「あるカフェのひと時」


 しとしとと雨が降る日曜日の昼。僕は行きつけの喫茶店で、窓際の席に座りコーヒーを啜っていた。


 エピオピア産やコロンビア産とか定かではないが、実にいい香りだ。


 視線を横に反らすとカウンター席でマスターが店内に流れるジャズミュージックに合わせながら、鼻歌を歌っていた。


 店内には僕以外は誰もおらず、落ち着いた空間の中、平和な時間を過ごしていた。


 外の気温と店内の気温の差で窓が曇っていたが、行き交う人々の姿は確認できた。


 携帯を耳にして、何度も頭をさげるスーツ姿の男性。友人達と談笑する女子高生二人。黄色い傘を開きながら、雨を楽しむ小学生などいろいろなものが見られる。


 窓の外には皆、否応無しに何かの枠組みに放っている人間ばかりだ。しかし、ここは違う。


 外界とは隔絶されているといっても過言ではないほど、ゆったりしている。時の流れを一切、感じさせない。


「雨、止みませんな」

 声のする方に首を向けるとマスターが僕の方に顔を向けて、窓を指していた。

「そう、ですね。夕方まで続くらしいですけど、できれば早くやんでほしいですね」

 僕はそう言って、窓の外を眺めながらコーヒーを口に入れた。


「こういう日も悪くありませんな」


「誰なんでしょうね。雨が陰鬱などと唱えたのは」

 雨は干魃地域では恵みをもたらすものだ。作物を作る際にも欠かせない。


 常識というものは誰かの都合の良い妄想のようなものだ。


「だけど、このコーヒーは美味い」

 そういうとマスターは嬉しそうに微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る