「スカベンジャー」


 光が一切差し込まない暗闇の中、腕長は呆然としていた。たった今、目の前に巨大な生物が落ちてきたからだ。大きさにして、腕長の数百倍で砂地に体を預け、生気のない瞳でじっと彼を見つめる。


 凶悪そうな目つきと血肉で汚れた鋭利な歯、反り返ったような背びれが特徴的だ。腕長は恐怖心を抱きつつも、糸のように華奢な足でそっと近づき、その生物を小突いたが、反応がない。どうやら絶命しているようだ。


 空腹だった腕長は安堵と感謝の念で胸中が満たされる。腕長は生まれ持って弱者だ。小柄な体、数本の触覚と手足、扇状の尾。武器になり得る物は何一つ備わっていない。それゆえに食の選択肢が限られており、彼とその同胞達は屍肉や他の細々としたものしか食えない。しかし、弱者だからこそ理解できる事がある。


 この世界に生きるものは必ず死ぬ。それは決して避けられない事実だ。死という絶対的な事実の前では皆、弱者だ。それに寄り添えるのは弱者だけだ。彼は自分の生き方に誇りを持っていた。介錯という訳ではないが、命の終わりを見届けて、その命を自身に取り込む事で、生を実感するのだ。死肉が他者の中に流れることで、死者と繋がれる。血と肉が混ざり明日へと未来への一つの道を作る。それが亡くなった者への弔いになるのだ。自分自身もいずれ、死ぬ。肉塊は分解され、この世界の一部となり、再び別の形となり芽吹くのだ。誰かに看取られるその日までただ、生きる。


 その想いを胸に、彼は静かに弔いを始めた。

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