「居酒屋にて」


 店内のブラウン管から流れる歌謡曲。その近くでは歌謡曲に合わせて,陽気に歌う男性とビールを飲んでいる男性。


 二人とも顔を赤くして心底嬉しそうな笑みを浮かべている。


 いつかは僕もこうなるのだろうか。僕が今聴いている曲も彼らにとっての歌謡曲になり,またその時の若者に不思議そうな目を向けられる。


 ビールを口にしながら,脳裏にそんな思考が浮かんだ。


 こう言う場所に来ている時点でその可能性はゼロではない。


 ひとしきり酔うと会計を済まして,外に出た。


 気分が高揚としているのか、不意に歌を口ずさんだ。


 小さいが確かに僕はあの赤い顔で陽気に歌う男性達の元へ一歩ずつ近づいているのが分かった。

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