


『……いろいろと、教えて頂けますか?』

「ええ、もちろんです。私からもお伝えしたいことがあってお呼びしたのですから。皇女殿下」


 するとエリーは小さく首を振り、少し寂しそうに言う。


『……その呼び方は止めてください』

「わかりました。では、エリー様」

『エリーでいいわ』

「……ならばせめて、エリーさんで」


 ため息交じりにエリーは頷く。


『わかったわ』

「よかった」


 ティリエスは安堵したように微笑んだ。


「あー……俺は外しとくな」


 これは居ない方がいいだろう。そう気を遣って腰を上げて提案したのだが、その言葉にティリエスが少しばかり困った表情を浮かべ、それを見たエリーはため息交じりに小さく首を振る。


『いつか、いつか言わなければならない事だったの。だから、一緒に聞いて欲しい』


 腰を上げかけていたが、そう言われては出るに出れなくなる。

 俺は諦めてソファーに腰を掛けると、ティリエスは一度呼吸を落ち着かせるように胸に手を当て、そしてエリーに静かに話しかける。


「正直、お会い出来るとは思っておりませんでした。ですがポーラから話を聞いた時、まさかと思ったのです」

『何故、私が皇女だと?』

「リテシア様の名を聞いたからです」

『その名を聞いてですか?』

「はい。しかもリテシア様を“リティ”とお呼びしていたという事を聞き、私の中でエリーさ……んの事を知りたくなりました。“リティ”に“エリー”。この愛称で呼び合う方を、リテシア様とエリザヴェート様以外に知りません。最初は、悪霊を使役する事ができる男性がいるという説明だけだったので、悪霊に対抗する術の手がかりになると思い、時間をかけて審理しようとしていたのですけど……」

『なるほど。でも、とても言いにくいのだけど、私はあなたの名に聞き覚えはないの。申し訳ないけれど、何故私の事を知っていたのです?』


 すると、ティリエスは少し苦笑いを浮かべる。


「それは無理もありません。なにせ、あの当時の私は、皇国に採用されたばかりの魔導士見習いに過ぎませんでしたから。それにお顔を拝見できたのも、採用時の閲兵式典の時だけでしたし」

『あの当時? 失礼だけど、あなたは今何歳なの?』

「……800を超えています」


 はぁっ!?

 この美貌で、800歳!?

 ほあぁ……エルフって凄いんだね。いやはやびっくり。

 だが、俺以上に驚いていたのがエリーだった。


『800……? ……まさか……』


 驚きながら僅かに身を乗り出して尋ねるエリーに、ティリエスは静かに頷いた。


「はい。恐らくお察しの通りかと」

『……あなたは、あの時の生き残り?』

「はい」


 意味が解らん。

 けれども、その言葉にエリーは絶句し、驚愕する表情を露にしている。

 そして必死に尋ねる表情を見るだけでも、事の重大さが伝わってくる。

 とはいえ、二人は理解しているようだが、俺には全く何の話か意味が解らない。

 これ、聞いて良いのか? だが、聞くしか無いよな?


「あ、あのさ、話を遮って申し訳ないが、一体何の話なのかな?」


 思い切って俺が横から質問すると、二人の視線が俺へと向けられる。

 すると、ティリエスは静かに目を伏せながら、俺に説明してくれた。


「“魔神”をご存じですか?」

「え? まあ、御伽噺に出てくる話程度には」

「トレスディア皇国については?」

「昔話に出てくる魔法が栄えた国だというくらいは」


 エルダーリッチのルネから既に聞いているが、その事は言わないでおこう。

 そんな俺の回答を聞いて、ティリエスは小さく頷く。


「なるほど。では簡単に説明します。その昔、トレスディア皇国という国があり、大陸覇権を賭けた戦争を仕掛けてきた大国に対抗するため、今からおよそ800年以上前にある儀式を行いました」

「儀式?」

「ええ。魔神召喚儀式です」


 俺はその言葉を聞いて呆けていたと思う。

 なにせ、エルダーリッチのルネが言っていた“魔神召喚”の話しが、単なる御伽噺ではなく、まさかの実話だとは思ってもみなかった。

 ルネの話しが正しければ、相当な数の人々の血が流れたはず。

 そもそも、魔神召喚自体が眉唾物だと思っていたのに……。


 考え込むような仕草をしたせいか、俺の様子を見て小さく息を吐くと、首を振りながらティリエスは続ける。


「信じられないとお思いでしょうが、紛れもない事実です。そして残念なことに、その儀式に参加していた全ての者が、帰らぬ人となりました」


 ティリエスの話しを聞いて、エリーが呆然とした表情を浮かべている。

 だが、それでも彼女は意を決して尋ねる。


『……あの儀式の後、どうなったのでしょう?』


 悲痛な表情尋ねるエリーに、ティリエスには悲しそうな表情を浮かべる。


「魔人召喚儀式後の事を知りたいのですね?」

『ええ。信じて頂けないでしょうけど、あの時はみんなで必死に阻止しようとしていました。ですが、私は早々に意識を奪われてしまったので、あの後何があったのかを知らないのです。だからお願いします。あの後、どうなったのかを教えてください……』


 エリーが沈痛な面持ちで尋ねられると、ティリエスはふぅとため息をつき、姿勢を正す。


「わかりました。私が知っている範囲でお話ししましょう」

『感謝します』

「ですが、ダリルさんは全く知らない様ですから、少しだけ召喚儀式前の事もお話ししますね」


 ティオリエスは少しばかり寂しげな表情を浮かべた。

 俺もエリーも、そんなティリエスをじっと見守る。

 すると、やがてゆっくりと目を閉じ、少しばかり俯きながら訥々とつとつと話してくれた。


……

………

…………


 一通り話し終えたティリエスは表情を硬くする。


 俺はただ唖然とするばかり。

 そして、隣にいるエリーは俯いたまま動かない。


 とりあえず、聞いた話を自分なりに整理しようと思う。





 ……魔神の存在は、トレスディア皇国では既に認識されていた。

 太古の昔、この世界を創造した者、つまりは神に反発し、全てを無に帰そうとした存在が魔神。


 トレスディア皇国は創造を司る光の女神ファレンを信奉する、高度に魔法技術が発達した国だ。


 ある日、大陸に覇を唱えた大国が、皇国へと侵攻してきた。


 魔法が秀でていても、大国の侵略を止められない。そのため、大国に対抗するため魔神を召喚すべきだという考えが生まれた。


 彼らの事は『ルード教団』と呼ばれた。


 魔神研究の第一人者であったルードを中心として結成された教団は急速に信者を集め、皇国や周辺諸侯国に魔神召喚をすべきだと声高に主張した。


 だが、トレスディア皇国は創造を司る光の女神ファレンを信奉する国。だから皇国皇族だけでなく、皇国教会も魔神召喚には猛反対した。まぁ、そりゃそうだな。


 それとは別に、勢いを増すルード教団に危機感を募らせた皇族や魔導士たちの一部が、万が一魔人が復活した時を想定し、対魔神用の魔法や部隊、武器、防具や装飾品等を創り、復活した場合にどうすれば対抗できるかを日夜研究していたそうだ。これが後の討滅騎士団ベグラレンリッタと呼ばれる存在。


 ところが、魔神召喚反対派筆頭の皇国教会教皇が、教会に潜入した魔神を信奉する狂信者たちよって、昼夜問わず秘密裏に洗脳され続けていたそうだが、それに気づくことは無かった。


 そんな時、皇国南部の最重要拠点が陥落する。


 ルード教団の狂信者たちはそれを利用して、皇国を守るためには魔神召喚が最後の希望だと触れ回り、洗脳された教皇の後押しもあったことで、周辺諸国も国民も全て魔神召喚最高! となったみたいだ。

 まぁ、魔神信奉狂信者達の思う壷だったわけだね。


 ただ、討滅騎士団ベグラレンリッタは危機的状況だと把握していたようで、彼らは魔神召喚研究者や、その支援者を容赦なく排除していた。

 そんな彼らでさえ、まさか皇国教皇が魔神信奉者に成り下がっているとは思っていなかったようだ。


 そして運命の日。


 その日は、皇国の周辺諸侯国と侵攻してきている大国と一緒に戦いましょうという会が行われる。だから、皇国の皇都宮殿には各国の偉い人が沢山集っていた。

 そんな大事な日に、皇国教会教皇率いる、ルード教団の狂信者集団が押し寄せた。

 その混乱のどさくさに紛れて皇族や各国の偉い人を捕え、皇国皇都宮の中央庭園へと連れて行かれた。


 そして……狂った教皇によって大勢の皇族や各国の偉い人が、魔神召喚の贄として容赦なく処刑した。


 そんな中、討滅騎士団ベグラレンリッタや心ある魔導士たちは、教皇の狂乱に即応。狂信者集団から皇王や皇妃、皇太子など主要皇族を救出しようと皇国皇都宮を解放すべく激しく戦ったそうだが、事態は急変する。


 皇王や皇妃、皇太子に皇女らを捕らえたまま、それ以外の皇族を贄として全て処刑した狂乱の教皇が、突如「足りない」と叫び、狂信者たちに向かって皇国皇都に住む全ての住民を無差別に殺戮するよう狂気の指示を下す。





 一方、当時のティリエスは、その時皇国の見習い魔導士として皇国魔導部隊に配属されたばかり。その日は皇都南部城壁の守備に当たっていたそうだ。

 だが、皇国皇都宮が突如として炎上し、更には無抵抗の住民を無差別に殺害してまわる狂信者を発見し、住民を保護するために狂信者集団と戦った。


 彼らは魔神を讃え、その指導者として教皇を讃え、死こそ崇高と叫ぶ。


 狂気がその場を支配していた。


 そんな狂った数多あまたの者と戦い、言いえぬ恐怖と戦い続け、次々と仲間を嬉々として討ち取られていく中、自身も力尽き、もうダメだと諦めたその時、皇国皇都宮から逃れて来た討滅騎士団ベグラレンリッタの騎士達によって救われた。


 彼らは他の同僚にも声をかけ、共に皇都を脱出するよう命令する。

 命令であれば従うしかない。目の前で殺される住民を助けられない無力を呪いながら、命令に従って皇国皇都を脱出した。

 

 皇都を脱出し、南西へと逃げていた時、悲鳴に似た耳をつんざく大きな音がし、その直後、瞬く間に空が深紅に染まり、皇国皇都宮上空に漆黒の丸い物体が現れた。


 漆黒の球体に向かって伸びる一筋の光。

 それを見た直後、その球体が突如として急速にしぼみ、心が恐怖に染まる感情を抑えられないほどの邪悪を纏った漆黒の粒子と共に、それが一気に爆散したのを見た。


 大音響と共に爆散した漆黒の粒子が、次々に荒れ狂う巨大な闇のオーラへと成長したかと思うと、大規模な風圧を伴って周囲のあらゆるものを吹き飛ばしていく。

 だが、それだけに留まらない。

 それがながら拡散した。


 背後に迫る死のオーラから必死に逃げる。

 皇都から離れた森の中で見つけた小さな洞窟。

 討滅騎士団ベグラレンリッタの騎士達とティリエス達はそこに逃げ込み、討滅騎士団ベグラレンリッタの騎士の一人が自らの命と引き換えに障壁を築き、死のオーラから守ってくれたことが忘れられないと言う。


 次の日、深紅の空がいつもの空に戻ったことで洞窟の外に出ると、青々とした木も、地面に生えていた雑草すらも、逃げ惑っていた動物も、魔物も、全て、無機質な土色の死骸と成り果て、全てが死滅してしまっていた絶望的な光景が広がっていた。


 当初、彼らは皇都がどうなったかを確認しようとした。

 けれど、死滅した大地は、彼らの命を拒絶した。

 皇都に近づけば近づくほど、自身の命が吸われていく感覚に襲われたのだ。


 もはや皇都へ行くことが不可能と判断した彼らは、やむを得ず更に南西を目指すことにした。


 皇国南部に広がる広大な森林地帯の大半が死滅していたが、国境付近は辛うじて難を免れていた。

 そこで、未だ健在の皇国南西部にあるバークレオス公国へと向かう事になる。


 バークレオス公国に避難した彼らはそこで解散。ティリエスは故郷に帰ることにした。

 幸運なことに、討滅騎士団ベグラレンリッタの騎士の一人が同じ同郷のエルフだったこともあり、彼と共に帰郷する。


 帰郷の途上、討滅騎士団ベグラレンリッタのエルフの騎士から、皇国皇都宮での出来事を聞く。





 狂乱した教皇が、討滅騎士団ベグラレンリッタによって斃されたが、第1皇女を利用して彼女の婚約者である隣国の大公子息の肉体を乗っ取った。

 討滅騎士団ベグラレンリッタはすぐさま大公子息を殺害しようとするも、婚約者である第1皇女が彼を護ろうと妨害。

 ところが、教皇に乗っ取られた大公子息が、捕えていた皇国皇族の中で最も光の女神の祝福を受けた第2皇女を魔神の受け皿にして召喚儀式を強行。それを阻止すべく2人の皇太子と、最後の最後で過ちに気がついた第1皇女らが必死に抵抗するが、第2皇女を狂乱教皇から奪えなかった。


 そして最後の手段に出る。


 2人の皇太子が狂乱する教皇を抑え、第1皇女が自らの身体と引き換えに第2皇女の身体から魂を引き剥がすが、二人のは闇へと飲まれる。

 2人の皇女の魂を強引に引き戻した反動で、2人の皇太子は魂の大半を闇に奪われ、第1皇女も魂だけの存在へと変わり果てた。


 ただ、それにより魔神召喚が不可能になった。


 だが、このままでは再び魔神を召喚されてしまう事を恐れた第1皇女は、魔神を服従させようと用意させていた魂を縛る特集な石に3人の魂を納め、共に戦ってくれた討滅騎士団ベグラレンリッタに魂縛石を託し、第1皇女自身も残る魂縛石に入った。


 つまり、ティリエスを救ってくれた討滅騎士団ベグラレンリッタは、それら魂縛石を安全な場所に隠すよう命令された者たちだった。


 そうして彼らは避難するも、討滅騎士団ベグラレンリッタの騎士団長と数名は残った。

 魔神召喚により発狂した教皇……この時には身体を乗っ取られた大公子息を殺し、けじめをつける為だ。


 そして発生したすべてを死滅させる死のオーラ。


 それは、殺された教皇の、最後のあがきだったのかもしれない。





 ……まあ、こんなところかな。


 確かに、ベルガモート帝国の北に広がる森林地帯。そこから更に北へと進むと『魔の大地』と呼ばれている不毛な大地が広がっている。これまで幾度と探索が行われたが、結果として人が住めない場所として位置づけられている。


 少なくとも、800年以上経過した今も、御伽噺が現実のものとして続いていた訳だ。


 話を終え、ティリエスは目を開き、俺たちを見つめる。


「これが、私の知る結末です。エリーさん、これでよろしいですか?」

『はい。ありがとうございました』


 珍しく、エリーは素直にお礼を伝える。

 それを聞き、ティリエスは小さく頷いた。


「それは良かったです。では、今度は私からお伝えしたいことがあります」


 そう言うと、今までの柔らかな視線が一変。俺たち二人に向ける目が非常に真剣なものへと変化した。


「何でしょうか」

『はい』


 頷く俺たちに、ティリエスは低く、静かに、告げてきた。


「エリーさん……いいえ、エリザヴェート・セーレ・トレスディア皇女殿下。申し訳ございませんが、再び貴女を封印させていただきたい」

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