第24話 同窓会スタート~あやまらないわ~

大きなホテル。

ホテルの裏側には、チャペルがあって、結婚式も出来るみたい。

そう言えば、4年前に従妹の結婚式に出た以来、ホテルなんて場所に縁がなかった。

……。

‥‥…。

虚しい現実逃避が続かない。

私の目の前には、豪華な食事。

上品に流れる生演奏。

久しぶりに会う人達の楽しそうで軽やかな笑い声。

‥‥。

何1つ、自分には似合わない。

そう、感じていても、今の自分の姿がそうさせてはくれない。




「さぁ!依天ちゃん!シンデレラになる時間よ!お姉さん達に任せなさい!」

「えっ・・ やっあの!静華さんやっぱり、着替えたりするんですか?」

「そうよ!やっぱり、着替えたりするんですよ!んふふっ!」

静華さんは、とても上品に笑う。

けれども、今の自分には、男を魅惑し魅了する女悪魔リリスのように見える。

その隣で、メイク道具を構えている、奏さもリリスの手下に見える。


静華さんのライブハウス前で会った女性は、奏さん(かなで)と言ってメイクアップアーティストなんだそうだ。

「今日は、奏と一緒に、依天ちゃんがとっても大人になれる魔法を考えたから、楽しんでね!」

そう、静華さんに言われ、椅子に押し込められた。

自分には、2人を振り払えない‥‥。

お腹の中から、諦めの色と、期待の色が混じる。

自分が、実はちょっと、変身出来るのではないかと期待しているみたいで驚いた。



それが、2時間前。

静華さんと奏さんの魔法で、シンデレラに変えられた自分は、同窓会会場の壁の花…いやっ…壁の雑草に徹していた。

確かに、大人なれた‥‥。

外見だけは。

静華さんに選んでもらった服。

私が着ているのは、モスグリーンのドットの総レースワンピース。

小物や靴も履いて見た目だけは大人の女性だ。

メイクも、服に合わせくれた。

ライトブラウンで縁取られた目には、薄いピンクのラメなしアイシャドウ。

ハイライトをしっかり入れて、口紅には、ヌーディ。

爪には、薄いピンク色のトップコートまで塗ってくれた。

まぁ‥全部、受け売りで、必死で名前を憶えたに過ぎないけど…。


鏡を見た時、静華さん達は、本当に魔法なんだと思った。

メイクとファッショが人をこんなにも変えるなんて、美容系の人達を尊敬する。

けれども、外見をいくら変えても、中身が全く変わらない。

だって、会場に入ってすぐ、なんだかキラキラした雰囲気に押され、渡されたスパークリングワインを持って壁に打ち付けられたのだから。


楽しそうに笑う同級生の顔を見る。

‥…。

‥…‥…‥。

ダメだ‥‥誰1人分からない…。

あの人も…。

この人も‥‥。

しっ…知らない。

多分、向こうも自分を見ても誰か何て分からないはずだ。

今日は、特に…。

わからないだろうな‥。

きらびやかな会場。

天井から吊り下げられているシャンデリアは、部品に1個1個まで丁寧に磨かれている。

洋食の匂いが、会場中に広がって、お腹を鳴らす。


…せっ…折角参加したんだし‥‥。

ちょっとくらい‥‥食べてもいいかな…。

自分の前に広がっている美味しそうな料理。

赤ワインの牛すじ煮込み。

マッシュポテトとベーコン。

葉物野菜のアルフレッド。

魚介のコンソメスープ。

ラズベリーソースが乗ったパンナコッタ。

どれもこれも、美味しいそう…。


とりあえず、スープとパスタを取って、食べてみる。

立食式のため、座れない。

まずは、スープから。

魚介の味が、鼻から抜け、深い味わいが胃に広がっていく。

いつもは、味噌汁の味噌の風味が、鼻から抜けていくから、とても新鮮に感じた。

次は、パスタ。

アルフレッドは、フェトチーネにパルメザンチーズとバターを絡めて作るパスタだ。

パルメザンチーズの濃厚な味を葉物野菜が緩和してくれて、食べやすい。

‥‥そう言えば、朝から何も食べてなかった‥‥。

胃の中に、濃厚な味が渋滞して、衝撃を与えた‥‥。

自分は、取ってくる料理のチョイスを間違えたらしい‥。

急いで、ボーイさんに水を貰い飲んでいると、後ろから声を掛けられた。


「とっ‥藤城さんだよね?…あれっ?違った?」

「へっ?‥‥えっと‥‥。」

「学年成績3年間1位の藤城依天さんだよね?…すごく、変わったねぇ~!大人ぽくなった‥‥と言うか‥…別人?」

自分に声をかけて来たのは、紺のスーツに、カーキ色のネクタイをした男性だった。

‥‥どうしよう。

分からない…でも、向こうは自分の事を知ってるみたいだしな…。

どう反応すればいいのか‥。

「俺の事覚えてない?えっ‥‥と‥2年の文化祭委員で一緒になった、木野健(きの・たける)だけど…?覚えてないかな?」

「‥‥‥ごっ‥ごめんなさい。あの…高校の事は‥…あんまり覚えてなくて…すみません。」

「いやいやっ!頭下げないでよ!俺が悪いみたいじゃん!」


木野君は、両手を大袈裟に左右に振る。

‥‥何だか、市川さんみたいな雰囲気の人だな…。

「藤城さんって、同窓会参加すんの初めてでしょ?」

「はい…。でも、なんで知っているんですか?」

「えっ?だって、同窓会の連絡網で連絡くるでしょ?同級生同士で、BBQ行ったよ~とか、飲み会したよとか…来ない?」

‥‥来ない。

まさか、そんな連絡網があるとは…。

「もしかして、登録してないの?同窓会の手紙に書いてあるじゃん!教えてあげるよ!」

木野君は、親切にも自分をその連絡網に入れてくれるらしい。

‥‥正直、要らないんだけどな。

そう、思いながらも木野君の優しさを無下にできず、スマホを渡してしまった。


「ほいっ!これで、いつでも連絡が来るから!時間が、合えばイベントに参加とかできるから‥‥まぁ、ものによっては、お金かかるけど。」

「…ありがとうございます。」

「藤城さんって、今なにしてんの?俺はね、動画の編集とか、音声データの編集とか、まぁ言えば、PC関係かな!」

「私は…。えっと‥販売です。」

間違いではない。

神社の社務所で、お守りの販売・管理をしている。

…アルバイトだけれども…。

間違ってはいない‥‥はず。

「へぇ~!販売?なんか、イメージ湧かないなぁ!藤城さんって、頭が良いから販売じゃなくて、経理とか経営に直接関わってそうじゃん!」

「そうですかね‥。」

「よぉ!健!誰と喋ってんのさ!」

「おぅ!藤城さんだよ!学年1位の!藤城さん今、販売の仕事してんだって!イメージねーよな!」


‥‥知らない人が増えてしまった。

木野君と親し気に話をしている‥‥誰だろうか。

「藤城さんつったら、実家が大きい病院だろ?医者じゃねーの?」

「えっと…。」

「なになに?えっ!藤城さん!やっだぁーーー!久しぶり!!」

「あのっ…えっと‥!」

どうしよう‥木野君の友達が話始めてから、恐らく高校時代の知り合いが次々と話しかけてくる。

何故、この人達は自分の事を覚えているのだろうか?

左右前後から、話しかけられて目が回ってくる。

この人は、同じクラスだったかな?

この人は、同じ委員会だったはず…。

この人は‥。

この人達は‥…。

この集団は‥‥。


あぁ‥‥そう言えば自分は、こういう雰囲気が苦手だったような気がする。

自分の家が病院だから。

自分がその病院の跡取りだから。

自分が、学年でトップの成績だったから。

自分が、何を言われても反論をしないから‥‥。

あぁ‥やっぱり、自分はこの空気が嫌いだったんだ…。


「あらぁ?お得意のだんまりは、昔から変わってないのね!」

自分の全身を包み込む、喧騒をかき消すように鋭い声が後ろから切りかかってきた。

その声は、可愛らしいのに、トゲトゲしい色を帯びていた。

あぁ…この声は知ってる。

嘉納さんの声だ。

確か、自分の代わりに学校の推薦を取った人だ。

正確に言うと、自分が推薦を辞退したのだけれども‥‥。

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