4章:バレンタインに修学旅行、いろいろ忙し三学期編
4章プロローグ:始まる3学期と委員長の涙
残り僅かであった冬休みも穏やかに消化し、3学期がやってきた。
終業式の時と同じく、耳を傾けない生徒だらけの始業式を経て自分のクラスへと戻り、初日は3学期の予定などの話し合いがホームルームで行われたが……三代はその話を右から左に聞き流した。
大半の行事が自分と関係ないと思っている癖が抜けないせいで、テスト関連以外のことについてはあまり頭に入って来ないのだ。
なので、自分と同じく行事に関心が薄く、なおかつ彼女でもある志乃とノートを破って折り紙を作って見せあっていた。
「やったー鶴出来たー」
「俺は恐竜作った」
「ちょ、ちょっと待って、それどうやって作ったの?」
「これをこうしてだな……」
こんな風にほのぼのと遊んでおり、他のクラスメイトたちも連絡事項に飽きて来たのかざわざわと会話を始めている。
だが――誰かが”バン!”と机を叩いたことで、全員がハッとして一体何事かと振り返った。そこにいたのは深々と頭を下げる委員長だった。
「突然だが、君たちに大切なことを伝えていなかった。これはボクの落ち度でもある。……この謝罪で許して欲しい」
まるで汚職をした政治家の謝罪会見のような雰囲気だが、一体何についての謝罪なのかが分からない。
「委員長……?」
「もーいきなり何よ委員長」
「なんだよ急に。どうした?」
委員長に「一体どうしたのか」と言う問いかけを投げる者が続出する。すると、委員長は絞り出すような声を出した。
「……3月にある修学旅行の行き先なのだが、実はボクたちのクラスだけ決まっていない」
クラスの全員が目を丸くして驚き、「うん?」となった。
「行き先はクラスで決めることになっている修学旅行だが……あろうことかボクは忘れてしまっていて……話し合いをする機会を逃してしまっていた」
眼鏡を外し委員長が涙を拭った。
クラス内がシーンと静まり帰り、全員が驚いた表情のまま数秒が経過したが、担任教諭である中岡をすぐさまに一斉に見た。
こんな事態になる前に教師が動けよ、という意味が籠っている目だ。
「はぁ……」
中岡は見つめられていることに最初気づかず、しばしの間ぼうっと窓の外を眺めて溜め息を吐いていたが、まもなくして視線を感じ取ると額に脂汗を浮かべて取り繕い始める。
「お、おい待てお前たち。今朝の職員会議でうちのクラスだけ決まっていないことが分かって……私も教頭からかなり怒られたんだ。そんな責めるような目で見るな」
三代がバニーガール姿を目撃した時以来の焦りようであり、その姿から割ときつく教頭から叱られたのが見て取れた。
ちなみにだが、”誰も気づかなかった”というのには、当然だがきちんとした理由がある。
修学旅行については、2学期が始まってすぐの頃までは、実は中岡と委員長の二人も確かに覚えていたのだ。
だが、その後に起きた出来事に問題があった。
それは何かと言うと、三代と志乃の間に立った噂と、そこから間を置かずに電撃的に公表された交際だ。
生徒のみならず教職員にまで衝撃を与えたこの展開に気を取られて、忘れてしまったのだ。
その後に思い出す機会は幾度かあったものの、学園祭である種の伝説を作るゴタゴタが起きたことで今度はそちらの後始末等に気を取られ、そのうちに冬休みに突入してしまったのである。
クラスメイトの中には、他クラスや部活動での仲間たちとの何気ない会話で修学旅行の話題が出た時に「あれそういえば」と気づきかけた者もいるにはいたが……。
しかし、「でも、クラスメイトが誰も指摘しないのはおかしいし、もしかすると決まったのを自分が忘れたのかも知れない」とスルーしてしまっていた。
要するに、ドミノ倒しやピタゴラスイッチのように、修学旅行について誰も話に出さない状態が綺麗に構築されてここまで来てしまったのである。
「……とにかく、今日中に決めなければいけなくなっている。君たちの意見を聞きたい」
いつもは自由なクラスメイト達ではあるが、さすがに切羽詰まっているのを雰囲気から理解したらしく、皆が真剣な眼差しへと変わった。
三代は特別に焦るようなことは無かったが、それは既に志乃と二人きりで旅行を済ませる仲になっていたからだ。
(修学旅行って言っても別にな……。そこまで俺は気にしないな。仮に駄目でも、お金を溜めて志乃と二人でまた旅行に行けば良いだけだしな)
そんな感じに軽く捉えている。
なお、志乃も三代と似たような考えらしく、そこまで修学旅行については深く考えてはいなさそうで、「なんか大変そーだね」と薄めの反応であった。
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