第10話 私と……出かけませんか?


 店に入り、席に通されると季節は秋だからか栗などのパフェが期間限定商品としてピックアップされていた。


「ん~、じゃあ俺はオムライスとドリンクバーとこの抹茶とマロンのパフェ」

「……早いのね」

「ゆっくり決めて良いぞ、俺はなんとなく昼食べに行くって決まった時点でオムライスにしようって決めてたから」

「ふぅん」


 そういって少しの間メニュー表をパラパラとめくった後、


「私はじゃあカルボナーラに唯斗と同じパフェの小さい方にする。後ドリンクバー」

「オッケー」


 手早くボタンを押した後、注文を店員に伝える。

 料理が届くまでのこの時間が苦手だったりする。なんと言うかこの時間ってすごい短いようで長いんだよな。


 俺は人によっては話をするタイプではあるが、由香はなんというか俺にとってはとっつきづらい部類に入るのだ。もちろん俺と由香は昔からの付き合いではあるが、結局いつも間には妹の雫がいたため、俺と雫の話題に由香が入るか、もしくは由香と雫の話題に俺が入るかだったのだ。なのでこう二人になってしまうと由香にどういう話題を振ればいいのかがいまいちわからない。


 それにこいつ、いつも俺には冷たいからさ……。

 高校の学校帰りとかはなんかその日の話題とかで何とかなったのになぁ……。今はあの頃とは少し違う。


「夏休みの間……何してたの?」

 

 俺が話題に悩んでいると、意外なことに由香の方から話題を振ってきた。


「ん~、最初の方はやっぱり風邪だったから休んでいたけど、中盤辺りからは日雇いのバイトをちょこちょこって感じ。由香はずっと日田見?」

「ええ、ギリギリまで帰ってた」


 日田見というのは俺と由香の生まれ育った地元で、結構な田舎だ。遊び場といえる遊び場もないし、あるといっても場所が離れているので学生的には移動の面が厳しかったりする。


 今となっては良くまぁあの町で青春を過ごしていたなと思う。そういう点においては瑠夏のような高校生にとってはこの町はありがたいのだろうな。


 ただ時々、そんな何も無い町の何も無さが恋しくもなったりする。ここ合幌あほろは都市ということもあり、今までの生活に比べてあまりにも何もかもがありすぎる。人も物も何もかもが桁違いだ。あまりに沢山のものが揃っているだけに情報過多になってしまうのだ。だから何も無い、そんなことが魅力に感じてしまう。


 人々の喧騒も、町が奏でる騒音も、ここと比べると半分以下だろう。

 由香もギリギリまで地元に残っていたのは、そんな都会疲れのようなものがあったからなんじゃないだろうか。


 きっと俺もあの時帰っていれば、彼女と同じように地元にギリギリまでいたんだろうな。


「唯斗は冬まで帰らないつもり?」

「まぁ、もう後期の授業始まったしな、連休でもない限りは……」

「そう、まあそうよね」


 カレンダーアプリを開き今月来月の連休を調べる。

 来週末から大きな連休が待っているのだが、残念なことに急なことすぎてバスの予約は取れそうにも無い。


「帰るとしたらやっぱり年末だな」

「そうね、連休が無いんじゃさすがにどうしようもない」


 気を使ってくれた由香と、雫に申し訳ない気持ちになりながら料理の到着を待つ。


「だから……じゃないけども、そのうち、その……どこか一緒に行かない?」

「ああ、別に良いぞ」


 急なお誘いプラス、由香から申し出たことに驚いたがそれでも別に嫌なわけではない。


「……そっか、うん。行く場所決めましょ!」


 普段は見せない嬉しそうな表情を見せる。そんな意外な面にドキッとしてしまう。

 ……ここ最近ギャップ萌えが流行っているのだろうか……なんてことをついつい考えてしまう。ただ、楽しそうに行く場所を考えてくれている由香を見ているとそんなことはどうでも良くなってしまい一緒になっていく場所を考えた。


 料理が来るまでの間、二人でああでもないこうでもないと言い合って目的地を決めあった。


「それじゃあ、細かいことはそのうち決めるってことで」


 食事も終わり店を出て、由香の家の近くまで話し合いは続いていたがそれも終わり、今はもう彼女の住むマンションの前についてしまった。


「ええ、わかった」


 ある程度決まったのもあり納得して、マンションのオートロック前まで向かっていく。

 それを見届け、俺は自分の帰路につこうとするが――。


「唯斗っ――! またね……」


 小さく手を振る彼女。


「ああ、また」


 俺も手を振る。

 まだまだ太陽が元気に活動をしているおかげもあって彼女の顔が良く見える。


 朱が差したその頬ととも手を振る彼女はいつにも増して綺麗に見えた。きっと、これが夕方だったのなら夕焼けが邪魔して見えなかっただろう。


 だから少しだけ太陽に感謝しながらその場を後にする。彼女の意外な一面に気づかせてくれてありがとう。


 いつからか苦手に感じていた彼女と、少しだけ仲良くなれた気がする。

 そんな新学期初日の出来事だった。

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