第40話 零れぬ涙

 ティリエスが告げた言葉が、俺の思考を停止させる。

 

 今、何て言った?


「失礼。何と言いました?」


 俺の質問に、ティリエスは俺に顔を向け、厳しい表情を崩さない。


「エリザヴェート皇女殿下を封印させて頂きたい……と、言いました」


 聞き間違いではないようだ。

 俺は言葉の意味を理解し、少しだけ首を動かしてエリーを見る。


 いつもであれば減らず口を叩くあのエリーが、どういう訳か神妙な面持ちで話を聞いている。

 それに、俺が視線を送っても、エリーは一向に動く気配がない。

 一体どうしたんだ?


 とにかく、今は理由を聞くべきだ。


「えっと……それは何故に?」


 俺は、今までにない低い口調で尋ねていた。

 そんな俺に対し、ティリエスは表情一つ変えることなく応じる。


「必要だから……という説明では、納得できないでしょうね」

「ですね。説明になってませんし」


 小さく息を吐き、ティリエスは目を細める。


「……あなたは15年前、リテシア様とお会いしていますね?」

「さあ?」

「先ほどした私とエリーさんとの話を聞いていましたよね? もう一度伺います。リテシア様、いえ、リティさんと会っていますよね?」


 そう言われてしまうと嘘は言えないな。


から聞いてご存じなのでは?」


 俺の言い方にティリエスは僅かに眉を吊り上げるが、すぐさま浮かんだ感情を消し去りながら頷く。


「ええ。昨晩、全て聞きました」

「なるほど。で、リティと会ったことが、一体何だと言うのです?」


 俺の疑問に、ティリエスは目を僅かに細める。


「リテシア様と出会い、そして、封印されていたエリザヴェート様を解放した。そうですよね?」

「封印されていたことは知りませんでした。ですが、結果としてはその通りです。ですが、それがどうしたと言うのです?」


 俺の返答を受け、ティリエスは目を閉じる。


「悪霊はご存じですよね?」

「は?」

「知ってますね?」

「ええ、そりゃもちろん」

「悪霊が“膨大な魔力を有した災害級霊障”であることは?」

「……知ってる」

「悪霊の報告件数が増えたのは、いつからだと思いますか?」

「俺がそんな事を知ってると、本気で思ってます?」


 次第にぶっきらぼうに回答する俺だったが、ティリエスは一切表情も口調も変えることはない。


「では質問を変えます。悪霊が、これまで何体発見されたか知っていますか?」


 エリーを何故封じなければならないのかを答えてないのに、質問ばかりされて次第に苛立ちが募る。


「知るわけないでしょ」

「14体」


 目を開き、被せる様に即答するティリエス。

 ……少し、イラっとくるな。


「だから何です?」

「私が教皇在任中の悪霊報告件数です」


 はぐらかされているようで苛立ってくる。

 何が言いたいんだ。


「だから一体何が言いたいんだ? 悪霊がここ数年で14件も発生したってことですか? そんなこと言われても、そりゃ大変でしたねとしか言えないよ」

「200年」

「は?」

「私の在任期間です」


 苛立ちながら答えた俺に、ティリエスは動じることなく冷静に告げる。

 200年? だから何だ? どういうことだ?

 俺は疑念に思って目を細めると、ティリエスはそれを冷静に見返しながら続ける。


「200年の間に報告されたのが14体。そのうち2体は、私が教皇に就任してから98年目と、122年目に報告されました」


 2体がそれだけの期間を開けて現れたと言いたいのか?

 だが、ちょっと含んだ物言いに少しだけ嫌な予感がする。


 そしてそれを裏付けるように、ティリエスの目が厳しいものへと変わる。


「……悪霊の報告件数が増えたのは、いつからだと思いますか?」


 予感は的中した気がする。

 とはいえあくまでも推測だ。確証がない。


「さあ、わかりませんね」

「15年前からです」


 何も言わずに首を傾げた瞬間、目の前の教皇は視線を逸らすことなくそう告げる。


「15年前……」


 嫌な予感は当たった。

 俺は目を伏せながら小さく復唱すると、ティリエスはゆっくり首肯した。


「客観的事実だけを見れば、185年間の間に2体しか現れなかった悪霊が、わずか15年の間に12体も現れました。当初は原因が不明と考えていましたが、あなたがポーラに話していた内容を含め、これまでの因果関係を考えると、エリーさんを解放したことで何かが動き始めた結果であると私は推測しています」


 そう言い、ティリエスは俺に次いでエリーにも視線を向ける。

 視線を向けられたエリーは、静かにティリエスを見つめ返すだけで何も言おうとはしない。

 少しばかり間をおいて、ティリエスは続ける。


「12体の悪霊が出現した時、我らは教会は総力をもって悪霊と対峙しました。ですが討滅できたのは僅かに3体。残る9体は討滅に至っていません」

倒したのですか?」

、と言うべきでしょうね。それに、討滅できなかった悪霊によって3つの大都市と20を超える街や村が壊滅し、100名を超える悪霊討滅の任を受けた者達の命が失われ、それを遥かに上回る数十万人以上の人々の命が奪われました。そこにはあなたの生まれ故郷、リッシナも含まれています」


 ティリエスは沈痛な面持ちで俺を見る。


「ご理解いただけましたか? これが理由です。もちろん、不確定な要素もありますが、全て否定しきれることも出来ない、そう思っています」


 決意に満ちるエメラルドグリーンの真剣な眼差しが俺を射抜く。


「だからこそ、私はルストファレン教会教皇として、エリーさんを封印させていただきたいと言ったのです」


 エリーは何も言わず、ずっとティリエスを見つめている。

 視線を感じてか、ティリエスもまたエリーに視線を向ける。


 俺は、そんな二人の様子を見ながら、ただ俯くことしか出来なかった。


「俺が原因…………か……」


 そう、小さく呟いたのだが……。


『違うわダリル』


 今まで静観していたエリーが、突如として声を上げる。

 すると、彼女は俺の傍に寄り添うようにしゃがみ込むと、俯く俺の顔を覗き込むようにして声をかけてくる。


『あなたのせいじゃない』


 驚く俺に微笑みを返す。


『あなたはただ、私を闇から解放してくれただけ。でも、皇国の起こした過ちを償うのは、私にしかできない』


 すると、ゆっくりと立ち上がり、ティリエスを見つめる。


『教皇ティリエス』

「はい」

『貴女の提案を………………受け入れます』

「な……!」


 毅然とした表情を浮かべるエリー。

 ティリエスは、その言葉を真剣な表情で受け止めている。


 待て。

 何で受け入れる?

 何故、平然としていられるんだ?


 俺は、到底納得できない。


「エリー、ちょっと待ってくれ」

『何……?』

「皇国の起こした過ちを、なぜお前だけが償わなければならないんだ?」

『皇国が起こしたからこそよ』


 小さく苦笑いを浮かべ、エリーは呟く。

 俺は思わず立ち上がる。


「皇女だからか? はんっ! 何を偉そうなこと言ってる。周囲の勝手な思惑が引き起こした出来事を、お前がたった一人で背負って何になる!?」


 今までこんな風に言った事など無い。

 自分で言っておきながら胸糞悪くなる。

 だが、そんな俺の言葉に反応する様に、悲痛な表情を浮かべてエリーが叫ぶ。


『あなたが……あの場にいなかったあなたがっ、知ったような事言わないで!? 例えどんな状況になったとしても、私が皇国皇女なのは変わらないのよ! 皇国が引き起こした事でこの世界が混乱している以上、あの時の責任は誰かが取らなければならないでしょう!? ましてそれが、私が解放された事がきっかけになっているのであれば尚更。私が封印されれば以前のように戻るのだったら、どうすればいいかなんて聞くまでもないでしょう!? 私の気持ちも理解しないあなたが、偉そうな事言わないでっ!!!』


 苦しかった胸の内を吐き出すかのように捲し立てるエリー。

 胸に手を当て、苦しむように言葉を絞り出す。


『それに、私は祖国を滅ぼし、北の地の大半を死滅させ、罪のない人々を殺めるきっかけになり、そして……あなたの故郷や家族さえ奪ったのよ?』


 悲しみに満ちた声。

 エリーの言葉は、どこか後悔の思いを感じさせられた。

 だけど……。 


「だから何だ?」

『え?』

「だから、何だって言うんだ!」


 突然の俺の叫びに、二人が驚いた表情を浮かべる。

 立ち上がり、俺はエリーを見つめる。


「お前は、本当にこれでいいのか?」


 唖然とする二人の視線を感じながら思ったことを言う。


「お前さんが、永い間闇の中に封じられ、相当怖い思いをしてきた事を俺は知っている。でも、お前さんは俺の故郷を襲ってきた悪霊を倒し、14歳の路頭に迷ったガキを面倒見てくれる場所を探そうと一緒に旅をしてくれたよな? でも、俺の事なんか誰も受け入れてくれないばかりか、受け入れてくれるかと思ったら奴隷商だったなんてこともあったよな?」


 当時を思い出し、思わず苦笑する。


「行く先々で受け入れらない孤独なクソガキの俺を救ってくれたのは、街や村の大人でも教会でもない、紛れもなくお前さんだよ。誰からも信用されず、金も無く、その日食べられる物を探し出すことだけで精一杯な状況だった俺を見捨てず、支えてくれたのは他でもない、エリー、お前なんだよ!」


 ああ。もう止められない。

 15年間の思いが、俺の口から溢れ出してしまう。


「悪霊が憑りついているからと容赦なく祓おうとされた事もあった。祓えないと分かった瞬間、俺が死ねば安泰だからと殺そうとしてきた奴等もいた。それでも、お前さんは俺を支えてくれた。ノルドラントのギルドにたどり着くまで、俺はずっと独りだった。でも、お前さんだけはいつも味方だった」


 そして俺はティリエスを睨みつける。


「こんな事情があるにもかかわらず、周囲の人々を不幸にするからって封印するだと? エリー、お前が一体何をしたって言うんだ? それに、さっきの話を聞く限り、訳の分からない奴等に良い様に振り回され、挙句自由を奪われ、エリーの意思など関係なく、気の遠くなるような期間をあんな石に閉じ込めたんだぞ? それなのに、お前自身が恐れ慄く事を知りながら戻せだと? 教会の手に負えない悪霊を抑え込むためだけに、どうしてエリーだけが犠牲にならなければならないんだ?」


 俺の問いかけに、ティリエスは眉一つ動かさず俺を見つめ、回答しようとはしない。

 ならばと、俺はエリーに尋ねる。


「エリー、お前は本当に、再び封印されることを望んでいるのか?」

 

 俺の顔を見ながら、エリーは悲痛な表情を浮かべる。

 だから、俺はもう一度尋ねる。


「なあエリー、それは本当にお前の本心なのか?」

『そ、それは……』


 俺の視線から目を逸らし、肩を震わせ、少し後ずさる。

 何かを言わなければ押しつぶされそうな、そんな表情を浮かべて俺を睨みつけるが、その目は明らかに動揺を隠せていない。

 だが、これが自分の意思だとでも言い聞かせるようとしたのか、震える手を強引に振り払い、眉間に皺を寄せながら俺を見つめる。


『ダ、ダリルは姉さまから言われたから私を支えているだけでしょう? 私がいなくなれば、あなたは好きなように生きられ「っ! ふざけるな!!!」る………』


 何を言っているんだ?

 エリーの言葉を最後まで聞くことなく、俺は我慢できずに大声を上げた。

 その声に、エリーはビクリと肩を震わせる。


「リティから頼まれたのは確かに事実だ。だけどね、俺はもう、お前の事を家族同然に思っている。家族を失い、孤独になった俺にとって、お前はもうそういう存在なんだよ……!」

『ダ、ダリル……』

「それを言うならお前だって家族を失っているじゃないか! なら、俺たちはお互い家族を失った傷を負いながら一緒にやって来た訳だよな? 少なくとも俺は、これまでの15年間、その想いで支え合って生きてきたつもりでいたんだ。なあエリー、そういう風に思っていたのは俺だけだったのか? なあ、どうなんだ?」


 縋るような目を向けるエリーに、俺は思わず捲し立ててしまった。

 言って失敗した気もするが、今はもはやそんな事などどうでもいい。


「なあ、どうなんだ?」

『そんなの、言うまでもないじゃない……』

「だったら、簡単に折れるなよ」

『でも……私がいなければ、あなたは幸せに……』

「それこそ大きなお世話だ。今まで散々恋人獲得活動を妨害しておきながら、今更何を言ってる」

『あ、あなたが相応しくない相手ばかり選んでいたからよ。でも、私がいなくなれば自由に行動出来るのよ?』


 声音が少し弱くなるエリーに、俺はため息交じりに苦笑いを見せる。


「じゃあお前さんはそれで幸せなのか? お前の自由と引き換えにしたリティが、そうなる事を望んでいるとでもいうのか?」


 何も言えず立ち尽くすエリーに、俺は言い過ぎたことを若干後悔しながら、ふっと肩の力を抜く。


「悪いが、俺にはそうは思えない。さっきも言った通り、俺はお前さんを家族だと思っている。それに、さっきの話を聞いてしまっては、お前さんを犠牲にしてまで自分の幸せを取りたいだなんて思わない」


 熱くなってしまったな。

 一旦落ち着こうと思い、俺は肩の力を抜く。


「ふぅ……まあ、エリーが封印されることを受け入れると言うなら、俺は真っ向から反対するまでだ。それに、お前さんは悪霊は討滅できる力を持っている。だったら、悪霊が現れたら倒せばいいだけだよ。それが出来ると分かっているのに、お前が犠牲になる必要は無い」


 そこまで言いきると、俺は改めてソファに腰かけ、エリーに視線を向ける。


「それでも封印されることを受け入れるのか? 俺は今まで通りでいいんだぞ?」


 そう尋ねると、エリーは小さく肩を震わせ、そのまま両手で顔を覆ってしまった。


 生身の身体だったら、きっと泣いているんだろうなぁ……。


 とはいえ、俺だって15年も苦楽を共にしてきた家族同然のエリーを、邪険にするほど落ちぶれてはいない。


 すると、両手を外して俯きながら、か細い声で俺に尋ねてくる。


『ダリル』

「ん?」

『本当に良いのかな……』

「ああ。周囲は認めなくとも、俺は肯定するよ」

『いろんな人に迷惑かけるかもしれないのに』

「今更だな」

『……そう……それが、あなたの意見なのね、ダリル』


 俺が頷くと、エリーが複雑な表情をしたまま小さく頷くと、俺はティリエスに話しかける。


「そういう訳で教皇様。申し訳ないが、俺はその提案を受け入れられない」

「エリーさんは受け入れると申してますが?」


 少し憮然としながらティリエスが言うと、エリーは小さく肩を揺らしながらうな垂れる。

 そんな様子を見て、俺も憮然とした態度で教皇に応える。


「今のやり取りを聞いてなお、そう言うのか?」


 俺の言葉を受けて、幾分納得いかないような表情をしていたティリエスだったが、やがて目を閉じ、そのまま沈黙してしまった。


 静寂が部屋を満たし、いつ誰から声を発するのかわからない中、小さくため息をついたティリエスは目を開くと、じっと俺を見つめてくる。

 俺はその目を見て、少し驚いてしまう。


 その目は、慈愛に満ちた優しさを内包した目だったからだ。

 

「……あなた方の気持ちは十分理解しました。封印するという話は、なかった事に致しましょう。それでよろしいですね?」

「え? ええ。そうしてくれると助かります」


 急な態度の変化に、俺は思わず面食らい、唖然としたまま素で返す。

 そんな俺の事を微笑みながら見つめていたティリエスだったが、ふっとエリーに視線を向けて話しかける。


「エリーさん、素敵な方に助けられましたね」

『え? そうです……か?』

「何で疑問形?」


 そこは断言して欲しいな。


「ふふっ……これはあの子も苦労しそうですね……」


 ティリエスは小さく笑い、何故かため息をついた。

 何だろう? 


「あの……何の話でしょう?」

「いいえ、こちらの話しです」

「はぁ」


 よく理解できないまま、俺は小さく頷いておいた。


 だが、これまで教皇に対する態度としては最低だったと思う。

 立場上言わなければならないことは十分理解しているが、それでも感情で話を進めてしまった。

 反省すべきところは、キチンと反省すべきだな。


「ところで」

「はい?」

「自身の言い分を伝えようとしたとはいえ、貴女に対する態度は礼を欠いていました。お詫びいたします」

「あなた方の気持ちは理解できますから構いませんよ? むしろ、本来はお話を伺うためにお二人に来ていただいただけの事。今では十分に互いを理解し合えたと思うのですが、違いますか?」


 そう言われてしまうと、流石に頷かない訳にはいかない。

 少し申し訳ないような気持になるも、素直に応じて頷く。


「では、その話はここまでにしましょう。ですが、結果として封印をしないという選択をする以上、今後の対応について考えねばなりません」

「今後の対応というと、悪霊との戦いに関することですか?」

「ええ。現在、悪霊と戦い、有効なダメージを与えることが出来るのは、教会司祭数名とエリーさんだけです。ですが、今後はもっと戦える者を増やさないと犠牲が増えるばかり。なのでこれからどうすべきか、よく検討し、状況を理解しておく必要がありますね」


 そう言いながらティリエスは立ち上がると、執務机へと向かい、そこから封蝋された封書を取ると、俺に差し出してくる。

 俺は何だろうと疑問を持ちながらも、立ち上がりながらそれを受け取る。

 しげしげと赤い蝋でしっかりと封蝋されている書簡を見る俺に、ティリエスは小さく笑う。


「そのためにも、あなた方にはこの封書を持って、精霊正教国を訪ねて頂きたいと思います」

「精霊正教国? あの、エルフの国ですか?」

「はい。そこでこの書簡を精霊正教国長老にお渡しください。まずはそこから始めましょう。それに、これはあなた方にとって、とても有意義な時間になると思います」


 そう言うと、ティリエスは再びソファーに腰かける。

 俺は受け取った書簡をしばらく見つめ、ふと疑問が生じる。

 とはいえ、このもやもやを払拭するために、思い切って尋ねることにした。


「ティリエス様、もしや、俺たちを試していましたか?」

「なぜそう思ったのですか?」

「なぜって……この書簡、予め用意してましたよね? という事は、元々エリーを封印するつもりはなかったのではないですか?」


 俺の質問に、エリーが驚きながらティリエスを見る。

 だが当の彼女は、素知らぬ表情で目を細めるばかりだ。


「もし、そうだとしたら?」

「そうですね……酷い人だ、と言うだけですかね?」


 俺が苦笑いをしながらそう言うと、細めた目を閉じて、口元だけ笑みを浮かべる。


「ふふっ……なるほど。ですが、一つだけ間違えています。封印させて欲しいとお願いしたのは本心ですよ?」

「では、それを拒絶された場合の手段を予め用意していたという事ですね?」


 投げかけた質問に、静かに微笑みを浮かべたまま何も言わないティリエスに俺は若干たじろぐ。

 何せあの美しいポーラと瓜二つなのだ。

 微笑む姿はまさに女神そのもの。流石としか言いようがない。

 とはいえ、相手はポーラのおばあちゃん……おばあちゃん……本当にそうなのか? 30代にしか見えんのに……。


「ああ、そうでした。一つお話しておかなければならない事があります」

「な、何でしょう?」


 手を小さく叩きながら、唐突に話題を変えるようにティリエスが声をかけてくる。

 そんな物言いに対し、俺は少し構えて彼女の言葉を待った。


 ここで話される内容が、俺にとって衝撃的なものになろうとは、夢にも思っていなかった。

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