悪役令嬢の思惑はあたらない

@ishikado

悪役令嬢の思惑はあたらない

 わたしはミリスレア・クオン・バルハスラ。悪役令嬢だ。


 なぜ悪役令嬢を自称するのか?

 その理由は、わたしに前世の記憶があるからだ。


 六歳の誕生日。

 わたしはドジなメイドをいじめていた。

 楽しみにしていたチョコレートケーキをそのメイドが誤って落っことしてしまったので、怒りに任せて謝るメイドを蹴りたくっていた。それはもう執拗に。

 ただ、すこしばかり執拗すぎた。

疲れてきたのも無視してメイドを蹴りまくっていたら、足がもつれて転んでしまった。それはもう盛大に。

思いきりの良すげる蹴りの勢いで後ろ向きに頭からすっころんだ際にいろいろ思い出すことができた。


わたしの前世は日本人で、さえない女子高生であったこと。

体力測定の疲れから階段で足がもつれてそのまま転んで死んでしまったこと。

生まれてからそんなドジで死ぬまでのもろもろの記憶。

それらの中に、ミリスレア・クオン・バルハスラという意地悪なお嬢様が登場する乙女ゲームがあったこと。

 どうやらこの世界はその乙女ゲームの世界で、わたしがその意地悪な公爵令嬢ミリスレア・クオン・バルハスラその人であるということも気づくことができた。


 ミリスレアは主人公に烈火のごとく嫌がらせを行う悪役令嬢だ。

 ゲームでは婚約者である第二王子デルへウスを主人公に奪われ、最終的には父から勘当を言い渡される。


 わたしが転生した人物の生涯は、あまり明るいものではない。

 乙女ゲームの世界に生まれ変わるなら、主人公に生まれ変わるほうが輝かしい未来が待っているだろうし、大半の人はそう望むだろう。


 だが、そんなことは特に気にしない。


 だって、いまのわたしには前世の知識があるんだもの。


 隅々までやりこんだ乙女ゲームの知識を使えば没落を免れることはもちろん、前世では夢見ることさえ許されなかったイケメンたちに言い寄られるバラ色の青春を過ごすことだって夢じゃない。


 前世のわたしは不細工で、男子に告白されるようなこともなく、友達と男子の悪口を呪詛のごとく吐き出すダークな青春を過ごしていた。

 正直、モテたかった。


 だが、この乙女ゲームの世界でなら世界最高峰のイケメンたちからモテまくることだって簡単だ。

 今世のわたしはきつい印象だが美少女だし、攻略キャラ達の心をときめかせるツボは完璧に把握している。


 はやく王国学院に入学して、わたしにイケメンたちを骨抜きにさせてくれ。



 そして、十歳の春。乙女ゲームの舞台である貴族の学校、王国学院に入学した。

 早速行動を開始した。

 攻略キャラたちに接触して、彼らの心をときめかせるような言動を、あざとく、自然に演じてやる。

 第一王子も、第二王子も、未来の騎士団長も、万能執事もメロメロになって、みんなわたしを奪い合うがいいわ!


「なんでよおおおおおおおおおおおおお!?」

 王国学院に入学して半年、わたしは自室で叫んでいた。

 おかしい!?

 ゲームの流れなら、そろそろ、というか一か月前くらいには色恋沙汰になるとちょっと強引な万能執事が主人公に告白してくるはず。

つまり、わたしはすでに人生初告白を受けているはずだ。

だけど、現状はそうなっていない。

彼とのというか彼らとの仲はあくまで友達止まりで、恋に発展する気配がない。

なぜだ!?

わたしが尽くしたあの手この手で、すでにみんなの好感度はカンストオーバーしていてもおかしくないはず。

なぜモテない!?

ハーレムルートまっしぐらのはずなのになぜ!?

 やはり主人公じゃないとだめなのか!?

 もしかして、あいつらきつめの美人は好きじゃないのか!?

 結局顔なのか!?


 あれこれ原因を考えるうちに、わたしは一つの結論にたどり着く。

 そうだ! 主人公の様子も確認しよう!

 この半年間。攻略キャラ達の好感度稼ぎにのみ意識を集中していたので主人公のことは頭からすっぽぬけていた。

 ……自分でもバカだとおもうよ?

 ともかく、少なくとも攻略キャラたちが主人公を気にしている様子はいまのところない。ミリスレアが意地悪をすることも、イケメンキャラがいじめをたすけることもない状態で主人公がどのように過ごしているのか気になる。それに、あのイケメンたちを攻略するヒントを主人公を観察することで得られるかかもしれない。

 よし、明日からはいったんイケメンから離れて、主人公を観察しよう。


 乙女ゲームの、この世界の主人公メリー・ハートをこっそりと追っていると、わたしは衝撃の現場に出くわした。

「ゃ……ゃめてくださぃ…」

 校舎裏、か細い声で抗議する主人公。

「平民のあんたが、なんでわたくしたちと同じ学校に通っているのかしら?」

 あざけりながら主人公メリーを蹴り続ける貴族令嬢。彼女は、本来ならミリスレアがするいじめをそっくりそのまま実行している。

 ただし、ミリスレアのするいじめと決定的に異なる部分が一つ。

 ミリスレアは廊下や教室で堂々といじめを行っていたのに対し、あの貴族令嬢は校舎裏や茂みの奥など、目立たない場所でいじめをしていた。

 そのせいで、攻略キャラ達がいじめに気づかず、主人公メリーはいじめられ続けてきたのだろう。

 ………ミリスレアってバカだから。


 ともかく、本来なら自分が行っていたいじめの現場を客観的に見て、わたし、いや…ミリスレアは……。

 ドン引きしていた。


 あんなに醜く顔をゆがめながら他人を蹴るなんて…。人間のやることじゃない!


 気づけばわたしは飛び出していた。

「やめなさい!」

 突然声をかけられた二人はミリスレアの姿を見ると硬直する。

 貴族令嬢はさっと顔を青ざめさせて、メリーは困惑して口をぽかんと開けて。

「ミ…ミリスレア様!?」

 貴族令嬢は慌ててメリーへと視線を送る。

 まずいと感じた、と思ったのだが、次に彼女がミリスレアへと向き直ったときには、なぜかすっかり堂々とした様子だった。

 怪訝に思って尋ねてみる。

「あなたは、そこでいまメリーさんに何をしていたの?」

「いじめてましたわ!」

 堂々と言った。まるで、決してやましいことはしていないかのように。

「…どうして、そんなに堂々としていられるの?」

「こいつは平民。平民は貴族にいじめられても仕方のない生き物ですわ!

 ミリスレア様もそう思うでしょう?」

 メリーはとても不安そうにわたしの顔をうかがっている。メリーのその表情は、不安一色ではない。悲しみ、あきらめ、そして期待。これらの感情を不安で荒く上書きしたような表情だ。

 安心してほしい。

「そう思わないから声をかけたのよ!」

 はっきりと声に出したこの言葉。

それをきいた二人の反応は対照的だ。

 令嬢は目を見開き口をわななかせ、メリーは言葉をかみしめるように目と口を閉じる。

 わたしはとどめとばかりに令嬢へ警告を叩きつける。

「二度と彼女をいじめるんじゃないわ!

 もし次それを見つけたら、公爵令嬢のわたしが容赦しない!」

 言葉を言い終えたとき、令嬢は一目散に去っていった。

 夕焼けに染まった校舎裏に、ミリスレアとメリーだけが残される。


「ぁ…あの……。」

 メリーが消え入りそうな声をかけてきた。

「ありがとうございました。」

 そういった彼女は、これでも不安がぬぐい切れない様子だ。

 そんな様子だと、なんだかわたしも落ち着かないじゃない。

「ほかにもなにかあるの?」

 尋ねてみると、メリーはうつむいてしまった。

 一度助けたのだ。ここまできたら、全部助けてやろうではないか。

「なんでもいいなさい。できることならやってあげるわ!」

 そういうと、メリーは遠慮がちにおずおずと声を出し始めた。

「一つ、質問してもいいでしょうか?」

「いくらでもききなさい!」

 はっきり答えてやると、彼女は不安げにわたしを見上げながら言う。

「どうして…わたしなんかをたすけてくれたのですか。」

「見ていられなかったからよ!」

 そのままの気持ちを伝えてみる。

「わ、わたしは平民で……」

「そんなの関係ないわ!」

 メリーは目を見開いてわたしを見る。

「あなたの身分なんて関係ないわ!

 見ていて気分が悪くなったから止めたのよ!」

 すると、メリーは顔を可愛らしくゆがめながら訴える。いままで積もり積もったものを吐き出すように。

「貴族の方はみんな、平民を見下しているのでしょう!」

「わたしは違うわ!」

「公爵だから、止める力があるからわたしをたすけたんですね!

 身分が! あの方に及ばない男爵とかなら!

 きっとあなたもわたしを見捨てて」

「関係ないわ! どっちにしろ助けに飛び込んでたわ!」

「なんで!? 貴族は身分がすべてなんでしょう!?」

「わたしはちがうわ!」

「じゃあ! なんで…」

 それまでの勢いがすっとしぼんだ、ひどく弱弱しい声だった。

「なんで…もっとはやく助けてくれなかったんですか……。」

 う!? 痛いところをつかれた。

 イケメンに夢中で気づかなかったとはさすがに言いにくい。

 わたしが言いよどんでいると、メリーははっと気づいたように両手で口を押え、逃げるように走り去ろうとする。

「待ちなさい!」

 とっさに彼女の腕をつかむことに成功する。

 するとメリーは一層気落ちした様子でわたしのほうを向く。俯きながら。

「ご、ごめんなさい…。わたし、たすけてくれた方になんてひどいことを…。

 こんなんじゃ、いじめられて当然ですよね……。」

自嘲気な笑みを浮かべるメリー。彼女はすっかり自分を卑下してしまっているようだ。

半年もいじめられ、多くの人に見下され続けてきたからだろう。

それに、ゲームとは違い、彼女を守ろうとしてくれた人が一人もいなかったのもきっと大きい。

自分もゲームでなりきっていた少女が、自分もあんなふうになりたいと思っていた少女が、ここまで自信を失っているのを見るのはなんだか寂しい。それにもどかしい。

この娘はこの世界の主人公だ。もっと胸を張るべき存在だ。

だから…。

「自信を持ちなさい!

 あなたは平民なのに、どうやってこの学校に入学したの!」

「そ、それは…勉強して……。」

「よっぽど勉強しないと、身分を乗り越えて入学なんてできないわ!

 あなたは人一倍頑張ってこの学校に入学した。

 そうでしょ!」

「わたしなんかが、みなさんと同じ学校に通うためにはそれしかなくて…。」

「がんばった自分に自信を持ちなさい!」

 メリーは身震いした。俯かせていた視線を、ミリスレアの顔へと向ける。

「あなたは身分を超えるほどがんばったの。だからここにいるの。

 身分でいじめてくる奴なんて無視しなさい!

 そんな身分しか取り柄のない奴らより、がんばったあなたのほうがよっぽど偉いわ!」

 ぽつり、ぽつりと涙があふれる。

 メリーの涙は、いくら拭ってもあふれてくる。


 メリーは、親の反対を押し切ってこの学校に入学した。

 学校というものに興味があったのだ。

 同年代の子どもは村にはいない。

 だから、そんな相手と出会って仲良くしたいと思っていた。

 両親は反対した。

 貴族ばかりの学校で、お前がうまくいくはずがない。勉強だってついていけなくなるに決まっている。

 学校に入るため、人一倍勉強をしている。人付き合いだって、本を読みながら勉強している。

 なのに、どうしてダメだというの?

 両親を見返したくて、絶対に学校に行くことを決意した。

 試験に受かり、王立学校に入学した。

 どんな人がいるのだろう。仲のいい人ができたら、いっしょに何をしよう。もし、好きな人ができたらどうしよう。好きな人ができたら、わたしはちゃんと思いを伝えられるかな。

 さまざまな期待を抱いて入学した。

 しかし、その期待は直後に粉々に砕かれた。

 メリーが受けたのは拒絶だった。

 最初から、身分が違うがために最初から拒絶されるのだ。

 だれもわたしを認めてくれない。

 勉強をがんばれば、認めてくれるかな?

 だからがんばった。誰よりも勉強した。勉強だけじゃない。スポーツも、音楽も、美術も、できることはなんだってがんばった。

 だけど、だれもメリーと仲よくしようとはしてくれなかった。

 それどころか、がんばるほど疎ましく思われ、メリーは孤立した。

 そして、入学からしばらくしたころ、いじめられるようになった。

 だれも助けてくれない。

 わたし、価値なんてないのかな?

 メリーは自信を失った。


 そんなメリーを救ってくれた人が現れた。

 だけど、メリーは怖かった。

 この人は、なんでわたしをたすけてくれたんだろう。

 助けられる価値なんてないわたしなんかを、どうして…。

 理由を尋ねた。

「見ていられなかったからよ!」

 ひどくシンプルな答えだった。

 なんで見ていられなかったんだろう。

 もしかして、わたしが平民だって、助けられる価値がないって知らないのかな。

「関係ないわ!」

 ばっさりと否定された。

 じゃあ、いままでのわたしは、なんで誰にも認められなかったの?

 それから、いままでためていた鬱憤が噴出した。

 なにを叫んだのか、よくわからないまま思うことを。

 そして、言ってはいけないことを言ってしまった。

「なんで…もっとはやく助けてくれなかったんですか……。」

 絶対に、思ってはいけないことだった。

 わたしは自分に価値がないなどと思っておきながら、あさましくも助けられて当然だと、そういっているのと同義の言葉を吐いてしまった。

 だが、これではっきりした。

 わたしはだれにも認められなくて当然の存在だったのだ。


「自信を持ちなさい!」

 力強い声だった。

 どうやって学校に入れたのか。そう問われた。

 答えは一つだ。

 がんばったからだ。

 高望みだったけど、こんなわたしが貴族と同じ場所に通うには頑張るしかなかったからだ。

「がんばった自分に自信を持ちなさい!」

 がんばった自分に?

「あなたは身分を超えるほどがんばったの。だからここにいるの。

 身分でいじめてくる奴なんて無視しなさい!

 そんな身分しか取り柄のない奴らより、がんばったあなたのほうがよっぽど偉いわ!」

 ようやく出会えた。

 学校に入って以降、ひとりもいなかった相手が、両親ですら、なりえなかった存在が目の前に。

 わたしを認めてくれる人に、ようやく出会えた。



 メリーちゃんが泣き出してしまった。

 しかも、わたしに抱き着いてきた。

 かわいい。

 さすが主人公だ。

 男だったら嫁にもらっていた。

 わたしはメリーちゃんが泣き止むまで、彼女の頭をなで続けた。


 泣き終わった彼女は、飛び切りの笑顔を見せてくれた。

 でも、彼女の笑顔をみると、少しだけ胸に引っ掛かった。

「ごめんね。もっとはやく気づいてあげられなくて。」

 すると彼女はとても慌てた様子で、頭と手を横に振る。

「気にしないでください。わたし、あなたに救われましたから。

 こちらこそ、たすけてくれたのにあんなこと言ってごめんなさい。」

 これで引っ掛かりも取れた。

 あれ、これってもしかして?

「これからはわたしたちは友達ね。」

 転生した世界で初めての友達なんじゃないか?

 すると、メリーちゃんは一瞬不思議そうな顔をしたあと、太陽のような笑顔で頷いた。

 かわいい。


 あの一件以来、わたしはメリーちゃんと一緒にいることが多くなった。

 メリーちゃんは主人公なだけあってとってもかわいい。

 いつも天使のような笑顔を浮かべてわたしのそばまで寄ってくる。

 休み時間になると、遠い教室からわざわざわたしのところにまで来てくれる。

 ゲームでは嫌がらせのためにミリスレアがメリーちゃんの教室まで出向いていたのに立場が逆だ。

 ちなみに、はじめて「メリーちゃん」と呼んでみると彼女はかわいいを具現化したような笑顔でよろこんでくれた。ミリーちゃんからは「ミリスちゃん」と呼んでもらっている。一応公爵令嬢なわたしについている取り巻きがうるさかったが黙らせた。メリーちゃんに文句を言わない取り巻きが、友達になれる可能性のあるやつだ。


 そういえば、メリーちゃんと過ごすことに夢中で忘れていたが、そろそろモテモテ計画を再開しなければ。

 わたしとしたことが、すっかり忘れていた。


 想定外の事態が起きた。

 わたしが攻略に行き詰っていたイケメンたちに大きな変化があったのだ。

 というのも…。

「メリーちゃん、今度ぼくとデートに行かない?」

「オレとだよね! メリーちゃん!」

「おれと一緒に来い、メリー。」

「わたくしと、デートに行きましょう。」

 イケメンたちにアタックする際に、メリーちゃんもそばにいたいと離れなかったので一緒に彼らのもとへと出向いたのだ。

 それが失敗だった。

 彼らは一瞬にしてメリーちゃんの魅力にメロメロにされ、一斉に口説き始めたのだ。

 そう、今日この瞬間をもって、わたしのモテモテ計画は一瞬にして崩壊したのだ。

 まあ、いいや。

 メリーちゃんがいるおかげで、正直前世の学園生活よりかはバラ色だし。


 イケメンに言い寄られているメリーちゃんの様子をうかがってみる。

 もしかしたら、これまでにないほどの、頬を赤く上気させたとびっきりにかわいい顔を見られるかもしれない。

 わたしはもうすっかり、イケメンよりもメリーちゃんのとりこになっていたようだ。

 あれ?

「メリーちゃん? どうかした?」

 イケメンたちに言い寄られるメリーちゃんはなんだか不機嫌そうだった。目つきは険しく、ほっぺを膨らませる姿は不機嫌さは伝わるがかわいいものだった。

「あの、みなさん。」

 普段の可憐な声とは一線を画す、凛とした声だった。

「わたし、みなさんとデートはしたくありません。」

 まあ、出会っていきなりだもんね。

 普通もうすこし段階踏むよね。

 あれ、そういえばいくら何でもいきなり過ぎない?

 わたしが好感度アップイベント起こしても恋人には程遠い感じだったのに、いくらメリーちゃんがかわいいとはいえ、ゲームではいまみたいな一目ぼれではなかったはずだ。

「みなさんが、わたしのどこを見て好意を抱いてくださっているのか。

 正直、いやというほどわかります。」

 イケメンたちはそろって顔を見合わせる。

「胸、ですよね。」

 まさか、そんなわけ。

 ゲームじゃ女性の魅力は顔で決まらないとまで言い切った紳士なイケメンたちがそんなこと。

「「「「もちろん」」」」

 声そろえやがった。

 最低だこいつら! 全然紳士じゃなかった!

「ミリスちゃん」

 やさしく諭すような声音だった。

「この人たちは、ミリスちゃんにふさわしくないわ。」

 確かに、幻滅した。

 だが、わたしとて、彼らの顔しか見ていなかった。

 胸しか見てない男を批判できる立場にはない。

「ミリスちゃんは、この人たちが好きなの?」

 とても不安そうな声だった。

 きっと心配してくれているのだろう。

 だが、安心してほしい。

 元から好きだったわけじゃない。ただ、イケメンだから好きになってほしいな程度に思っていただけだ。

 あれ? わたし最低じゃない?

 とりあえず、わたしはメリーちゃんに首を振って否定する。

「そっか。よかった。」

 メリーちゃんは安堵したように微笑んだ。さながら慈愛の聖母のようだ。

 すると、メリーちゃんはわたしの目の前に立つと、かわいらしくもじもじし始めた。

 なんだろう?

「ミリスちゃん!」

 絞りだしたような声だった。

「わたし、ミリスちゃんのことが好きです!

 わたしと、婚約してください!」


 ……………ん?


「はじめて、たすけてもらったときから、ずっと気になってました!

 わたし、ミリスちゃんに恋してます!

 わたしと、付き合ってくれませんか?」

 メリーちゃんの顔は真っ赤だった。

 顔を赤く染めるメリーちゃんはとてもかわいい。

 と、いかん。

 これって告白されてるよね。

 しかも、乙女ゲームのエンディングで主人公が攻略したキャラに言うセリフだ。

「そこにいる男たちよりも、あなたを幸せにしてみせます!

 だから、わたしを選んでください!」

 男前なセリフが飛び出した。

 メリーちゃんは涙目になってしまっている。

 反応がないので不安になっているのだろう。


 う~ん…。


 腕を組んで考える。

 わたしはそこらの男よりメリーちゃんのことが好きだ。

 だってかわいいし。

 ただ、それは恋愛ではなく親愛としてだ。

 わたしにそういった性癖はない。

 だけど…。

 幸せにしてみせるといわれてしまった。

 そのセリフにときめきを感じた。

 うん、いけるかも!


「それじゃあ、これからよろしくね。メリー。」

 そうつげるとメリーは満開の花のようにかわいくて美しい笑顔になった。

 その笑顔をみると、わたしもなんだかうれしくなる。


 イケメンにモテる思惑も、初めての友達を得る思惑も、すてきな恋人を得る思惑も、自分の性癖に関する思惑も、全部あたらなかったけどわたしはこの世界で幸せに暮らしていけそうです。

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