第25話 同級生との再会~あやまらないわ~
「久しぶりね。藤城さん。高校の卒業式以来ね。」
「嘉納さん。お久しぶりです。」
「フフフッ!どうしたの緊張しちゃって。顔色悪いわよ?あっ!これでも飲んだら?」
嘉納さんにそう言われ、渡されたのはワイン。
自分は、お酒は飲めない。
別に、飲めない体質とかじゃないけど‥‥。
なんだか飲もうという気には、ならない。
「あらっ?私のお酒が飲めないの?」
「いいっ‥いえ別に…。」
「おいおいっ!朱里止めろよ。藤城さん困ってるじゃんか!」
そう言って、木野君が自分からワインを奪って飲み干してくれた。
ありがたい…。
「あら?木野あんたって、藤城さんに気でもあるの?」
「はっ‥何言ってんだよ!お前、もう大人なんだから、こんな子どもじみた真似止めろよな!」
「あーはいはい。うるさい男ね。じゃあ、藤城さんまたね。お爺様によろしくね。」
「えっ…はい。」
彼女は、嘉納 朱里(かのう じゅり)自分のクラスメイトだった人だ。
今は、何をしているかは分からないけど‥‥。
どうして、お爺様の事を言うんだろうか?
彼女の藤城で、目の前がクラクラしだした。
高校時代に、彼女から受けた嫌味や嫌がらせの数々が、目の前に沸いきた。
委員を決める時は、決まって自分を指名してきた。
学祭の時は、女子のグループに命令して、自分を劇の主役にした。(あまりにも、ポンコツ演技で降ろされたけど…。)
体育祭の時は、スタートの直前で、足を引っかけられた。
何かと言えば、「藤城グループのお嬢様は、庶民の事なんてわからないでしょ?」と言われ、笑われてた…。
今、思い出せば、馬鹿馬鹿しいかもしれないけど‥‥。
当時の自分には、とても苦しかった…。
言い返す気力も無くて‥‥ただただ黙っていただけ‥‥。
自分の何が、彼女の気に障ったのだろうか?
彼女に、自分から何かをした事はないのに‥‥。
自分が、昔の事を思い出して下を向いていると。
自分の肩をそっと、触ってくる人がいた。
「藤城さん…大丈夫か?朱里の事、気にすんなよ。あいつ、今彼氏と上手くいってなくて…それで、ちょっと気が立ってるだけなんだ‥‥」
「…そうですか。」
つまり、自分は八つ当たりにあったのかと‥‥。
偶々、タイミングが悪かったと‥‥。
そうかも知れない…けど、言われる方が辛い。
その事は、きっと木野君には伝わらないのだろうな‥‥。
そう思っていても仕方がない。
静華さん達のご厚意で、似合わない格好までしているし、巫女のバイトまで休んだんだ。
そう思って、自分のスマホを取り出して、料理の写真を撮る事にした。
自分は、今、同窓会を楽しんでますよっと…。
チープなアピールだけど、無いよりもましか‥‥。
ルミちゃんだったら、喜んでくれそう。
特に、デザートの写真を多めに撮った。
閉会式の演説は、話の長い元副担任の先生だった。
元副担任の先生は、白髪交じりの髪を七三分けにして、涙を流しながら話していた。
お酒のせいなのか、声が大きすぎて音が割れて、何を言っているのか‥‥。
とりあえず、同窓会というミッションがクリア出来た。
多分…うん、多分クリアのはず‥‥。
さて、帰るか‥‥。そう思っていた時、木野君が、二次会を誘ってくれた。
「藤城さん!この後、二次会あるけど行かない?」
「いえっ…あの…。」
「あらっ?藤城さん二次会参加するのぉ?カラオケだけど‥‥。フフッ、高校の校歌だったら歌えるかしら?」
「おいっ!朱里!」
「いえっ…あの、明日も仕事が…。」
「そんなの皆、一緒よ。しかも、まだ14時よ。」
ううっ…そうだった‥‥。
どうやって断れば‥‥。
自分が考えあぐねていると、道路の反対から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「い~そ~ら~!おぉ~い!」
「へっ?」
「誰よ。あれ。」
声の主は、市川さんだ。
なんで、こんな所に‥‥。
そう思って自分は呆然としていると、市川さんが近づいてきた。
「依天!迎えに来たぞ!同窓会終わっただろ?」
「えっと…はい。どうしたんですか?」
「えぇ~。依天を心配して、迎えに来ただけだよぉ~。」
市川さんは、いつもの軽口口調だけど、ビシッとスーツを着て、髪まで整えてた。
「藤城さん!もしかして、彼氏?」
「違います。」
「えぇ~まじで?まだ昼間なのに迎えにくるなんて‥‥。」
「えっと‥‥なんて言うか…兄みたいなものです。」
「依天ちゃん、ひどぉ~い!(笑)」
市川さんは、いつもの軽口に加えて、お調子者の顔ものぞかせた。
自分は、ちょっと、黙っいろと言う目線を市川さんに送っておいた。
「すっすみません。迎えが来たみたいなので!帰ります!」
市川さんを出しにしても良い。
この場から、正確には、市川さんが登場した時から自分を睨んでいる嘉納さんから逃げることにした。
市川さんの腕を引っ張って、急いで車に乗った。
「うぇ~い。お疲れ依天!」
「なんでいるんですか?」
「えぇ?俺って怒られてんの?」
「いえ…助かりました。けど…どうして?」
「ばっちゃと静華から、迎えに行けって言われたんだよ。」
「トヨさんと静華さんですか‥‥。それは、助かりました。」
「だと、思った!あれっ二次会に誘われてたんだろ?」
「はい。どう、断ろうかと‥‥それにしても‥‥なんでスーツなんですか?」
「いやっスエットで行こうとしたら、ばっちゃ達に怒られちゃって!」
「はぁ…スエットじゃなくて良かったです。」
「だろ!」
市川さんそう言って、運転しだした。
正直、本当にありがたかったし、市川さんの姿を見た時、ちょっと嬉しかった。
市川さんには、絶対言わないけど‥‥。
「そうそう。静華が言ってたけど、その服はクリーニングに出せってさ。依天の着てた服は、静華がクリーニングに出しとくってさ。」
「そうですか‥‥ありがとうございます。」
「おうっ!俺じゃないけどな!」
「そうですね。」
「おいおいっもっと、優しくしてくれよぉ~。今日、依天の代わりに、社務所の仕事までしたんだぞぉ~。」
「それは‥‥ありがとうございます。というか、車の運転出来たんですね。」
「一応な!」
「‥…ペーパーじゃないですよね…。」
「‥…任せろ!」
そう言って、市川さんは真剣に前を見だした。
自分も、ペーパーだけど‥‥。
よく、人を乗せる勇気があるものだと思った。
車のシートに体を乗せていると、たった3時間が1日中の出来事のような気がした。
はぁ~疲れた‥‥。
あぁ‥‥せっかく静華さんに魔法をかけて貰ったのに…。
申し訳ないな‥‥。
そう思うと、どっと疲れが押し寄せて来た。
自分はそのまま眠ってしまった。
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