第27話 これが「嫌」っていう名前なんだ
「あっ…かっ嘉納さん…。」
「こんにちは。販売ってまさか神社の巫女だったなんてね。」
突然現れた嘉納さんは、赤いコートに白いフワフワなバックを持って
立っていた。
なんで…?
誰にも巫女のアルバイトをしているなんて言ってないし
もちろん場所だって分からないはず…。
「あら?不思議そうな顔して…。もしかして分かっていないの?
この動画よ。これ、この近くの商店街のアカウントでしょ?」
うっ…
そうだった。
商店街の人達のアカウントだったんだ。
そうか‥‥。
でも本当にそんなアカウントなんかを頼りに特定する人なんているのか‥。
ネットって…怖い。
「おいっ。あんたなんなんだよ。いきなり。」
「ちょっ!亮二!」
「なんだよ!止めんな!ニヤニヤして馬鹿にしてんのか!」
小倉君が自分を庇ってくれている
なっなにか言わないと!
「あら?藤城さんの彼氏?それにしては…フフッなんでもないわ。」
「なっ!なんなんですか?あなた!亮二の事も藤城さんの事もなにも知らないくせに馬鹿にしないでください!」
「なんでお前がいきなり切れるんだよ…。」
「うぇっ…ちょっとムカついて‥‥ごめん亮二。」
「いやっ、俺に謝られてもな。」
「ねぇ~、どっちが藤城さんの彼氏なのかしら?もしかして2人ともかしら?」
「ちっ、違います!2人は友人で…その…。」
「そう…友達ね。あなたに友達がいるなんて知らなかったわ。それに男の子だなんて…フフッ。」
嘉納さんは、自分と林君達を見比べて笑っている。
このままじゃ2人を嫌な気分にしてしまう…
自分も…嫌だ。
そう嫌なんだ…この気持ちは…。
お腹に黒くて重い石が溜まっていくような感覚。
これはきっと「嫌」っていう感情なんだ。
友達を馬鹿にされたようで、この神社を馬鹿にされたみたいで…
ここで出会った人達を否定されているそんな感じ…。
この気持ちは「嫌」っていう名前だなんだ…。
「なんの‥‥。」
「えっ?何かしら?もう少し大きな声で話してくれないかしら?」
「なんの御用でしょうか?ここは神社です。ここに来られる方は、比嘉丹様にお参りされる方や、御祈念をされる方々です。どのような御用件でしょうか?」
「えっ…巫女どうしたんだよ。」
小倉君と林君が心配して自分の顔を覗き込んでくる。
けど、そんな2人の優しさを置いて嘉納さんを睨む。
「自分は…自分の事は何を言っても構いません。けど‥友人やこの神社を馬鹿にするのは止めてください。あなたに‥‥そんな事言われる筋合いはありません。」
「なっ!あんた何様よ!」
「ただのアルバイトです。だけどもこの場を預かられて頂いている責任があります。他の参拝客の方にご迷惑をかける方は神社から出ていって下さい。自分にはここを守る義務と責任があります。」
「グッ…誰が…誰がこんな神社に来るのよ!ふざけんな!私に…私の事‥馬鹿にしてたくせに…あんたなんて…あんたなんて馬鹿にする価値もないわよ!せいぜいガキと遊んでなさいよ!」
そう言って嘉納さんは、カバンを振り回しながら帰ってしまった。
「はぁ!誰がガキだ!このババァ!おいっ!待ちやがれ!」
「りゅっ亮二!待って!追いかけてどうするのさ!」
「なんで止めんだよ!お前だってキレてたじゃねーかよ!」
「それはそうなんだけど…落ち着いてよ。亮二も藤城さんも。」
「えっ…落ち着いてますよ?」
「いやいやっめっちゃキレてたぞ。俺達よりキレてたよなぁ?」
「うん。そうだね。藤城さんの怒ってるところ初めて見た…。」
「案外怖かったな…ねーちゃんの次に怖いかも…。」
「いい勝負なんじゃないかな?」
「そうかもな…。」
2人は引き気味に自分を見ている。
そっそんなに怖かったのか?
それに「嫌」って分かったら止められなくて‥‥。
もしかして自分は…怒っていたのか?
「その自分…そんなに怒ってましたか?なんだか…胸当たりがムカムカして…それで気が付いたら‥‥。」
「「怒ってた。」」
「うっ‥すみません。なんだか止められなくて…。」
「謝る必要なんてないよ。藤城さんはあの女の人のに言われた事に怒ったんでしょ?俺と亮二が馬鹿にされてるみたいで。それに俺もちょっとキレちゃったし。お互い様だよ。」
「林君…でも自分が居なかったら嘉納さんは、ここには来なかっただろうし‥。」
「そんな事どうでもいいんだよ!あの女は一体誰なんだよ!くっそ…まだムカつくぜ‥。」
「まぁーまぁー亮二、アメ舐める?」
「あぁ!ガキ扱いすんな!」
「要らないの?」
「いる!」
怒っていたのか…。自分でも驚く。
「怒る」ってこんな感覚なんだ…。
胸のあたりはまだムカムカしているけど…。
良かった…。
林君達が側に居てくれていて、2人のやり取りを見ているだけで気持ちが落ち着く。
2人には、話しておかないと。
嘉納さんの態度の理由を。
「2人共さっきは、ありがとうございます。自分の為に怒ってくれて…。」
「別にお前の為じゃねーよ!俺がムカついたんだ!」
「そーそー。俺達が勝手にした事だよ。藤城さんがお礼を言うことじゃないと思うけど?」
「それでも‥それでもありがとございます。」
「「‥…。」」
「さっきの女性は、高校の同級生の方です。先日、同窓会で会いました。」
「その同級生がなんでここに?」
「2人とほとんど同じです。自分が神楽を舞っている動画を見たらしく来たようで…。」
「でも、なんであんな態度なんだよ。同級生なんだろう?」
「それは‥‥大学の推薦の事が原因だと思います。」
「推薦?」
「はい、あれは高校3年の一学期のこと‥‥。自分と嘉納さんは学校の指定校推薦の座を争っていました。正確に言うと自分は推薦希望していませんでしたけど、当時の担任の先生の勧めもあって推薦に応募しました。結果、自分は学校の推薦を貰う事ができました。」
「おぉー。さすが、藤城さんやっぱり頭良いよね!」
「でもさ…指定校推薦なんて貰える奴がなんで、予備校なんて来てんだよ?」
「…確かに‥亮二って偶に鋭いよね…。」
「おいっ!なんでこの流れで俺を馬鹿にすんだよ…。」
「ごめん、ごめん!つい。」
「ちっ‥たく。で、どうしたんだよその推薦は?」
「断りました‥。」
「「は?」」
「指定校推薦を取れたことを祖父に報告したら、藤城家の人間が一般入試でトップ以外の成績は認められないって言われた祖父の方から学校に断りの電話が入ったんです。」
「…そっそんな事あんのかよ…。」
「だから、今も予備校に来て勉強してるの?」
「はい‥‥。自分が断った事で嘉納さんが、指定校推薦を貰って大学に進学したんですけど…その、嘉納さんが「おこぼれ」で大学に入学するっていう噂が立ってしまって…それからあんな感じで‥‥。」
「それは…ちょっと‥‥。」
「でもよぉ…それって巫女は何も悪くないだろ?推薦を希望してた訳でもなけりゃ、自分で断った訳でもねーし…。お前があの女にそんな態度を取られる理由にはなんねーよ!」
!
「そっ…それは。」
「そうだよ!藤城さんは、なにも悪くない!だからさっ!もっと自信持ってよ!下なんて向いてないでさ!」
「そもそも、お前はそんな態度だから舐められるんだよ!もっとシャンとしろよ!」
バシッ!
小倉君はそういって自分の背中を強く叩いてくれた。
自分のせいじゃない‥・。
そうか‥誰かにそう言って欲しかったんだ…・。
凄いな…。
2人と一緒にいると色んな事に気が付かせてくれる。
自分は怒ってもいいのだと…。
自分はまだまだダメだけど‥。
いつか2人の友達だと胸を張って言えたらいい…。
「ありがとう。2人も‥‥。ハロウィンイベント楽しみにしてる。」
「うん!待ってるよ!」
「今度は俺らの曲、ちゃんと聞けよ!」
この気持ちに名前を付けるならば~ 猫屋敷いーりあ @c2h7b9i8
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この気持ちに名前を付けるならば~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます