「都合のいい神様」

 透き通るような水の中、僕は一匹でプカプカと浮いていた。ここにいる二足歩行の生き物は不思議だ。僕を見るなり頭を下げたり、手を重ねたりするのだ。


 僕はそんなに目立った存在ではない。赤いお腹と黒い体が特徴のただのちっぽけな生き物だ。


 だけどその対応を受けているのは僕だけではない。すぐ近くには二足歩行の生き物が作った巣に僕と同じような対応を受けている。


 猫のように縦長に伸びた瞳で時折、僕を見る。僕はその子に妙な親近感はあるものの、声をかけたことはない。


「あの生き物って都合がいいよね」

 突然、その子が声をかけてきた。


「どうしてそう思うの?」


「あの生き物達は私達を神様かなんかだと思っているらしいよ。同じただの生き物なのにね」

 僕は目を丸くした。初めて耳にする内容だった。手を合わせたり、頭を下げたりするのは僕達をありがたがっているのだ。


「不思議だね。まあ彼らが勝手に満足しているのならそれでいいけどね」


「まあ害はないしね」

 そう言って僕とその子は笑った。ふと視線を感じると二足歩行の生き物が僕達に向かって手を合わせていた。



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