第6話 深夜のリビング
夕食を終えて、ある程度の片づけを終えた俺らは各自思い思いの時間をすごしている。
俺は電子書籍を、雫は俺の右隣でひっつくようにスマホを弄っている。その俺の左隣では瑠夏がテレビを見ている。唯一この場にいない由香はというと風呂に入っている。
「そういえば女子は俺の部屋で寝てもらうってことでいいの?」
「うん、もちろんうちは構わないけど」
じっと視線を横に投げかける。その先にいる瑠夏はひらひらと手を振って「わたしも問題ないよ~」と緩い声を上げている。
あとは由香か……。
「お風呂上がったわよ~」
ずばりいいタイミングで由香が戻ってくる。直前まで視線で語り合っていただけにその場にいた六つの瞳が彼女のほうへ向けられる。
「……なによ」
「いや、女子たちが寝るの俺の部屋でも大丈夫かって話してたから」
「別に私は大丈夫よ」
「なら女子たちは俺の部屋使ってくれ」
「それって、唯斗は部屋で寝ないってこと?」
不思議そうな様子で瑠夏が問いかけてくる。
「そりゃあ当たり前だろ、さすがにそこまで俺もあほじゃない」
ある意味じゃ自衛のための手段であることは言うまい。理性の面もそうなのだが、雫は寝相が……。
というか雫はいいとしても(年頃としてはよくないが)、こいつも最近俺とほとんど一緒に過ごしてるから感覚がアホになってるのだろうか? 俺に対する警戒心が薄すぎる。
「なんか、ひどいこと考えてない?」
「いや、別に」
深くは考えるまい……。
各々寝る支度を済ませ彼女たちは俺の部屋へ、俺は一人リビングのソファに横になっている。元々使うことを想定していなかったとはいえ、このソファは背もたれを倒せばベッドとして使えるタイプのソファで意外にも寝心地は悪くない。
ただ、そんなベッドにごろんと横になってみると、なんというか見慣れない天井を見ているといえばいいのか空気が違うといえばいいのかなんとも言えない不思議な気持ちにさせられるのだ。
「……眠れん」
普段は部屋の方で寝ているからってのもあるんだけど、普段は人一人分、最近はまぁ二人分の匂いな訳だが、とにかく普段の家とは違った匂いが感じられてすこし興奮してしまうような気持ちにさせられる。
あれだ、友達の家に泊まるときに自分の家とは違うんだなって認識して少し寝れないてきな、それに近い感じ。
「(……ていうかあいつらほんとに同じシャンプーとか使ってるんだよな?!)」
部屋の中からほんのりと感じられるシャンプーとかボディソープの残り香がまるで自分のものとは違うような、どこか女子っぽい匂いを感じるのは何でだろう。
そんな疑問が俺の頭の中で右往左往して俺の睡眠を妨害する。
電気の消えたリビング、時よりキッチンの方からぶおおんという冷蔵庫の音が聞こえてくる。そんな少しだけ違う我が家のせいで眠りに集中できない。
部屋の方からは女子たちの会話している声が聞こえる。部屋とはいえ壁一枚向こうの話、大分抑えられているとはいえ小さな声もこんな静かな空間に聞こえてくる。
眠りに集中しようとイヤホンをつけてフィーリングミュージックをかける。それだけでどこか眠りに意識を集中させることができた。プラシーボ効果ってやつだろうか……。
しかし……だ、一度深く沈んだはずの俺の眠りも、そう長くは続かなかった――
「ふぅ」
小さくそう聞こえた気がした。気がしたっていうのは、「ふぅ」なのか「ほぉ」なのか、それとも「はぁ」なのかその時の俺は半分寝ていて気づかなかったからだ。同じハ行音だ、大差ない。
いつの間にか外された右耳のイヤホン、その空いた耳の方で「くすくすっ」と女の子が笑った。無論だがこの家には今男の類はいない。むしろ男だったら犯罪のにおいがする。
そしてその声の主はひとしきりに笑った後に小さく囁くように、
「きちゃった」
そう告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます