第26話 まさかのバズり?~あやまらないわ~
「う…ん。あっ…あれ?」
「あら?起きたのね。おはよう依天ちゃん。」
「おっ、…おはようございます。」
どうやら自分は車の中で寝て、そのまま神社に送り届けられたらしい。
自分は居間の端っこに寝かされていて、薄い毛布が掛けられていた。
側には静華さんがクスクスッ笑いながら漫才を見ていた。
「あの市川さんは?」
「あぁ~今は社務所にいるはずよ。ふっ‥‥ふふふっ‥それより依天ちゃん。この2人面白いわ。私この2人好きかも知れないわ。」
「はぁ‥‥。」
「依天。起きたか。」
居間の入り口には、盆を持ったトヨさんが立っていた。
「あっ、はい。起きました。ありがとうございます。」
「そうか。これでも食って風呂入って帰ったらええ。」
「えっ?でも。」
「今日は、お前は休みだ。黙って食ってろ。」
「はっはい。頂きます。」
トヨさんはそう言うとどっかに行ってしまった。
お盆には、ご飯とお味噌汁。
メインには、サバの塩焼きといぶりがっこ。
味噌汁のいい匂いが体に染み渡る。
なんで、味噌汁って匂いだけでこんなに美味しいんだろうか。
畳みの匂いと相まって、緊張していた体が解れる。
あぁ…そうか、自分は今日の同窓会…。
緊張してたのか…。
だから、あんなに早く起きて、あんなに早く帰って来たんだ。
ここが落ち着く。
「ふふっ。依天ちゃんどうだった?同窓会。」
「着いた瞬間から、帰りたかったです。それと、シャンデリアが綺麗でした。」
「うん。」
「バイキングは豪華で美味しかったです。でも…やっぱりトヨさんのお味噌汁の方が好きです。」
「そうなの。」
「はい。いつもお昼と晩はここで食べさせてもらってるんです。だから、このお味噌汁を飲んでいると落ち着きます。」
「確かに、美味しいわよね。」
「静華さんも飲んだ事があるんですか?」
「えぇ。そうなの。私、明佳君と同級生だからね。」
「そうなんですね。初めて聞きました。」
「ふふっ。でも、依天ちゃんみたいに毎日飲んでた訳じゃないわよ。」
「あっ‥そうだ。静華さんメイクとか服とか…あの‥ありがとうございました。まさか、自分があんなに変わるなんて…;。」
「変わったでしょ?女の子は誰でも魔法を使えるのよ。」
「魔法ですか?」
「そう魔法。自身を付けられる魔法よ。いつでも、かけてあげるからいらっしゃい!」
静華さんは、そう言ってウインクをした。
自分は、それから黙ってご飯を食べてお風呂を頂いた。
髪を乾かして今に戻ると、そこには静華さんの姿はなくて、トヨさんに聞くと帰ったらしい。
もっと、真剣にお礼を言うべきだった。
いやっ‥もしかしたら「教えてください」と言うべきだったか。
でも、自分にはメイクが出来るとは思えない。
高校の成績も美術だけが「3」だった。
そう言えば、神楽を踊った時は、トヨさんがメイクしてくれたんだった。
…。
やっぱり、メイク勉強するべきかな?
そう考えながら、帰路についた。
部屋に入って自分のベッドに飛び込んだ。
「あっ…市川さんにお礼言うの忘れた。」
今日は塾の日。
昨日の同窓会が強烈だったのか、塾の教室が普通に見える。
そうそう、これが自分の日常なんだよな。
そう、しみじみしていると明るい声が降ってきた。
「ねーねーっ!この動画に出てんのっていーちゃんだよね?」
「へっ?動画?」
そう言ってルミちゃんが見せて来たのは、1つの動画。
そこには、自分が神楽を舞っている姿だった。
「はっ…えっなっ、なんで?」
「やっぱ、いーちゃんだよね!この動画すっごいバズってんの!」
「ばっ‥‥ばす‥えっ?」
「やっばぁ~い!再生回数5万回いってるじゃん!いーちゃんちょー有名人!」
「なんでこれが…。」
まさか、自分の神楽を舞っている姿がネット上にされされているなんて‥‥。
はずか…‥‥いやっ肖像権の侵害だ。
授業が終わって市川さんの元に急いだ。
塾の職員室は、授業終わりの学生と職員でごった返していた。
市川さんのデスクは、入って左奥にある。
市川さんは真剣にプリントと向き合っている。
うっ‥‥今、声をかけていいのだろうか?
後にすべきか?
でも‥‥明日会えるか分からないし…。
人の波をぬってどうにか市川さんのデスクの間まできた。
「おうっ!依天!どうした!」
「あの…勉強の事じゃないんですけど…これ見てください。」
そう言って、自分のスマホを差し出した。
「あぁこれ。知ってる知ってる!」
「知ってたんですか!なんで、自分に言ってくれないんですか!それに、これは肖像権の侵害です!なんか…運営とかに言って削除してもらわないと!」
「あぁー…そう言う事。んじゃあ、ごめんなさ~い。」
「はっ?」
「‥‥てへぺろ!」
「もっ…もしかして市川さんが上げたんですか!この動画!」
「俺っていうか…商店街の青年会。ちゃんと、ばっちゃの許可も取ったぞ!」
「‥‥自分には何も言いませんでしたよね?」
「だって、絶対拒否するだろ?」
「当たり前ですよ!なんで、自分に一言も言わないんですか!」
「今言ったじゃん!」
「今って‥‥。」
「ごめん。ごめん。でもさ、比嘉丹神社の神楽が再開だって商店街の奴ら喜んじゃって止められなかったんだよ!ごめんな!でも、綺麗に映ってるからいいだろ?」
「うぅ…商店街の方々に喜んでもらっているなら何も言えません。」
「だろ?じゃあ、この話はこれでおわり!気を付けて帰れよ!」
「うぅ‥…。」
はぁ…まさか、身内の仕業だったなんて。
それに、舞っている時も気が付かなかった。
うぅ…恥ずかしい。
でも、神社に参拝客が増えるならこれも良いかも知れない。
もんもんとしながら帰った。
「よう!有名人!」
「こらっ!亮二!囃し立てたら藤城さん嫌がるだろ!」
「2人共…見たんですか?」
いつもの通り、社務所の片づけをしていると、林君と小倉君がきた。
今日は、勉強を教える日じゃなかったはず‥‥。
「見たよ。すごいね。5万回も再生されるなんて。」
「俺達より先に、有名になりやがって何か生意気だな。」
「うぅ…自分で上げた訳じゃないですよ。」
「ほんとかよ!」
「ほんとうです。自分が上げると思いますか?」
「「思わない。」」
「よく考えたら、恥ずかしくてしょうがないんです。神社に来る時も人に見られているようで‥‥。」
「それは、ただの自意識過剰だね。気のせいだよ。」
「うぐっ‥‥」
「おいおいっ‥俺はそこまで言ってねーからな。勇人だからな。」
「亮二も言ってたじゃんか!」
あぁ…やっぱり2人にも見られてたか…。
まぁ、同じ塾の子達には見られる可能性が高いはず。
出来ればこれ以上、知り合いには見られたくないな。
「で…2人は今日、何しに来たんですか?」
「そうだった!コレ!俺らコレに出るんだよ!」
「これは…?」
小倉君が渡してきたのは、野外で行われるライブの様だ。
ハロウィンイベントのようだ。
「僕達このイベントで仮装して歌うから、藤城さんに来てほしくて!」
「ハロウィンイベントですか…。」
「そう!全員仮装して、音楽を楽しむんだ!このイベントでは人が結構くるから、俺らのバンドが注目を浴びるきっかけになるだろ?」
「へぇ~。楽しそうですね。」
「だろ!絶対来いよな!」
「はい。今度はきちんと2人の音楽聞きますね!」
「うん。そうしてね!じゃあ、また勉強会の時に来るよ!」
2人は自分にチケットだけ渡して帰って行った。
そうか…2人のバンドは進化し続けてるんだ。
すごいな‥。
そう思ってチケットを眺めていると、突然声が聞こえた。
「あら?ネットで有名な巫女さんってあなたの事だったのね。藤城依天さん?」
「えっ?」
そこには、同側会で会った嘉納さんの姿があった。
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