3章08.後戻りは出来ません
「ふふっ……凄いねこれ」
ぐったりと力なく布団に寝転がる志乃は、使い終わって中がたぷたぷになっているコンドームをつまみ上げて笑った。
「こんなに出るものなんだねー」
「まぁその……確かに……凄い出たかも知れない」
「薄めたカルピスみたいで、なんか飲み物っぽいよね。……舐めてみようかな?」
「ば、馬鹿」
志乃が変なことを言い出したので、三代はコンドームを奪うとそのままゴミ箱に捨てた。放っておくと本当に試しに口にしそうな感じだったからだ。
「あー……」
「舐めなくて良い」
「でもちょっと気になるっていうか。どんな味するのかなーって」
どうにも志乃はコンドームの中身に興味があるらしいが……さすがにそれをして貰うには気恥ずかしさがあった。
肉体関係に至ったのに、何をいまさら恥ずかしがる必要があるのかと言う人もいるかも知れないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
今の三代の胸の内にあるのは、志乃と最後の一線を超えてしまった事への達成感と多幸感による安堵で満たされている。
つまり、更なる刺激を求めるようなつもりがまだ無く、変わった行為に対して興奮よりも恥ずかしさが先に来ていた。
三代は志乃の額に軽くデコピンを食らわせた。すると、志乃は「あう」と目を瞑った。
「まったく……」
「ごめんごめん。……でも、あのコンドーム見てたら本当にえっちしたんだなーって思えて。あたしの繋がりたいっていうワガママだけじゃなくて、三代もちゃんと気持ちよくなってくれたんだなって。……そう考えたら中身が可愛く見えて来ちゃった」
そう言われて、あまり強く注意も出来なくなった。
――好きだから肌を重ねたい。愛しているからセックスをしたい。それが叶って、相手も満足してくれた証拠がコンドームの中身だから、ついつい可愛く見えてしまって。
大好きな彼女からそう言われて、咎めることが出来る男なんてそうはいない。いるとしたら、元からそこまで好きでは無いからだろう。
少なくとも、三代は志乃が好きだからこそ、それ以上何かを言うことが出来なくなった。
「でも、びっくりしたー。本当に初めてって血が出るんだなーって」
行為を初めてすぐの状況を思い出したらしく、志乃は笑っていた。
結果的に何事も無かったから志乃も軽く話題に出したようだが、実際に目の前にした時には二人ともかなり戸惑っていたのが思い出される。
最初に気づいたのは三代だった。志乃の太ももにつつーと僅かに伝って流れた血を見て、慌てたのだ。
破瓜については知識として三代も知っていた。
ただ、優しくすれば大丈夫、という風な情報も見た事があり、だから志乃の負担にならないように優しくしたつもりだった。
しかし、それでも血が流れてしまい「どうして血が」とかなり焦ったのである。そして、三代に言われて志乃も「え? え?」と戸惑っていた。
「初めてでも血が出ないって子も結構いるって聞いたことあって、あたしも大丈夫かもって思ってたから『うそー』って感じ」
「俺も驚いたぞ。怪我させたんじゃないかって」
「あはは、大丈夫だよー。血は出たけど、優しくしてくれたから痛くは無かったし。言われるまであたしは血が出てるの全然気づかなかったもん。……まぁしいて言うなら、入ってた時の感触がまだ残ってて、それがちょっと変な感じはするけど、それぐらいかな」
もぞもぞと動いて、志乃が下着をつけようとし始める。
と、そこで三代は気づいた。
志乃がつけようとしている下着が、以前に自分がプレゼントしたものであることに。
「その下着……」
「これ? 三代がプレゼントしてくれたヤツだよー。本当はこれで攻めるつもりだったんだけど、その前になんとかなっちゃった。……どう? 似合ってる?」
志乃は下着をつけ終わると屈託なく笑った。三代はすぐに「似合っている」と断言して志乃の膝の上に乗せた。
「……次する時はこれ着けたまましてみる?」
自分で選んでおいて何なのだが、本当に扇情的な下着だと三代は思った。
恥ずかしながら、想像しただけで次が楽しみになってしまった。
だから、志乃の問いに迷わずに頷いて、それから優しく抱きしめて柔らかくて優しいキスをした。
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