第12話 顔色

「なんだかさっきまでと雰囲気違わない?」


 帰ってきた由香の第一声がそれだった。

 思い当たる点があるだけにどう答えていいものか……。などと悩んでいると瑠夏の方から先に声が出る。


「特に変わらないと思うけど~?」


 あくまでもいつも通りにそう告げる。それが嘘だと分かっている俺からしてみれば、よくもまぁそんな堂々と嘘をつけたもんだなと関心せざるを得ない。


 瑠夏の方からは情報を抜き取れないと諦めたのか今度はこちらに疑いの目線が向けられる。だが、俺もこれまで得てきた演技のスキルでこんな尋問簡単にくぐりぬけて――


「はい、嘘ついてる」


 一瞬だった。いや、もうそんなことありえんのってくらい刹那の間に俺の嘘が看破される。

 元来女性は男性の嘘(浮気)を見抜くため、第六感のようなものが存在すると呼ばれているがあながち間違っていないんじゃないか。そうでないと説明の仕様がない!


「唯斗は本当に分かりやすいわね」


 そこまで言いますかね。

 自分のできる最高の演技がまるで通じないだけでなく、俺自身まで否定された……ユカッテコワイ。


「いい? 男ってのはね、女性に嘘がつけない生き物なのよ」


 先ほど俺が自分で思っていたことを本人から告げられることほど惨めなことはない。


「であるからして、唯斗の嘘は通じない」


 かつて、ここまで俺の心が折られるようなことがあっただろうか……。


「まあ、それはいいとして結局何があったの?」

「いや、何かがあったかといわれれば本当に何もないんだって」


 再度俺の表情を読むべく俺を見つめる。


「なるほど、それは本当のようね」

「ねえ、なんでわかるの?!」

「さっきからそれ、なにで判断してるの?!」

「まあ、あなたになら教えてあげてもいいわ。ただし、唯斗に漏らしちゃ駄目よ」

「はーい!」


 二人は俺に声が届かない範囲まで離れるとヒソヒソ話を始める。あの様子を見るに由香は確実に何らかの方法で俺の嘘を見抜いているらしい。悔しいからそれでもみやぶれないようにして、いつか二人を騙してやる。そう俺は固く決意した。



「そろそろいい時間だし雫の奴を迎えに行くか」

「あ、もうこんな時間だったのね」

「私も行く行く~!」


 すっかり忘れていたが隣のこいつも大学を目指すであろう高校生の一人だ。


「そういや、瑠夏はオーキャンとか行かなくて良かったのか?」

「私は三年の最初の方で唯斗の大学は行ってるし、それからちょろちょろと志望する大学決めるために行ってたから……。それに推薦ももう決まってるから準備するだけ」


 普段はだらだらしているこいつも高校の生徒会長をやっていたり、成績の方もよかったりと意外とこれが優等生なのだ。普段の姿からはまるで想像もつかないが。


「なんかひどい想像しているなその顔は」

「いやいや真逆」


 じーっと俺を見つめる。先ほどまでの由香と同じように俺の顔色から真偽を問いただそうというわけだ。別にやましいことはないから今回は平常心……。

 俺の顔からは何も情報を得られなかったからかすぐに「ふん!」と視線を俺から外す。


「じゃあ、そろそろ行こ!」

「はいよ」


 軽く準備を済ませ俺らは家を出る。


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