3章EX.てい!

「俺の方はそれなりにお土産の評判良かったが、志乃の方はどうだった?」

「こっちもお土産の評判良かったけど……それ以上にどういう旅行だったかの話の方が喜ばれたかな?」


 マンションで志乃とまったりしていると、そんな話になった。

 どうやら、志乃のバイト先では、お土産そのものよりもお土産”話”の方が人気だったらしい。


「だから、はじめてのえっちは優しくして貰えたって自慢してきたー」


 と、志乃がドヤ顔で言い放った。

 なんと言えば良いのか……女の子という生き物は、内輪だと情事の話題を会話の華にしてしまうようだ。

 

 聞くのも話すのも恥ずかしいだけな気がするので、三代にはあまり良く分からない感覚ではある。


 だが、よくよく聞いてみると、女の子のそうした会話にはきちんとした理由があるらしい。


 情事を暴露されている事に羞恥を感じ、三代が朱に染めた頬を掻いていると志乃が続けた。


「ま、こういう話はけん制でもあるからねー」

「けん制……?」

「女の子にも色々あるってコトかな。恋愛関係だと女の子ってホントに複雑だから。……他人の彼氏を奪うのが趣味っていう子もいるからさ。だから、今回みたいに会話に出せる機会があったら、”彼氏とらぶらぶだから手を出す隙間なんか無いからね”って遠まわしに自慢するぐらい丁度よき」


 ――本当にそんな女性がいるのだろうか? と三代としては疑いたくもなる話だったが、しかし、実はこれは何らおかしい話では無かった。


 例えば、一人の男児を取り合う複数の女児、という場面を誰しも子供時代に一度は見たことがあるだろう。あの取り合いというのは、実は”単純にその男の子が好きだから”、だけで始まるものではない。


 皆に人気があるから、あるいは誰かが好きになった男の子だから、そういうのを見るとなんだか奪い取りたくなる――そんな理由で参加している子もいるのだ。


 こうした癖は大人になっても治らない事も多く、時たまに週刊誌やニュースでも話題になるような、女の側から仕掛けてくるケースの不倫等がまさにその典型である。


 つまるところ、情事の暴露はそれらの対策の一環であり、そう考えると三代にもすんなりと理解出来た。


「……ねぇ」


 志乃の言葉には主語が無かったが、耳元で囁くようなその言い方で、何を伝えたいのかが十二分に分かった。

 そろそろこのあたりで会話を切り上げて、体で愛を示す時間に移りたいのだと、そう言いたいのだ。


「分かった……」


 キスを繰り返しながら、まだ少しだけぎこちない手つきで志乃の服を脱がせる。すると、あの下着・・・・が姿を現した。


「ちゃんと前に言ったとーりに着けて来てるんだから。……今日はえっちしようと思ってたから」


 この下着でのえっちは三代とて楽しみにしていたことなのだ。それを準備は万端などと言われては、我慢など出来ようものか。

 だから、三代は志乃を押し倒――そうとしたのだが、「てい!」と逆に志乃に押し倒されてしまった。


「お、おい……」

「温泉の時は私が下だったから、今度は三代が下!」


 志乃はむふふと笑うと、指を絡めて三代の首筋に舌を這わせた。

 どうやら主導権を握りたいらしい。

 しかし、その行動はどこか不慣れなところが見え隠れする。


 志乃なりに思い描くえっちがあるのだろうが、自信満々な表情とは裏腹に拙いというか。


 とはいえ、志乃はついこの間まで処女であったし、男の子に触れるのも三代が初めてなのだから仕方が無いことだろう。


 気持ちに経験が追い付いていないのだ。


 まぁだが、そのギャップが三代には凄く可愛く見えたので問題は無く。

 それに、下から見上げる形になると改めて志乃の隠れた胸の大きさが分かるので、その眺めが妙な刺激に……。


 何はともあれ、二人は今日もまたイチャついたのであった。

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