3章04.温泉に行こう
温泉旅行当日の朝が訪れた。
三代は飛び起きると同時に急いで支度を済ませ、前もって荷物を詰めていた鞄を手にすると、駅まで向かった。ついつい小走りになってしまったのは、それだけ楽しみにしていたからだ。
しかし、些か気持ちが逸り過ぎたようである。志乃が乗った電車が到着する30分も前に駅のホームに着いてしまった。
――午前6時30分。
吐く息が白く、頬に冷たい空気が当たる。暖を取る為にマフラーの位置を少し上にずらすと、すぐにぬくぬくになった。
クリスマスプレゼントで志乃から貰ったこのマフラーは、本当にとても暖かくて肌触りが良い。
後に調べて分かったのだが、カミシア製はとても高い品であり、それこそ三代が購入した下着に負けず劣らずの高級品であるようで。
お金が全てではないが、しかし、それを知った時に三代は嬉しく思った。
いくらバイトをしているとはいえ、志乃は女の子だ。男の子と違って女の子は日用品にも当然にお金が掛かるし、初詣の様子を見ている限り、美希にも時たまにお金を使うのが分かる。
自分の分は自分で稼ぎたいと思ってバイトをしている、と志乃は以前に言っていた。
それは”家に負担を掛けたくない”という意味でもあるのだろうし、そこから、あまり裕福な家庭では無いということも分かる。
お金の消費を考えたのならば、適当に得意なお菓子でも作って誤魔化す方法だって考えることが出来たハズだ。
でも、志乃はそれをしなかった。
ちゃんとした恋人でありたい――そういう想いが伝わって来る。志乃が真剣に交際に向き合っていてくれているのが分かる。
泣きそうだ。自分はこんなに幸せで良いのだろうか。自分は良い彼氏でいてあげることが出来ているだろうか?
ふとした折に三代はそんなことを思ってしまう。だが、きっと大丈夫だ。こうして要所要所で自分を見つめ直すことが出来ているのだから。
少なくとも、志乃はこれ以上に無いくらいの良い彼氏だと思っているだろう。それは顔を見れば分かる。会えばいつもニコニコしている。
人は幸せを感じる時に笑う。今がとても幸せ、あるいはこれから先にもっと幸せになるかも知れない――そう思えている時に笑顔になるのだ。
☆
――午前7時。
電車が止まり、中から志乃が降りて来た。ニットのワンピースに黒タイツ。頭には毛糸の帽子で足元はブーツという格好で、レディース用の桃色のリュックを背負っている。
初詣の時とはまた違う、流行りのお洒落をして来ているようだ。
「お待たせ―」
「待ってないぞ。……今日も志乃は可愛いな」
「うん! コーデ頑張ったからね!」
「頑張ってくれてありがとうな。……ただ、それだと少し首寒いだろ?」
言って、三代はマフラーを解くと半分を志乃の首に巻いてあげた。一つのマフラーを二人で使うのである。
「ちゃんと使ってくれてるの嬉しい。てか、なんかあったかいー」
「俺の首で温めておりましたゆえ。殿」
「うむ。くるしゅうないぞー……ってあたし男じゃないから、それを言うなら殿じゃなくて姫ー」
「申し訳ござらぬ姫」
そんな感じで、二人は温泉へと向かうのであった。
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あとがき。
最近コーヒーを飲む回数が増えました。
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