第14話 待ち合わせ
先日の文化祭を終えてから早くも一週間、週末から翌週にかけての四連休の初日を迎えていた。
本日も晴天なり。なんて言いたくなるくらいにからっとした秋晴れに、少しウキウキを隠せない。本日は珍しく瑠夏も俺も予定が入っている。そのため朝の段階から別々な一日を過ごしていた。
「由香になんか言われたらめんどくさいからな、しっかりと準備をしよ」
クローゼットから黒のスウェットと青系のデニムを取り出し、俺個人的にはオシャレに決めた方のコーデでこの日を過ごすことに決める。
服装を決めた後は少し髪を整えるべく洗面台に、チャラ過ぎない程度に髪をいじれば、休日大学生っぽい髪型が出来上がる。そういった感じにに朝から気合を入れていれば時刻ももうすぐ九時半を迎えようとしている。
約束の時間は十時半となっており十時までに出れば約束の時間までにはきっちりと着く予定だ。なので少し早めに着く為にもそろそろ出たい。
ただ、由香に対する複雑な男心としては、あまりに早く着きすぎるとすごい楽しみにしていたと思われそうで笑われそうだし、逆に由香よりも遅く着いてしまえばそのことでマウントを取られそうでそれもそれで嫌だ。なので、遅刻は絶対にありえないにしても早すぎず遅すぎずな時間につきたい。
念入りな手荷物チェックを二度ほど済ませ、家を出る。
秋晴れのおかげもあり普段よりも温かく感じる今日はとてもお出かけ日和である。
心なしか外を歩くおじいさんや、ランニングに出ている人も多いように感じた。ひゅーっと吹く心地よい風もどこか楽しそうに風の音を鳴らしているように思える。そんな町も人も、風さえも楽しそうな外を歩いて、目的の駅まで向かった。
十時十分過ぎにここ
大きい駅というだけあってやはり人の数も多く、待ち合わせにここを選んだ由香を少しだけ呪いたい。
俺たちと似たように待ち合わせ場所にここを選んだ人によって場所が埋め尽くされている。ある人はスマホでゲームを、ある人はキョロキョロと周囲を、ある人は音楽を聴きながら……そんな十人十色な待ち合わせの仕方に少しだけ笑ってしまう。
ただ、そこへ向かい由香を待とう、そう思ったとき見覚えのある姿がそのオブジェの前にいた。
「お~い、由香」
「あ……」
そこらをあるく男性もちらちらと彼女を見ていたこともあり、すぐにその女性が由香だと分かった。華があるというかなんというか……。
周囲への警戒からパッと笑顔へ表情を変えた由香を見て思わず息を呑んだ。
彼女の今日のコーデはデコルテの見える黒いニットの下にキルトスカートを合わせた清楚かつオシャレといった組み合わせだ。首元に見える主張しすぎないピンクゴールドのネックレスも高評価。総じて唯斗ポイントの高い格好となっている。
総評、とても綺麗だ。
女子のニットの何がいいかって、スカートとあわせると胸の綺麗なラインが見えることなんですねはい……分かってもらえるでしょうか、分かってもらえると良いな……。
そんなこんなでとても綺麗な彼女が歩いてくれば自然と視線もこちらへと集まってくるわけで。冷たい表情が笑顔に変わったことで声をかけようとしていたハイエナのような目をした男子たちの視線が一気にこちらへ押し寄せた。
その重圧のようなものに一瞬だけうおっとなってしまう。
そんな周りの視線とは違い、俺の視線はやはり俺の前にいる由香へと釘付けである。
「随分早かったな」
「うん……早く起きちゃって早めに準備したら十時に着いちゃった……唯斗だって早いねまだ二十分前くらい」
「待たせるのが嫌だったから早く着こうとしたけど、結果的に早めに着いてよかったよ」
半分ほど嘘だけどまぁいい。由香がなぜかしおらしいこともあり遅かったと怒られることも、早いわねと笑みで迎えられることも無く済んだので結果オーライだ。
「あっ、あの……、どう……かな?」
顔を赤くして感想を求めてくる。何をなんて聞くほど理解力が無い男ではないが。それに返せる感想が、綺麗とか綺麗とか綺麗しかないのが残念だ。今の俺にはそれ以外の感想が出てこない。
「すごい、似合ってる……綺麗だ」
「っ――!?」
瞬間、ボッと更に赤くなった。俺の顔もそれと同じくらい赤いことだろう。
「あ、ありがと……」
「い、いえ……」
なぜか二人とも恥ずか死しそうな展開になってしまう。なんだなんだこの展開は……。
「とりあえず! 行こうか」
「うん」
そういって歩き出そうとする俺の袖を摘む由香、そんな彼女の行動がまた狙っているのかなんなのか……とにかく男子的にグッと来てしまうものばかりで戸惑う。
「(由香ってこんなやつだったか?!)」
そんな俺の知らない彼女の行動に心臓の高鳴りが止まらなかった。
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