3章終話.電話とぼっちだった理由

 温泉旅行が終わり、再びいつも通りの冬休みが戻ってくることになった。だが、その冬休みもそろそろ終わりが近くなっている。


 残りの数日は始業式が始まるまでの消化試合のようなものであり、名残惜しさは感じるが、3学期の準備も進めて行く必要もある。


 そうこうして、新学期にも備えつつ。


 旅館でお土産も買っていたので、バイト先で渡して回ったりもした。評判が上々といった感じで、三代もホッと一安心した。


 もっとも、人それぞれ好みは当然にあるので、「それ系のお菓子はちょっと苦手かも……」という人も若干名いたりはした。


 だが、そういった人達も家族や友達で好きそうな人がいるということで、「そっちにあげてもいいなら」と余さず貰ってくれた。


「藤原くんはなんというか……本当に地味に気遣いが出来るよね。前にお茶買って来てくれた時もそうだったけど、そういう男の子ってやっぱりいいなぁ。家族に紹介とかもしやすいしね……?」


 ふいに、小牧がなんだか不穏な発言をしていたが、三代は気づかないフリをした。こういった言動に反応すると変な方向に話が転がる――そんな気がしたからである。


 何気にこの行動はファインプレーであった。


 もしもここで反応してしまえば、付け入る隙があるとして再びに小牧がアプローチをして来る未来が待っており、三代はそれを見事に回避したのだ。


 こうした危機察知能力は、長年のぼっち生活の賜物かも知れない。


 ぼっちという生物は、他者への警戒を怠らないのが癖になっている。つまり観察眼が鋭く、他者の小さな機微に感覚的に気づくことが出来るのである。





 さて、諸々の用事を済ませた三代が、いつものように志乃の迎えに行こうと……したその時。

 久しぶりに父親から電話が掛かって来た。


「父さん?」


 あまり連絡を寄越さないのが三代の父親である。だから、何か緊急の用でもあるのかと思い、三代は神妙な面持ちで電話を取る。


 しかし、父親の様子は軽快であった。切羽詰まったような様子は一つとして無く。


「久しぶりだな! 元気か?」

「まぁそこそこ。父さんは……元気そうだ」

「俺は元気だぞ! それより、そろそろお前も学校の冬休みが終わる頃かと思ってな。……長期の休みでも遊びにまったく来ないとはな」


 どうやら、息子のことが心配になったから、というだけの理由のようだが……思い返して見れば、一年近く連絡を取っていなかったことに三代は気づいた。


 普段は連絡を寄越さないと言っても、そろそろ一度くらいは連絡して来てもおかしくは無い。そんな頃合いだ。


「遊びにって言われても……時間も掛かるし面倒だから、何か理由が無いと行かないよ」

「景色が良いぞ? オーロラとかも見れるしな」

「だとしてもアイスランドは遠すぎる。というか、そんな景色見せてくれないだろ。火山の調査で手一杯じゃないのか」


 三代の父は火山学者であり、現在は母を連れて現在はアイスランドの火山の調査活動を行っている。そして、何を隠そう、実はそれこそが三代が一人暮らしをしている理由でもある。


 順を追って説明すると、まず、小学校に入る前に三代は異国に住んでいた時期がある。


 だが、その途中で、我が子の多感な時期を母国で過ごさせたいと父母が考えたらしく、三代が6歳の頃に家族全員で日本へと一時移り住むことになった。


 それから時間は少しずつ進み、そして高校入学の時期になって。


 学者としてのフィールドワークへの欲が出たのか、机の上ばかりで物事を考えるのはよろしくないとして、火山の多いアイスランドでの長期調査を始めると父親が言い出した。


 その時に、日本かアイスランドの高校のどちらに通うかを選べと言われ。三代が選んだのが日本であった。


 ちなみに、日本残留を決めた理由は、新しい環境にまた一から慣れるのが嫌だったからである。


 日本に来たばかりの頃の三代は、日本語が上手く喋れなかった。現地で日本語学校には通っていたものの、実際の会話がすんなりと行かずに戸惑った。


 三代なりに周囲に馴染もうとしたし、友達も欲しかったから頑張った。以前にも触れたことがあるが、父親にねだって友達と遊ぶ為のゲームだって買って貰ったのだ。でも駄目だった。うまくコミュニケーションが取れなくて。

 

 生活をしていくうちに、今のように日本語は普通に喋れるようにはなった。しかし、その頃には一人前のぼっちの出来上がりである。


 だが、こうした経験を経ているからこそ、言語や文化の違いから来るコミュニケーションの行き違いがいかに大変かを三代は知っていた。


 日本の生活に慣れてしまった今、外国に行けばまた同じようなことが起きるのは明白であり、だからこそ残留を決めたのである。


 この知見が無ければ、恐らくは”夢の外国生活”等とのたまって両親について行き、そして現実とのギャップに苦しむ日々を送るハメになっていたに違い無い。


「……そういえばお前彼女とか出来たのか? 友達すら出来なくていつも一人だったからなぁお前。そこらへんが心配でな」


 余計な心配ではあるが、変に反発したり意地悪くウソを言う気も無い。三代はため息混じりに、志乃とのことを話すことにした。


「実は……」


 そうして全てを語り終えると、父親は「幸せそうなら良かった」と満足げに笑って電話を切った。全く騒がしい親である。


 まぁ何はともあれ、取り合えず三代は歩みを再開した。志乃が待っている――そう思うと、自然と小走りになっていったのであった。



~~~~

あとがき。


ここまでお読み頂きましてありがとうございます。

今回が3章終話となります。

ひとまず、この終話で、三代がそれなりにコミュ力高そうなのにどうしてぼっちだったのか、という理由をなんとか書くことが出来ました。


あとは1章2章と同じく、エピローグにあたるEXを書きまして、それから4章です。

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