4章01.教室内の争いを鎮めたのは
修学旅行の行き先は、本来であれば5つから選べるらしい。
だが、今回は日数が差し迫っていることもあり、国内行きの3つが除外され海外行き2つから選ぶ二択であるとの説明がなされた。
国内の団体受け入れはもうどこも締め切っていて、今からでは間に合わないとかなんとか。
海外は割とそこらへんがフラットで、受け入れてくれるそうなのだ。ちなみに、イギリスとインドの二択である。
「どちらにするか……それが問題だ諸君」
委員長がそう問いかけると、クラスの意見が主に男子と女子で真っ二つに分かれた。
「はいはい! 俺はインド! アサ○ンクリード最近ハマってんだけど、ああいう雰囲気っぽい気がするから!」
「分かるわ~。古代のロマンな」
そんな感じに男子がインドを所望すると、女子たちが一斉に反論をしてくる。
「イギリスの方が良いよ! お洒落だもん!」
「そーよ! 私らはガンジス川よりもモダンな街並みを眺めたいの!」
こうして始まった男女の争いは徐々にヒートアップし、段々と収集が付かないような状態へと移って行く。
「お前らみたいなのをなんて言うか知ってるか? ポカホンタスっつーんだよ! 古代の戦士の息吹を感じれないのか!」
「な、何よそれ! 謝ってよ!」
「謝るぅ……? あぁそうか、デ○ズニーに失礼だから謝らないとな! デ○ズニーに!」
「ムカつくぅ……そっちだって『古代の戦士の息吹(キリッ』とかただの厨二病じゃん! 絶対に精神が幼稚園とか保育園で止まってるっしょ!」
学祭の時の一致団結感はどこへやら、クラス内の男女対立は留まることが無く悪口の応酬である。
教科書や鞄を互いに投げ合うような騒動にまで発展し、「なぜ争うのだ」と委員長が頭を抱えていた。
中岡も窓の外を眺めて溜め息を吐くだけだ。
三代は取り合えず、飛び交う物が当たって志乃が怪我をしたりしないように手を引いて教室の隅の席に移動すると、事態が落ち着いて結論が出るまで一緒に雑誌を眺めることにした。
デートスポット特集、という謳い文句が目について、今朝の登校途中でコンビニでこっそり買っていた雑誌だ。
「……世間的なイベントが少ないせいか、特集って書いている割には良さそうなところが少ないな」
「確かにデートスポットは少ない感じだけど、イベントが無いってことはないよー。おっきなイベントがすぐそこまで迫ってるし?」
「何かあったか……?」
「バレンタイン!」
三代は「あぁ」と手のひらをポンと叩いた。そういえば、あと一カ月もすればバレンタインがあるのだ。
「期待しててね。”絶対に忘れられない”バレンタインにするからねー」
志乃がにこにこと笑っている。
お菓子作りが得意だということもあって、自信があるのだろうが……それにしても、”絶対に忘れられない”とは大仰な言い方だ。
「むふふー。どんな味のチョコをフォンデュにするか悩むなー」
「フォンデュ? とろとろのチョコをかけて食べる感じのお菓子を作るのか?」
「それは当日まで秘密。……ヒントをあげるとするなら、”チョコをかけて食べられるのはお菓子とは限らない”かな?」
どういう意味だろうか? お菓子以外に、何にチョコをかけて食べると言うのか?
三代には見当がつかなかったが、当日までそういう部分が謎であるのも含めて『期待して待っていて』なのも分かる。
というわけで、大人しく楽しみに待つことにした――その時だ。
三代はふいに、教室内が妙に静かなことに気づいた。周囲を見ると、クラスメイトたち全員が真顔でこちらを見ていた。
「……男女で争うのって、なんか駄目な気がして来た」
「……そうね」
「なんかその、悪かった。ちゃんと話し合おうぜ」
「私たちもごめん。……話し合って決めましょうか」
「俺たちも付き合うか?」
「冗談は顔だけにして」
「そっか……」
良く分からないが、男女の対立が解消したらしい。
今しがたの喧嘩がウソのように、修学旅行の行き先の議論は理性的に行われることになったようだ。
「藤原くんと結崎くんには感謝しなければな……。議論とは本来このように行われるべきものなのだ」
大人しくなったクラスメイトたちに委員長が安堵し、かくして話が進んだところ、最終的に男子が「仕方ない」と折れる事となり、イギリス行きで決定という結果になった。
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