「大変である事の価値」

夕暮れの中、一人歩いていた。今日は疲れた。特に疲れた。仕事の肉体的疲労。上司の叱責による精神的疲労。それらで心身が見事に削り取られていた。


 子供の頃、誰かが言った。若い頃は苦労すればするほど良い。その方が未来で得をする。その言葉を信じていた。苦労すればいい。苦労すればいい。未来できっと報われる。


 そうして信じて飲み込み続けてきた薬が有毒化して僕の心を蝕んでいた。


 それは苦労に価値を見出せればの話だ。それを理解する前に心が病んだり、自害を選ぶ人もいるのだ。


 大変であることの価値はなんだろう。分かっている。今は心が辛いから視野が狭まっているからマトモな思考なんて出来てはいない。


 苦労というのはきっと薬だ。使用の仕方では毒になるのだ。


 今、僕は毒に侵されている。分からない。もう何も。


 すると携帯の通知が鳴った。好きなアイドルのライブが当たった。


「じゃあああああ!」

毒が薬に変わった。


 

 

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