第11話 文化祭のお誘い
「ねえ唯斗、文化祭に来ない?」
そんな突然のお誘いがあったのは、夕食の最中のことだった。
「文化祭かぁ」
「うちの学校の文化祭って、招待制だから事前に来る来ないを決めておかないと入れないの」
「へえ、そんな制度なんだ」
「そう、人が多いと変な人もそれなりにいるわけじゃん。だからそういう人が来ないように先んじて対処しているんだって」
「なるほど」
自分の通っていた高校の文化祭との違いに思わず驚いてしまう。これも都会故の大変なところなのかもしれない。
人口の違いはそのまま人の違いとして現れる。大都市ほど事件や事故の数が多いのと同じで人口が少なければそれもまた少ない。
俺らの地元と十倍近い人の数の違いはそういったトラブルを生んでしまうのだろう。
「そうだな、まあ行ってみても良いけど一人で行っても何の面白みも無いしな」
「それだったら私と一緒に行動すればいいじゃん!」
「瑠夏は出し物とかはないのか?」
「まあ、高校三年にもなれば受験だ何だってあるから三年は有志でやることになってるんだ」
「当日一人にならないんだったら行ってみてもいいか。瑠夏がどういう学校に通っているのかも気になるし……」
そう、俺はこいつが高校生しているところを実は一度も見たことが無い。どういう学校に通っているのかなどの、この家の外の情報を俺は知らない。だからいい機会だと思った。
「それっていつなんだ?」
「えっと、今週の日曜」
「……つまり?」
「明後日だね!」
俺は頭を抑える。そう、こいつはこういう奴だった。
何事も事前連絡なし、すべてが唐突なのだ。今までの行動の数々を見てくれば分かるが今回もそうだった。
「そういうことで! 楽しみにしてるね!」
そんなことで急な俺の文化祭訪問が決まった。
「じゃあ、唯斗私は先に行っているからね!」
日が変わって日曜日、本日は予定の通り瑠夏の文化祭の日だ。
さすがに学校の日ということで一緒には行けないこともあり、俺は後から一人で学校へと向かわなければならない。
事前に場所を聞いてはいたが「直前になって何とか理由をつけてやめよう」と逃げの思考が出てくる。だが、そんな時にやって来る瑠夏からの「校門前で待ってるからね!」というメッセージが俺の逃げ道を塞いだ。
絶対俺の思考先読みしているだろこいつ。
ともあれ、絶対に逃げられないのが分かってしまったため、俺は重たい腰を上げて支度を始めた。
普段は気を使わない髪型などに少しだけ力を入れて家を出る。
さすがに俺も男だ……女子からすこしでも良く見られたいと思っても誰にも
「よし……いくか」
そんな感じでいつもよりも念入りに準備をした俺は学校へと向かった。
高校自体は俺らの家からあまり離れてはいない。まぁ一人暮らしをしているのだからあまり遠くに家を決めることは無いか。
今までは制服という高校へと向かう装いが俺にはあった。しかし高校を卒業した俺にはその装いは無い。それをどこか不安に感じてしまう。
もしかしたら浮いてしまうのではないか? なんて不安が付きまとうがいざ高校の近くまで来てみればそれが杞憂だったと分かる。
意外にも一般の人が多いのか校門の外からでも私服の人が一杯いるのが分かる。
……そういえば入場券みたいなもの貰っていないな……え、俺入れるの?
俺の前を行く入場者らしき人たちが校門まで向かっていくのを観察する。するとなにやらその中にいた男子生徒に話しかけられている。そして、確認を終えたのかそのまま中へと入っていった。
俺もそれに倣い、校門へ向かう。するとその場にいた受付らしき男子生徒は先ほどの人たち同様に俺に声をかけてくる。
「一般の入場者様ですか?」
「あ、はい」
数人の生徒がそこに座っており、男子生徒の腕には生徒会とかかれた腕章が付けられている。
「招待してくれた生徒のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「ええと。
普段からあいつのことを名前でしか呼ばないので苗字を忘れかけていた。咄嗟に家の表札に書かれていた乾という苗字を思い出すことが出来てよかった……。
「え、ってことは貴方が!」
なぜかその受付の周囲にいた生徒たちがざわめきだす。なんだなんだ?
「失礼ですが、お名前の方をお願いします」
「天城唯斗です」
尚も仕事を全うするその生徒会の生徒の後ろで同じように実行委員という腕章をつけた女子生徒が「やっぱり!」と声を上げた、それにつられる様に視線が俺へと集まる。何がなんだか分からない。
すると声を上げた女子生徒が俺へと近寄ってきて何か聞きたそうな顔で俺を見あげた。
「あ、あの会長とはどのようなご関係なんですか!」
周りの女子生徒も固唾を呑んで俺の回答を待っていた。
「え、会長って瑠夏のこと?」
「は、はい!」
あいつ会長なんてやってるんだななんて思っていると、後ろからは「瑠夏って言った!」と大騒ぎ。俺の方が騒ぎたい気分だがそこはぐっと堪え、なんとか笑顔で「知り合いだよ」と答える。
「そうなんですね! わかりましたありがとうございます」
そういってその女子生徒は後ろの輪に戻っていく。何とか納得してもらえたようだ。
だが、唐突具合では俺の想像を遥かに上回るであろう彼女のことをすっかり失念していた。
「ごめん! 来るのが遅れちゃったね唯斗」
彼女は俺の背後から俺の腕を組むように現れた。そしてすっかり落ち着いたはずの後ろの女子たちが再度「わぁっ!」と叫ぶのが聞こえた。
ああ、本当にこいつって奴は……。
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