「隣人」

 アパートの一室。僕は夕食を食べていた。あまりものをかき混ぜた何とも粗末なものだ。


 すると隣の音から物音が聞こえた。おそらくお隣さんだ。


 ここに来て2ヶ月経つが未だにいまだに見たことがない。どんな姿なのか? どんな仕事をしているのか?


 昨今はご近所付き合いというものが乏しくなった。


 無論、僕もその中の一人だが一度も見ないのは少し、怖いものだ。


 会社に行く時も扉に目を向けるが反応はない。


 しかし、確かに物音はする。誰か住んでいるのは事実だ。


 だけどそれでも言いようのない恐怖感が沸々と湧き上がってくるのだ。



 次の日、休日に出かけようと部屋を出ると、一階の方で一人のお婆さんと目があった。このアパートの大家さんだ。


「こんにちわ。大家さん」


「あら、こんにちわ」

大家さんは丁寧に挨拶を返してくれた。僕は早速、隣人について尋ねてみることにした。


「あの僕の隣の部屋って誰かいらっしゃるんでしょうか? ここに来て数ヶ月。会ったことがなくて」


「ああ、人は住んでいないわよ」

 大家さんは仏のような笑みを浮かべた。その言葉に安心感と恐怖が混じったような感覚を覚えた。

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