「グラスキッカーズ」

 晴れ晴れとした空の下。俺は小さな紙を握りしめながら、一点を見つめていた。そこにはゲートに入れられて、開幕を今か今かと待ちわびている馬達がいた。


 ある一頭は鼻息を荒くしており、またある一頭は緊張しているのか、なんども体を揺さぶっていた。


 これはただの賭け事ではない。今から疾走者達の競争という名の熱いドラマが展開されるのだ。


 合図と同時にゲートが開いた。一斉に駆け出す疾走者達。身を激しく揺らして、本能のままに走っていく。


 会場の空気は熱狂に包まれて,烈火の如く燃え上がる。


 コーナーを曲がるとともに観客達の声が波のようにうねる。芝生を蹴り、地面がえぐれる。それを目にするたびにいかにこの勝負が激しい物なのか一目瞭然だ。


  後半に差し掛かると同時に会場の空気はさらに熱気に包まれて、都会のヒートアイランド現象などちっぽけに思えるほど、暑くなっていた。


 賭けていた金額などどうでも良かった。勝者と敗者。全てが明確に決まるこのステージではそれらの事すら瑣末に思えた。


 そして、ゴールの中に次々と疾走者達が吸い込まれて行った。会場からは再度、歓声が湧き上がった。僕も例にも漏れず叫び声をあげた。


 一着でたどり着いた者には尊敬を、それ以外の疾走者達にも多大なる敬意を評する。


 会場を包む歓声は彼らが退場するまで止まなかった。



 


 

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