第14話 十月祭
雫の来訪から暫く経って今は十月の中旬。長月が神無月へと切り替わった。
長月の名称は夜が長い月というところからきているらしいが、なんとも偶然なことに乾
あれからまだ一ヶ月。だけどそんな夜の長さが見せる夢のように、俺と瑠夏の間に流れる時間のようなものはあっという間のように感じた。
そして十月に入り、俺にとって初めて大学らしいと言えるようなイベントが今週末に控えることとなった。
「十月祭ねえ、なんかの皮肉かよ」
この名称の何が面白いかって、神無月の名称にある。
色々説があるらしいが、よく聞く話は十月は神様が出雲に出張することで各地で神が不在になるからというものがあるらしく、それ故出雲の辺りでは神在月が存在するとか……。
無論俺が出雲に行って十月の別名を聞いたことがないから真偽はわからないけどよく聞く話だ。
別な説では十月は祭りがない月だからというのもあるらしい。
どちらをとるにしてもそのどちらをも裏切るこの十月祭はやけに面白い。
神無月を取るとすれば、本来祭りというものは神様を招いて宴を開くものであったり、豊穣のために神様に捧げるものなはずが、神もいないのに行うという。一体全体、何に何を捧げるためのお祭りなのだろうか。
「へぇ、十月祭なんてものがあるんだね大学には」
隣で俺の独り言を聞いていた瑠夏は興味深そうな顔で問いかけてくる。
「そう、言っちゃえば学園祭なんだけどな」
「とはいえ大学と高校じゃ規模みたいなものが違うじゃん?」
「まあな」
俺の通う大学の唯一ある全校的なイベントということもあって各サークルや部活動の力の入れ具合が違う。そんなこともあって最近は学校が終わる時間でも精力的に活動しているサークルが目に付く。
「私一緒に行きたい! ねぇねぇ行こうよ~」
「……分かったよ」
少し考えたもののこの話を出してしまった段階で俺に逃げ道なんてものはない。それならばさっさと諦めて頷くのが一番波風立たない。
そもそも最初から逃げ腰なのは、この大学の周辺にも色々な大学が存在する。それに十月祭は週末に開催されることもあってなにより人でごった返しそうな印象を受けるのだ。
…………それに――
(こいつと行くと周りの目を引きそうなんだよな)
瑠夏は普通に可愛い。
俺が由香という従兄妹を見慣れていなければ、普通にびっくりしていたと予想できるくらいには美少女というカテゴリにーにはいる。だからこそ、ナンパだとかそういう目的で人がくる可能性のある場所にあまり連れて行きたくないといった気持ちがあった。
「楽しみだなぁ~! 何着ていこう!」
なんて陽気そうに来ていく服を選んでいる瑠夏を見ていると、そんな俺の考えは心底どうでも良くなってくる。
横に座る瑠夏が楽しそうな様子でスマホのカレンダーに予定を書き込んでいるのが分かる。
ほんとに何がそんなに楽しいのやら。
そんな様子を見てちゃっかり俺も自分のスマホのカレンダーに「十月祭」と書き込んでおいた。
そして週末。
「唯斗起きて~」
俺がセットしたはずの目覚ましにはこんな女子の声は入っていない。
それを
「ぐはっ」
そんな俺の考えを見透かしてか、俺のみぞおちに一発の拳がめり込んだ。
「それ、普通にやっちゃ駄目なやつ……」
結果的に俺の目覚めがもう少し先になる。
「もう! 何で寝ちゃうかな!!」
「いや、あれを寝てるとは言わない!」
ぷりぷりと怒りを見せる瑠夏と共に朝食を摂る。
まずは現在の時刻の方を確認しておこう、今は朝の六時半だ。なんなら俺が怒ってもいいのではないだろうか。
社会人として働いているわけでもないので「たまの休日に!」なんて怒りを見せるわけではないが、それでも俺よりも早置きのお姫様に一言くらい言ってやりたいものだ。
そもそも、今朝の一連の出来事は本来の目覚ましセット時間よりも二時間ほど早い朝五時半の出来事だ。つまり俺は予定よりも一時間早く今朝食を食べている。
「お腹ぜんぜん減ってない……」
「いいから食べて~」
いつもよりも早い時間の起床に体のほうもまだ納得できていないのか目の前にあるおいしそうな朝食が喉を通らない。
大学の十月祭の開始は十時からだ。一体こいつは何時間遊び倒す気でいるんだろう。
「なあ、何時から行く気でいるの?」
「もちろん開始したらすぐのつもり!」
俺の想像通りな解答に思わず「はあ」とため息が出る。本当にこいつって奴は……でも、逆に言ってしまえば早いうちに行けば人も少ないしナンパの心配もないのでは……。
なんて俺の甘い考えは大学に着くと同時に捨て去ることとなった。
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