2章EX.冬休みは始まったばかり

 終わって見れば、二人で過ごしたクリスマスイブは、ドラマや漫画のような劇的なハプニングが発生したりはしなかった。


 しかし、突発的で特別な事態なんか起きなくても、とても充実して満たされた一日であった。それ以上を望めば罰が当たるというものだろう。


 まぁともあれ、冬休みはこうして始まりを迎える。

 そう――まだまだ始まったばかりだ。

 年末年始は当然のこと、予定している温泉旅行など楽しいイベントが待っている。





「おぉ……きちんと入っている」


 26日の午前中。

 銀行が開くと同時に三代が預金を確認しに行くと、きちんとバイト代が4万弱ほど振り込まれていた。

 12月1日から始まったバイトなので、半月分ほどでしかないが、それでも妙な感動を覚えた。


 彼女ともっと楽しい毎日を過ごしたいという思いで、自らが働いて得たお金であるからこその、いわゆる達成感があったのだ。

 彼女の為に頑張った証明だからこそ嬉しかったのだ。


「よしよし……」


 三代は満足げに頷くと期待に胸を膨らませた。


 年末年始の初詣も楽しみだし、冬休みの終わり頃に行くことにした温泉も楽しみだ。もちろん日々のいちゃいちゃも随時の楽しみである。


 気持ち悪いくらいの笑顔でバイトも行い、周りから「君大丈夫か……?」「幸せそうな顔しちゃって……」「藤原くんと遊びたかったけど、彼女さんいるんじゃ誘えないしなぁ……」等々と色々言われたが、それらは全て右の耳から左の耳に抜けて流れて行った。


 些か浮かれ気味ではあるが、少しくらい大目に見て欲しい。恋人との楽しい思い出が待っているとあれば、ニヤついてしまうものだ。


 大人だって、夫婦間で何かしら良いことがあると分かれば、仕事中に急にニヤニヤしたりするのである。


 好き合う相手愛し合う相手がいるのであれば、こういう風になるのは人間として自然なこと。何もおかしいことではないのだ。

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