第34話 早く続き! 気になるから早く!

 あらかた片づけた野盗を放置したまま、ポーラは強者のオーラを纏うこれまでの野盗とは違う男とその部下数名と対峙していた。

 彼らの背後には、怯える様に杖や短剣を構える巡礼者の集団がいる。


「ほう……随分派手にやってくれたじゃねぇか。お前さんの仕業かい?」


 そう尋ねられると、ポーラは胸を張ってにこやかに答える。 


「ええ。私と旦那様との初めての共同作業です」


 何を言ってるんです、司祭長。

 案の定、エリーが反応してポーラの方に視線を向け、盛大に『ちっ』と舌打ちしてるし。

 いやいやいや、今はそれどころじゃないでしょ。

 俺はといえば、捕えた女性2人に欲望をぶつけようとしていた4人の野盗を、カッコよくぶちのめし、泣き崩れる女性の傍に近づこうとしていた訳だ。こんな救世主の登場に、助けを求める女性からの好意は爆上がり間違いなしだな!

 ま、俺とポーラとは少し離れているから、あっちは任せるしかないんだよね。


 それよりも、今は目先の女性だ!

 ささ、どうぞ惚れてください!


「お嬢さん、大丈夫で……ん?」


 地に伏せ、泣きながら破かれた衣服を震える手で引き寄せる女性の傍に悠然と跪きながら声をかけたが、見上げて俺の顔を見た瞬間に小さく悲鳴を上げた女性の顔を見て、思わず首を傾げた。


「あれ? 君は……」


 衣服を引き裂かれ、はだけた大きな胸を両手で覆い隠したその女性は、俺と視線が合わさった瞬間ぽかんとした顔になる。

 そして、束の間の沈黙の後、急に顔をくしゃりと歪めると、大声を上げて泣きながら俺の胸に飛び込んできた。


「ああっ……ああああ!!!」


 声を上げて泣き叫ぶ女性。

 うっすらと見えるそばかすに長い茶色の髪。

 そして、ポーラ並みのおっきな……コホン。今は不謹慎だな。


 そう。彼女は、以前トルレの街で出会った巡礼者姉妹の姉、確かリルという名の女性だった。


「よかった。間に合って本当によかった」

「はい……はい……ありが、ありがとうございます」


 俺は心の底からそう伝える。

 よほど怖かったのだろう。声にならない泣き声を上げながら、俺の胸に縋りつく。俺はただ、そんな彼女の彼女の背中を優しくさすってやる事しか出来なかった。

 確か、妹もいたはずと思い起こして傍を見れば、すぐ傍で同じように引き裂かれた服を手繰り寄せて起き上がる女の子を認めて一安心する。

 妹の、確かクレナだったか? どうやら彼女も無事だったようだ。


「妹さんも無事だったようだね。よかった」


 俺の声を聞き、姉のリルは首を捻って後ろを見る。

 妹が呆然としつつも俺を見つめる姿を確認すると、更に安心したのか再び俺の胸に泣き縋った。


「うん。よかったよかった。まあ、あれだな。まずは野盗を懲らしめるから、妹さんとここで待っててくれるかい?」

「グスッ……は、はい……」


 リルを優しく離して立ち上がると、俺の背後に控えていたエリーが俺に焦げ茶色のマントを渡してきた。

 思い起こしてみれば、幌付き馬車で移動していたから忘れていたが、王都で買った品だという事を思い出す。

 妹も服を切り裂かれているが、それ以上に姉であるリルの方が酷く切り裂かれている。まあ、魅惑的な身体をしているから、邪な感情を抱いた野盗どもが、必要以上に服を切り裂いたのだろう。

 酷い奴等だ。

 切り裂かれた衣服から覗く綺麗な肌、ナイフが当たって若干血が流れたのだろう、形のいい大きな胸…………胸、おっきいね…………あ、いや、ごめんなさい。誤解ですエリーさん。睨まないで。


『いいから……早く渡してあげなさい』


 冷ややかに俺を見つめるエリーに指摘され、素直にリルにマントをふわりと纏わせる。突然ふわりと柔らかく身を包まれた事に驚いた彼女は、涙を流しながら俺を見つめ、肩をひくつかせながら何度もお礼を言い、マントの端を両手で掴むと再び俯いてしまう。

 まあ、無理もない。


「すまない。少し待っててくれ」


 姉の傍に近づき、妹が寄り添うようにして抱き合うのを確認すると、俺は気持ちを新たにポーラの方へと向かう。


 相変わらずポーラは野盗の男達と相対していた。

 だが、俺が近づくのを確認してか、彼らは得物を手に身構え、緊張した面持ちを見せる。

 ただ一人、リーダーらしき男を除いて。


「形勢逆転と言いたげだな?」


 長剣をだらりと下げ、俺を一瞥すると、何ともつまらなさそうにポーラに言い放つ野党のリーダーらしき男。

 だが、その表情は余裕を感じさせ、更に不敵な笑みを浮かべている。

 対してポーラは目を細めると、こちらも面白くなさそうに小さく首を振った。


「別にそんな風には思ってませんよ? まあ、旦那様が来てくださったのは嬉しいですけど」

「旦那? あいつがか?」

「ええ。素敵でしょ?」


 え? そう? フヘヘ。


「別にそうは見えんが?」


 つまらなさそうに吐き捨てる野盗のリーダー。

 ふーんだ。余計なお世話だい!


「とはいえ、随分余裕だな?」

「ええ。私、こう見えて強いですから」

「そのようで」

「だから、降参しませんか?」

「あん? 降参だと?」


 ポーラとのやり取りを受け、男は一瞬惚けた表情を浮かべたが、すぐさま含んだ笑みを浮かべると首を横に振った。


「……なるほど。お前さん、教会関係者……まあ、さしずめ司祭というあたりか」

「あら、結構知恵が回るのですね。その通りですわ。なので降参する事をお勧めしますけど、いかがです?」


 目を細めたまま告げるポーラだったが、男はニヤリと笑みを深める。


「はっ! やっぱり甘ちゃん集団だな」


 男がそう吐き捨てた瞬間、瞬く間にポーラに向かって突進する。

 だが、その速さが異常だった。


「くっ!」


 一瞬の隙に距離を縮めた男は、にやけた表情のまま長剣を突き出す。


 カキィーン。


 鋼がぶつかる音が響き渡る。

 咄嗟に反応したポーラは、抜刀した勢いで細身の剣をもって長剣をいなしていた。


「魔法だけじゃないわけか、やるなぁ」

「まさか“縮地”を使うとは。それほどまでに武芸を鍛えている訳ですか。これは流石に一筋縄ではいかなさそうですね」

「まあな。弱くちゃリーダーにはなれんよ」


 そう言って男は後方に飛び退く。

 他の野盗達も得物を構えてじりじりと俺たちを囲むように展開する。

 後方の巡礼者集団は戦いに関しては正に素人だ。当てにする事は出来ない代わりに、むしろ人質に取られたら厄介だ。

 とはいえ、野盗のリーダーは今の状況を冷静に判断しているようだ。


「ま、ここまでのようだな。今回は見逃してやるが、次に会った時には息の根を止めてやる」

「このまま見逃すとでもお思いで?」

「さあてね。まあ、そっちのマヌケ面した男も大したことなさそうだし、お前さんさえ抑えりゃこっちのもんだろ?」


 かっちーん!


 ……なーんてなるか。俺は弱いんだ!

 だから精一杯頷いてやる。


 何度も頷く俺を見て、野盗のリーダーは低く笑う。


「認めるのか。まあ、潔いな」

「そりゃどうも」

「こんな奴が旦那でいいのか? 何なら俺の愛人にでもしてやるぞ?」

「お断りです。自惚れるのもほどほどになさい」

「へいへい。まあ、別に自惚れちゃぁいないが…………ね!」


 そう吐き捨てる様に言いながら、野盗のリーダーは再び縮地を発動して一気に距離を縮め、勢いよく刺突を繰り出す。

 不穏な空気を感じて、勢いよく俺が前に出てポーラを支援しようとしたが、それよりも早く彼女はすぐさま反応し、突き刺してきた剣をいなすために細身の剣を円を描くようにして斬り合わせようとした。


 だが、その動作を見て男はニヤリと笑う。


 次の瞬間、ポーラの繰り出した剣が空を斬った。

 よく見れば、野盗のリーダーはギリギリの距離で足を止めており、急激な制動によって土埃が足元を隠すように舞い上がっていた。

 その動きに対する反応が遅れたことで俺は一瞬だったが動きをためらってしまった。

 その隙を見逃さず、刺突姿勢から身体を半身回転させると、一気に勢いよく俺に向けて剣を横薙ぎに振り抜く。

 瞬間的な動きを繰り出され、俺は慌てて強引に身をかがめ、その勢いに任せてその場に膝から滑り込むようにし、背を逸らせて斬撃を避ける。

 視線の真上に長剣の鈍く光る冷たい輝きが鋭く通り抜ける。怖っ!

 すると男の足元に土を踏みしめるような音が聞こえたことで半身を起こすと、振り抜いた際の回転力を利用しながら、今度は容赦ない蹴りを俺の顔めがけて繰り出してくる。

 体勢が崩れている為に避けることができない事を冷静に判断し、辛うじて反応した右手で顔を庇うと、鋭い蹴りが俺の手の甲に衝突し、たまらず後方へと吹っ飛ばされた。


「ダリル!」


 若干焦る感情を織り交ぜた声を上げるポーラだったが、野盗のリーダーの男が回転した勢いを載せるように、剣を逆手に握り直して右脇からポーラ目掛けて剣を突き出す。


「くっ!」


 顔めがけて突き出された剣を仰け反りながら避け、その勢いにあわせて後方転回して難を逃れるポーラ。

 流れるような攻撃を繰り出す野盗のリーダーに、若干翻弄されている様な感覚を覚える。

 だが、何とか攻撃を回避した俺たちに向け、野盗のリーダーは感心した様に口元を緩める。


「へぇ……なかなかやるね」


 後方に飛び退いたポーラはその声に応じることなく、姿勢を正して静かに剣を構える。

 余裕の表情を浮かべる野盗のリーダーだったが、不意に周囲の息を飲む異様な雰囲気を察してか、異変に気がつき男は怪訝な表情を浮かべた。

 彼は後ろに控える部下の方を一瞥すると、何かに怯える様に腰が引けている部下の姿を認め、疑問を抱きながらも周囲に視線を送る。

 その直後、野盗のリーダーもまた得体の知れない殺気に気がつく。だが、それがどこから溢れているのかが理解できないため、注意深く周囲を観察するが、一向に理解できない事に苛立ちを募らせる。

 理解できない異様な殺気を受け、こめかみから一筋の汗が流れ落ちる。

 先ほどの司祭かと思って視線を向けるが、当の司祭に動きはない。


 直後、ふわりと肩に何かが触れる。

 

 男は恐る恐る横を向くと、ようやくその元凶を把握する。


『やってくれたわね』


 小さな呟きが聞こえ、男は思わず息を飲む。

 そこには、これでもかと思うほど溢れる漆黒のオーラを纏い、野盗のリーダーの男の右肩に幾分透き通る美しい手が添える、恐ろしくも美しい女性の姿があったからだ。

 妖しく光るその瞳は幾分赤茶け、細められた瞼の奥から微動だにせず、野盗のリーダーの目を射竦める。


「あ……悪霊…………」


 誰とも知れず呟く。

 この世界における「膨大な魔力を有した災害級霊障」の名を。

 

 その場にいた誰もが微動だにしない。


 残った野盗も、そのリーダーも。

 そして、巡礼者も、少し離れた二人の姉妹も。


 皆、心の奥底に戦慄を覚え、怯える。


 あのポーラでさえ、僅かに目を開いてエリーを見つめるが、身動きが封じられたかのように固まってしまっている。


 漆黒の長き髪は、溢れ出すオーラの揺らめきに任せて宙を舞い狂い、込められた異常なまでに凝縮された恐ろしい程の魔力は、容赦なく周囲に撒き散らされ、音もなく大気が微かに震えている錯覚を覚えさせる。


 怒り。


 一言で言えば、その言葉こそ相応しい。


 理不尽な暴力によって女性を嬲ろうとし、怯える巡礼者を蹂躙し、そして……ダリルを蹴り飛ばした者への、純然たる憤怒。


『フフフ……今際の際に残す言葉は決めたかしら? まあ、覚えるつもりはないけれど』


 詩歌を紡ぐような静かな声。

 だがその言葉は重く、魂の根底に届かんばかりに刻まれる。


「エリー」


 静寂を破ったその一言。

 ピクリと反応するエリー。


「やめるんだ」


 そう静かに告げた俺の言葉を受け、エリーはゆっくりと俺の方に顔を向ける。


『何故?』

「俺が困る」

『どうして?』

「……お前さんの不幸せな表情は見たくない」


 一瞬ぽかんと口を開けて俺を見るエリー。

 だが、しばらくすると、何かを決意したように小さく頷き、目を閉じる。


『……そう……なのね』


 ふっと息を吐き、エリーはゆっくりと目を開ける。

 そこには、美しいアイスブルーサファイアの光彩が戻っていた。


 そっと野党のリーダーから手を離すと、彼女の元へと静かに歩み寄る俺の真横へとふわりと舞い降り、並び立つ。


『これでいいのね?』

「ああ。もう十分だ」


 頷く俺に呼応するように頷いて小さくため息をつくと、周囲に放たれていた途轍もない魔力が瞬く間に消え去る。

 身を固くしていた者たちが、安堵と共に肩の力を抜く。

 そんな彼らの目には、俺を背後から抱きすくめる様にして身を寄せ、僅かに唇を緩めるだけで何も言わずに微笑みを浮かべる美しき悪霊を目の当たりにする。

 未だ信じられないといった感情が込められた視線を投げかけてくる。


 まあ、「膨大な魔力を有した災害級霊障」と言われる存在が、うだつの上がらない男の言う事を聞いているんだから、普通は驚くよね。


 まあそんな一連の流れを見ていた野盗の男達は、得体の知れない脅威が去ったのを感じてか、その場にへたり込む。

 あれだけ強かったリーダーの男でさえ、石像のように動くことが出来ないままだ。

 

「では司祭長様、どうしましょうか?」


 俺は細身の剣をだらりと下げたまま呆然とするポーラに声をかけると、肩をピクリと震わせ、慌てて剣を鞘に納めながら頷く。


「え、ええ。巡礼者の方々を保護しましょう。怪我をした者の手当をし、野盗達を捕縛しましょう。手当てが必要な方は申し出てください。治療の心得がある方は手伝ってください。それ以外の方は捕縛の手伝いを」


 我に返ったポーラの指示は的確であり、動ける巡礼者たちは指示に従って動き始めた。

 俺は、身体に着いた土埃を叩き落とすと、転がる野盗達を捕縛するため、未だ呆然自失のリーダーの男の傍に向かった。





 後始末は順調に終わった。


 俺たちは再び聖王都を目指して進んでいる。


 結局、野盗の襲撃によって、総勢20名いた巡礼者のうち、残念ながら5名の巡礼者が帰らぬ人となった。

 襲った野盗は32名。襲撃時に巡礼者の抵抗によって2名が死亡。それ以外は怪我を負ったものの命に別状はない。

 遺体はその場で埋葬した。

 その後、俺たちが持ち合わせていたロープを利用して野盗達を捕縛し、武器も押収して近隣の街まで連行する。まあ聖王国の警備兵に引き渡せば報奨金を出してもらえるそうだから、その報奨金で壊された備品や、切れらた衣服などを補填すればいい。


 あと、彼らとは別に、野盗に捕まり、尊厳を奪われそうになっていた姉妹については、俺たちが保護することになり、馬車で聖都まで送ることになった。

 服は切り裂かれ、更に怯えて歩くのもままならない様子だったのを見かねたポーラの意向だ。

 

 また運の良い事に、襲撃を受けた場所からしばらく街道を進んだところで、聖王国の巡回警備兵団と遭遇した。

 俺たちは巡礼者と野盗の連中を引き渡し、近くの街まで護衛してもらうようお願いし、警備兵団の隊長は喜んで引き受けてくれた。

 別れ際、巡礼者達から涙ながらにお礼を言われ、ポーラは微笑みながら優しく声をかけてまわる。そして改めて隊長に護衛のお礼を伝え、俺たちはその場を去った。





 ゴトゴトと馬車は進む。

 俺の正面にはポーラが座り、彼女の隣には、俺の渡したマントにくるまる姉妹が肩を寄せ合って静かに眠りに着いている。


 しばらくぼーっとそんな姉妹を眺めていると、不意に目の前に水筒が差し出さる。


「ん? ありがとう」

「いえいえ」


 蓋を開け、一口飲む。

 ん? これって……。


「葡萄酒?」


 俺の呟きに、ポーラは微笑みを浮かべた。


「警備兵団の隊長から、夜は冷えるからと分けてもらったのです」

「ポーラは飲むのかい?」

「聖職者がお酒を飲むのがおかしい、そう言いたげですね」

「まぁね」


 苦笑いを浮かべる俺に、ポーラはクスリと笑う。


「晩餐の時も飲んでいたじゃないですか」

「ああ、そうか。そうだったね」

「まあいつも飲んでいる訳ではないですけど、今回はクッキーが残念なことになってしまったから、その代わりです」

「なるほどね……ありがとう」


 俺は蓋を閉めてポーラに戻すと、彼女も蓋を開けて一口飲んだ。


「ふふっ。水筒を通じてなのが残念です」


 そんな事を小さく呟く。

 ああそっか。

 今更間接キスなど考えもしない年齢のはずなのに、何故だか少し気恥ずかしくなる。

 そんな俺の感情を読み取ってか、意地悪そうな笑みを浮かべるポーラ。


「まあ、巡礼者の方たちにも、ダリルが旦那様だという事は伝わったということで良しとしましょう」

「そんな風に思われるものかな? まだ結婚すらしてないのに」

「“まだ”ということは、今後に期待ですねっ」

『遺言は終わったかしら?』


 突然俺の隣に、しなだれかかるように現れたエリーがそう呟く。


「言葉を残すのではなく、既成事実を作るつもりですけど?」


 既成事実って何?

 まさか……ねぇ?

 え? もしやそのまさか!?

 ぬふふ……俺の頭の中はもう薔薇色ですよ?


『こら! 邪な想像しないの変態っ! ってポーラぁ! そんなのずぇったい阻止するからね!』


 物凄く焦った表情を浮かべるエリーがずいとポーラに詰め寄る。


「あらあら、あなたは幽体でしょうに、どうやって阻止なさるおつもり?」


 そんなポーラの一言に、エリーは口をぱくぱくさせる。


『そ、それは、いろいろと……よ!』 

「ふふっ。冗談よ」

『……冗談に聞こえなかったわよ、まったく』


 余裕ある物言いを受け、エリーはそれ以上何も言わずにぷいとそっぽ向く。

 そんな態度を示すエリーに微笑みを向けていたが、俺の方に視線を向けると、少し頬を上気させながら勢いよく顔を寄せてきた。


「それはさておき!」

「ぬあ!? あ、ああ」


 いやん。お顔が近い。


「さあダリル、早く続きを教えてください!」

「続き?」

「そう、お話の続きです! とんだ邪魔が入ったので、あの後どうなったのかが気になります! あの後どうなったのです!?」

「あー……彼女たちがいるけど、良いのか?」


 俺は寄り添うようにして眠る姉妹をチラリと見る。

 だが、そんな事などお構いなしに、両手を胸に当てる様にして更に俺に顔を寄せるポーラ。


「ぐっすり眠ってますし、大丈夫です! まあ、いざとなったら周囲に結界を張りますよ?」

「そ、そうか。じゃあ、続きか……」


 聖都はもう目の前。だが、時間はまだありそうだ。

 俺は深く腰を掛け直すと、腕を組んで静かに目を閉じた。

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