ある災難 冷たい猛暑

東京中部の閑静な住宅街にある床屋で遺体発見の一報を受け青山班は現場に急行。青山班水野刑事は見覚えのある商店街に不安を隠しながら、青山主任にふと浮かんだことを伝え、車を降りると全身に暑さが食らいつく。目の前の床屋に、ある確信を抱いたのだ。二日前──水野は、休みを利用して出産間際の妻・英里子を持つ旧友の小倉の家を訪れた。お腹の子と優しく戯れる水野だったが、二人は数ヶ月ぶりに再会したこともあって呑みに行くことにした。小倉がよく通っているバーで多少酔った二人は、今日に至るまでを思い起こしたが、髪が伸びているという他愛もない話題になり、小倉は身だしなみとして近くの床屋に足を運ぶ決意をし、マスターに電話番号を教えてもらって三十分後の予約を入れた。そして水野と別れ、床屋に向かう小倉だったが、行ってみるとオーナーの田口が切らないと言い出した。予約時間を一分過ぎているというのが、田口の燗に触ったらしい。小倉は確かに酔って時間を甘くみていた自覚があり、反省はしたが受け入れてくれない。田口の厳格なところは止まらず、ついには冷たく帰れと言われてしまう。さすがに腹を立てた小倉は、カッとなって田口に掴みかかり、やがて揉み合いに発展。気づいた時には田口の息はなかった。とりあえず死体をトイレに隠し、カーテンを閉めて店先の看板は「準備中」にした。酔いが覚めるほどの帰り道、英里子は産気づいていた。タクシーを呼んで病院に入ったが、父親として振る舞うことに必死だった。その夜、準備と称してアパートに逃げ帰った小倉は苦い酒をひたすら浴びるように呑み、これですべてが洗い流されたような気がしていた。折しも、水野は捜査の間に小倉の家を訪ねた。英里子は無事に出産したらしいが、一緒に病院へ行くと青山が心苦しいながらも英里子に事柄を問い質している。居合わせた小倉は案の定、重要参考人として連行されていった。小倉は否認したが、水野の証言もあって床屋に行こうとした事実を払拭できない小倉は不利な状況だった。取調官が水野に変わり、小倉の口から犯行の自白が始まる。こうして小倉は逮捕され、英里子の元にもそれが伝わる。英里子にとって夫のいない時間に起こった事実を飲み込めるわけもなく、退院早々に妻としてのつとめが待っている。小倉の動機は主に田口への憎い記憶を挙げた。近所の常連の話では、子供に対し冷たい態度を取ることが多々あったとしており、小倉の記憶は幼少期から通った床屋に対するものらしい。夏が過ぎ冷たい季節に回ってきた裁判は、明らかに有罪判決の向きをしている。

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あらすじ・いちごの友情 栄地丁太郎 @kakuken

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