3章06.覚悟が決まっている女の子は止まらない
30分はあっという間に過ぎた。過ぎてしまった。
「それではお部屋までご案内いたします。こちら本館ではなくあちら側の別館となりますゆえ、少々お歩き頂くことになります。お荷物は既に移させて頂いておりました」
仲居からそう言われ、再びの案内を受ける。歩く度に軋む音が出る風情のある渡り廊下を渡り、別館とやらに移るとある一室の前で仲居が止まった。
この部屋のようだ。
いかにも高級な檜で出来たその部屋の扉を開け、奥にある襖を開くと、広々とした和室に出た。15畳はある。
どうやら、支配人は三代たちが考えている以上に申し訳なさを感じているようだ。この広さは恐らく、本来は定員6~9名ぐらいの小規模団体向けの部屋である。2名の宿泊にここをあてがうのは過剰が過ぎる。
(さすがにこれは広すぎるな。もう少し狭くても良いと伝えた方が良いか……?)
三代はそんなことで悩んだが、既に敷かれている布団に志乃が笑顔で倒れ込んだのを見て、余計なことを言うのは止めた。
折角用意して貰った部屋だし、志乃も喜んでいるのだから、別にこのままでも良いと思ったのである。
専用の露天風呂を備え付けてある部屋という問題はあるが、それは自分が耐えれば良いだけだ。
「それでは私はこれで失礼致しますので。……あの、ところで、これは支配人からの
「言伝……ですか?」
「はい。もしも、じゃのんの口コミを書くつもりであった場合、出来ればそれをお控えお願い出来ないかと……」
ひそひそ、と耳打ちをするように仲居が言う。
じゃのんと言うのは旅行用の有名なサイトだ。
宿泊の予約等もすることが可能で、三代もそのサイトを経由してこの宿に予約を入れていた経緯があった。
だからか、そのサイトで使える口コミ機能を使わないようにと釘を刺して来たようだ。
なぜこの部屋をあてがわれたのかが良く分かる。評判を気にしているからなのだ、と。
――部屋が積雪で潰れて最悪だった。仮にそう書かれれば騒ぎになる可能性が高いから、良い部屋を用意するから黙っていて欲しいということだ。
なんだか……大人の汚い面を見てしまった気がした。
☆
まぁ何はともあれ。
仲居が去った後に、三代は温泉に再び入ることを考え始める。支配人に言われた通りに少し体が冷えているのも事実だからだ。
ただ、大浴場はもう閉まっている時間である。部屋に備え付けの露天風呂以外には入れない。
取り合えず、混浴になることは避けなければ。そうだ交互に入ることにしよう――と、三代がそんなことを考えていると、志乃が何喰わぬ顔で机の引き出しを開けた。
「ねぇねぇこれ見て~」
にやにや笑いながら志乃が手に持ったそれは、”アレ”――要するにコンドームであった。避妊具。どうやら……本当に宿側が机の引き出しの中に入れていたようだ。
「なんだろーねこれ? 宿の人は”アレ”って言ってたけど……っていうか、袋の上から触っても分かるぐらいぬるぬるしてる。……へぇこういう感触なんだ」
「し、ししし、志乃……そそ、それは……」
三代は顔を真っ赤にしてキョドる。すると、それが面白かったのか志乃はくすくす楽しそうに笑った。
「あたしこれが何か分からないんだけど、三代は知ってる? 知ってるって顔してるね。……お馬鹿なあたしには保健体育のおべんきょうが必要かも。いつもしてるちゅっちゅより凄いこと……今日はおしえてね?」
少しだけ、志乃の表情は面白がっている時の美希にも似ていた。
結果が分かっている悪戯をするような、既に勝利を確信しているかのような、そんな顔だ。
~~~~
あとがき。
教える >⊂
教えない>
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