「ウコン」

休日の晩。学生時代からの友人と居酒屋に入った。店内の賑やかな雰囲気を感じていると頼んでいた中ジョッキが来た。


「それじゃあ、かんぱ、あっ」


 友人が何かに気付いたのか、懐に手を入れた。するとウコンのサプリメントを取り出した。


「最近。呑む前はこれを含むようにしているんだよな」

 そう言って、友人が五粒飲んだ。


「さて、改めて」

 俺達はジョッキを合わせた。






「ほんじゃあなー」

 友人と別れた後、俺は一人、酔いの心地よさを感じながら歩いていた。友人とのやりとりを思い出しているとウコンの事を

思い出した。友人曰く、効き目は確からしい。


 それを飲むほど、俺達は歳を重ねたという事か。歳は取りたくないものだ。しばらく歩いているとコンビニが見えた。少し飲み足りなかった俺はコンビニで缶チューハイを購入した。すると近くの商品棚にウコンの錠剤が見えた。購入しようとしたが、唐突に躊躇いが生まれて、手を伸ばさずにレジに向かった。



 何故手を伸ばさなかった。何故買わなかった。


「そうか。俺。認めなくなかったんだ」

  歳を重ねているという事実を受け入れたくなかったのだ。どこか自分にみっともなさと惨めさを抱きながら、プルタブに指をかけた。

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