「不安定なハイヒール」
今日。両親は二人とも仕事で家にいない。母の化粧台の引き出しから口紅を取り出した。
数時間後、私は夜に繰り出す。義務教育もろくに終えていない甘ちゃんだけど、夜を遊び歩く大人達が羨ましく仕方がなかった。
背伸びして、ブランド物のバッグを買った。おそらく偽物だと思うけどこれでいい。形から入るのが大事なのだ。
この格好をして外出してから、同級生の服装や態度に幼稚に見えたし、年上の人達に近づけた気がした。
もう子供に見られたくない。一人前に扱われたい。父も母も未だに私を子供だと思っている。
だから夜に外出だってする。安直な考えかもしれない。戸棚に隠したハイヒールを鳴らしながら、街に繰り出した。
ネオンライトが照らす街の中を堂々と歩く。お父さんと同じスーツ姿の男の視線に浴びて、どこか愉悦感に浸っている自分がいた。
バックを振り回し、高ぶる感情のまま、身を踊らせていると急に足元が不安定になった。
足を見ると右のハイヒールが見事にポキリと折れていった。道歩く大人達の視線がなんども散らつく。
お前にまだ早い。夜がそう言っているようにも聞こえた。
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