3章01.おみくじ

 神社に着いて。鈴を鳴らし、お賽銭箱にお金を投げ、柏手を打って手を合わせたまま誓願した。


 何ら特別なことはない普通の初詣だ。


 ちなみに、願ったのは――”志乃との未来が明るいものでありますように”――である。月並みなお願いだとは思うが、紛れもない本心だ。


「おにいちゃんとおねえちゃんは何をおねがいしたの?」


 美希がそんなことを聞いて来たので、三代と志乃は素直に応じた。


「美希ちゃんのお姉ちゃんとずっと一緒いられますようにって祈ったかな」

「あたしも三代とずうっと一緒にいられますようにってお願いしたー」

「はぁ……そんなことだろーとおもったけど」


 やれやれ、と美希はため息を吐いて首を横に振った。こんな小さい子に呆れられるほどにバカップルをしてしまっているらしい。


 反省は……する必要は無いだろう。”好き”は隠すよりも前面に押し出した方が良いに決まっているからであり、それを証明する実例が世の中には多々ある。


 一つ例を挙げるのならば、例えばそれは、お年寄りになっても喧嘩一つせずイチャついている老夫婦である。若い頃からずっと好きを押し出して、それで上手く行っている。何十年も。


 対して――逆に互いの気持ちを隠すのは、これは上手く行かないケースが多い。どこかでお互いの想いへ対して疑心暗鬼を抱いて喧嘩となり、最終的には不仲に至って別れることが多いのだ。


 えてして男女の仲というのは、お互い好き好き言い合っている人達の方が上手く行くし、長く続くものである。


「甘くてはきそうなのはもとからわかってたから……我慢するとして美希おみくじ引きたい」

「おみくじか……」

「そういえばまだ引いてなかったね」


 神社に来て真っ先に誓願を行ったので、おみくじにはまだ手をつけていなかった。今年の運勢を占う大事なものであるから、美希の希望通りに引きに行くことにした。





 おみくじの結果を伝えると、まず志乃と三代は大吉であり、特に恋愛運が両者ともに素晴らしい結果であった。


 三代の方は『交際相手がいるのであれば、その方は今後の人生においても現れないほどの良縁なので決して手放さないように』。志乃の方は『今の交際相手とは喧嘩もせずに生涯を添い遂げるでしょう』。


 なんとも幸先が良い運勢に二人もほっこりと笑顔になっていた。


「おねえちゃんとおにいちゃんは大吉なのに、どうして美希だけ”末吉”なの……?」


 だが、大吉を引いたのは三代と志乃の二人だけであって。美希はと言うと微妙な”末吉”であった。


「……おかねの運がひどいよ。よくばれば倍うしなうから気をつけろってあるんだけど」


 金銭運に文句があるようだが、美希の日頃の行動を考えれば、欲張らないようにしようというのは丁度良い戒めではある。


 だが、当人の美希には受け入れがたかったようで、今にも泣きそうな顔をしていた。

 なんだか……その姿がとても可愛そうだったので。三代は美希にもう一度引かせてあげることに。


「おにいちゃんホントにいーの……?」

「きっと次は大吉が出るよ」

「やったー!」


 五百円玉を渡すと、美希は元気良くおみくじ売り場に走って向かった。


「前にも言ったけど、美希にそこまでしなくてもいいよー。調子に乗るだけなんだから」

「そうは言っても子どもだしな」

「優しいんだから……」


 もう、と言いながらも志乃はどこか嬉しそうだった。


 本当であれば美希に対して厳しくしたいのだろうが、その気持ちよりも、彼氏の優しいところに暖かな気持ちになってしまう方に軍配が上がったらしい。


「それより、なんか今日の志乃は凄く綺麗で可愛いな。いつもと少し違う。かんざしも良い感じだ」

「そ、そう?」


 まぁその、なんだかんだといちゃつきモードに入り、気づいたら二人は手を握っていた。


「大吉でたー!」


 にこにこ笑いながら、美希が戻って来た。次はきちんと大吉が出たようだ。

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