3章:なかよし冬休み編

3章プロローグ:年末年始

 12月30日、31日の二日間のバイトは大忙しであった。年末ということに加えて、明日明後日の1日と2日が休館日ということもあり、家族連れが大挙して押し寄せて来たのである。


 どこを見ても人人人――人だらけ。

 そして、お客様が増えるということは当然に館内も汚れるので、三代とはじめの仕事も目が回るほどであった。


 すぐにゴミ箱は溢れ、水槽のガラスも指紋だらけになり、落とし物も頻繁に発見しつつ、迷子になった子どもと一緒に親探しなどなど……。


 ――気が付けば勤務時間が終了。それぐらいあっという間に時間が過ぎた。さしもの忙しさに、三代もニヤつく暇すら与えられず。


「藤原くん、それじゃ……」

「じゃあな……」


 ふらふらになりながらはじめと別れてマンションへ帰ると、お風呂に入りゆっくりと疲れを癒して一人ベッドに倒れ込む。


 明日の1月1日の初詣は一緒に行く約束をしているが、年末については志乃も家族と過ごすらしく会う予定は無い。


 少し残念には思うものの、家族との時間も大切であるのも分かる。こればかりは仕方が無いだろう。


 まぁ何はともあれ。

 年末年始のバラエティ続きで深夜アニメの放送も無いので、今日は特にすることも無いとして三代がベッドの中で丸まっていると、ふいに志乃から画像付きの連絡が来た。



 ――今日は美希がちょっと可愛い。><



 画像に映っていたのは、楽しそうな笑顔で年越し蕎麦を食べている美希だ。


 美希は調子が良い悪戯っ子ではあるが、こうして画像だけ見れば天使のように見える。志乃の妹だけあって基本は可愛い女の子なのである。


 その奔放な性格も、この可愛さのお陰で、恐らく周囲にも好意的に受け止められているのだろう。だからこそ、本人も自由に動くことに躊躇いを感じないのだろうから。



 ――ところで、明日の初詣なんだけど……美希も行きたいって言い出して。どうしよう。お父さんとお母さんと行きなよっては言ってるんだけど……。



 続いてそんな文面が送られて来た。

 どうやら、三代と志乃の初詣に付いて行きたいと美希が駄々を捏ね始めたようだ。


 三代はすぐに「別に構わないよ」とチャットを返した。温泉に行く時には二人きりが良いが、初詣くらいならば美希が一緒でも別に問題は無いからだ。


 美希がいても構わないとしたのには、きちんとした理由がある。


 実は初詣については、三代は志乃が自分とではなく家族と一緒に行く場合も当初想定していた。年末を家族と過ごすのだから年始もそうかも知れない、と。


 そんな折に降って湧いたのが初詣デートであった。


 要するに棚ぼたのようなデートであるので、多少不都合が起きても目くじらなど立てたりする気が起きないのである。


 それにそもそも、三代は美希のことをそこまで嫌っていない。むしろ、ある意味で好ましい性格だとすら思う。


 と、まぁそういうわけで、拒否する理由は無いので快諾したのである。





 翌朝。

 志乃と美希を迎えに駅まで行くと、電車から出て来た二人は振袖姿だった。


 美希は服装が違う以外に雰囲気に変わりは無い感じだが……志乃の方はいつもと違ったなんともいえない艶やかさがあった。


 恐らくその原因は髪型。シュシュを使って後ろでまとめて、かんざしを差しているのだが、そのせいでうなじが見えている。


 それが艶やかさに繋がっているようだ。


「久しぶりだね、おにいちゃん」


 ニヤニヤしながら小走りで近づいて来た美希が、ちょいちょいと手招きをして来た。三代はしゃがんで耳を傾ける。すると、


「美希のいったとおりに、あのプレゼントでせいかいだったね。おねえちゃん、おうちであの下着を眺めてずっとニヤついてるよ」


 そんな情報を美希は教えてくれた。


 そこまで嫌なプレゼントだとは志乃に思われていない、というのは渡した時の反応から気づいていたが、かといって眺めてニヤつくほど喜ばれる程とは思ってもいなかったことだ。


 喜んで貰えたのなら何よりなので、三代としても嬉しい誤算である。


「……二人ともどーしたの?」


 こてん、と志乃が小首を傾げる。本人に聞かれると駄目な感じの話であるので、三代と美希の二人は手をぶんぶんと振って「なんでもない」と誤魔化したのであった。

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