墓石の札束

宮井一雄はその夜遅く、厚手の上着で隠すようにアパートに帰ってきた。妻は血塗られた内側にどよめく。十二年前、倉持敏夫は倉庫で女性作業員に見惚れて、車両の運転を誤り彼女を下敷きにさせてしまう──。文京区内のマンションで遺体発見との一報を受けた青山班は高層階にあたる十階に踏み込んだ。遺体の身元は部屋の住人である倉持敏夫と判明。初動の時点で、彼は十二年前に仕事場で事故を起こし相手を死亡させ、執行猶予つきの有罪判決が確定していた。他の身寄りは田舎にしかおらず、隣人は頻繁に知人を連れ込み、人脈が広いと語った。青山班は怨恨の線で調べを進め、数日前に馴染みの居酒屋を共に利用していた実業家の八木に話を聞き、倉持が過去の事故について再び罪の意識に駆られていることを知る。青山主任は急に浮上してきた責任に違和感を覚え、方針を変えて資料を漁り、倉持が死亡させた宮井佐和子の両親を訪ねた。実家は荒れ果て、誰も住んでいなかった。近隣に親戚があり、杉並に行くと言って夜逃げのように同地を去ったらしい。明日には佐和子の命日になるため宮井家の菩提寺に行くことを勧められた。青山班はあるワイドショーで倉持に触れていることを突き止め、音楽番組収録途中にスタジオへ行き司会者・結城に話を聞く。倉持はやたら金回りが良く、事故の前から裏社会と関係があったらしい。あまり見えてこない倉持の実態を気にしながらも、青山班は菩提寺に向かった。昼過ぎ、宮井家の墓に立ち止まった初老の男、一雄である。そこに、一雄は何かを見つけた。杉並への帰り道、一雄は列車内で娘への愛情、日常と犯人への恨みを明かしてくれた。青山はその倉持が死んだことを伝えると、清々した様子だった。帰り際、一雄の妻は見送りの時に一雄が少し前に事故を起こしたと記した紙を渡した。杉並の街で聞き込むと一雄をよく覚えていて、杉並での暮らしぶりが青山班にも見えてきた。その夜、一雄は終電で杉並の街を出て行った。青山班は尾行して上野駅で客車に乗り換えるのを認めると、宮井家の菩提寺へ急いだ。一雄はやはり菩提寺に侵入し、宮井家の墓を開けて中から札束を取り出した。そこに青山班は突入し、一雄は白状した。一雄が起こした事故の相手は倉持の関係者だった。倉持が一雄を同類とすることで相手に金で泣き寝入りさせ、二人は度々会うようになる。だが、事件当夜、佐和子の詫びで金を出すと言われ屈辱を感じた一雄は自ら腹に包丁を向ける倉持を思い切り押して、結果死亡させたのだ。菩提寺の金は、すでに倉持が詫びを入れたことを示すものだった。その後、八木が殺される事件があり、倉持も裏社会の底知れぬトラブルによって命を狙われていたことがわかったが、今は粛々と罪を償うことを青山に誓うのだった。

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